第23話

「えっと、降りるって美澄がか?」

「えぇ、ということで今回は岸野さんの勝ちで私がプラス三、岸野さんがマイナス三……ですね」

「あ、あぁ……」



 なんだか拍子抜けしてしまったな。

 美澄のことだからもっとすごい役が出来ていると思ったんだが。



「一体どんな役なんだ?」

「いえ、何もなしですよ。役なし……」



 楓が見せてくれた手札は確かにペアが一つもなかった。

 フラッシュを狙っていった痕跡は残っているものの完全に作ることには失敗した感じだった。



「それでは次に行きますか?」

「そうだな……」



 もう一度俺がトランプをシャッフルしようとした瞬間に玄関がノックされる。



「俊兄、遊びに来たよー! 熱いから早く入れてー!」

「……ハルか。どうする?」

「良いと思いますよ。三人でも出来ることですから」

「そうだな」



 俺は玄関の方へと向かっていく。



「遅いよー、俊兄! って美澄さんも来ていたんだね。こんにちわー!」

「こんにちは、えっと、ハルさん?」

「ハルでいいですよー」

「では私も楓でいいですよ」

「わかりましたー! では楓さん、お邪魔しても良いですか? それともお二人の空間を邪魔するのはよくなかったですか?」

「大丈夫ですよ、この部屋はクーラーが付いていて涼しいからいるだけですので」



 きっぱりと言ってくる楓。

 確かにそうなんだけど、もっとこう……言い方があるんじゃないかな。


 そんなことを思っているとハルは何かを察したようで俺にだけ見えるように謝ってくる。


 まぁこういうときもあるよな。



「それよりも中に入るんだろう? 今ちょうどポーカーをしていたんだ。ハルもするか?」

「えっ、俊兄がポーカー!? 俊兄って賭け事すごく弱くなかった?」

「いや、今は一勝してるぞ!」

「まぁ、三回やって一回だけですけどね」

「負け越してるじゃん」



 ハルに苦笑されてしまう。



「いいよ、ハルが俊兄をボコボコにしてあげるよ!」

「いえ、岸野さんを倒すのは私の役目です」

「……俺は倒されるの前提なんだな。まぁいいか。それなら一度カードは全部まとめるぞ。ポイントは……」

「それは継続しましょう。問題ないはずですので」

「わかった。じゃあ、一番強かったやつがプラス二、真ん中はゼロ、負けたやつはマイナス二。降りた場合はマイナス一だな。ハルも大丈夫か?」

「うん、理解したよー」



 それならと俺は全員にカードを五枚ずつ配る。

 そして、自分の分を開いてみる。


♡5、♤7、♢10、♤Q、♡K


 見事のバラバラだった。本音を言えばキングを残して全部変えたいところだけど、それだと俺に全く手が入っていないことがばれてしまう。

 さて、どうするか……。



「俊兄、どうだった?」



 ハルが普通に聞いてくる。



「そうだな、まぁそこそこって感じだな」

「ふーん、悪い手だったんだね」



 にっこり微笑むハル。

 もしかして、俺の反応で手の内を探ろうとしているのか?



「まぁ、そこまでいい手ではないからな」

「うんうん、わかったよ。五枚交換しても良いと思うよ。それで楓さんはどうかな?」



 俺の手が全く役がないことを見透かされてしまった……。

 まぁ兄妹だからな。仕方ないか。

 俺の方もハルにはあまりいい手が入っていないことが検討ついていた。


 ハルは良い手札が入ると不思議とおとなしくなる。

 それが今は結構饒舌に話しているとなると手はよくないはずだ。



「私はそこそこいいですよ」

「うーん、楓さんはわからないねー」

「岸野さんほどわかりやすくないですから」



 俺はそんなにわかりやすかったか?

 落ち込みそうになったときに楓が言ってくる。



「私は三枚交換しますね」



 楓が手札から三枚のカードを裏向けでテーブルに置いた。

 それを見る限りだと最低でもワンペアか……。



 楓に三枚のカードを渡す。

 それを確認した楓は無表情のままだった。


 本当に読めないな……。



「それじゃあハルは二枚交換ね」



 ハルはカードを二枚捨ててくる。



「あっ、そういえば捨てたカードって後から山札に戻すの?」

「いや、戻さないぞ」

「ふーん、そうなんだね」



 ハルはにやりと微笑みながらカードを二枚受け取った。



「うんうん、良い感じだね」



 ハルが嬉しそうな表情を見せていた。

 多分ブラフだろうな。

 むしろハルが本当に良い手札を引いたときはおとなしくなるからな。


 ただ、それを楓が気づくかどうか……。



「よし、それじゃあ俺は四枚変えるぞ!」



 どうせハルにはばれているんだ。それならここは勝負に出よう。


 俺はカードを四枚捨てて新しく引き直す。


 引いたカードは♡3、♡7、♧Q、♧Kだ。


 とりあえず最低限の役は出来たな。

 あとは勝負をするかどうかだが……。


 俺は楓とハルの顔を一瞬見る。


 その瞬間にハルは言ってくる。



「ハル、降りるね。勝負したらハルは最下位だから」



 そう言いながらハルは手札を見せてきた。


♢2、♤3、♤4、♡6、♤J


 見事にバラバラだった。

 おそらくハルのことだからスペードのフラッシュを狙いに行ったのだろう。



「決断が早かったんだな」

「うん、だって俊兄に何か役が入ったでしょ? 多分楓さんもワンペア以上あるし、このまま勝負してもハルの負けだもん」



 今のちょっとした反応で俺の手を読まれてしまったようだった。

 これは何か手を打たないとこれからも全て読まれてしまうことになりそうだ。



「それじゃああとは勝負だな」

「えぇ、そうですね」



 俺と楓は同時に手札を見せる。


♡3、♡7、♧Q、♧K、♡K

♢3、♡J、♤K、♤A、♡A


 どちらもワンペア。つまりカードの強さで決まるわけだけど……。



「ま、また、負けた……」

「岸野さん、本当にきわどいところで負けるのが好きですね」



 楓が小さく微笑む。

 もう点数的には楓に勝つことは難しいけど、それでも最後くらいは楓に勝ちたい。

 そう思いながら再び俺はカードを組み始めた。

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