第7話
土曜日になり、俺は以前も行ったショッピングモールへとやってきた。
家が隣同士なのだから、出発する時は一緒に出たらいいと思うのだが、今回の目的が楓につきまとう男子を諦めさせること。
すでに楓には付き合っている人間がいるということを見せつけることにある。
それならばショッピングモールで待ち合わせた方がそれらしくなるんじゃないかということで、わざわざ時間をずらして家を出てきた。
待ち合わせ場所はショッピングモールの入り口。
大きな柱時計が目印となる場所で他にもたくさん待ち合わせをしている人がいた。
そして、そんな中一人優雅に佇む楓。
白のトップスとパステルカラーのスカートが彼女の持つ清楚感を更に際立たせ、周りにいる人からも一目置かれていた。
男女問わずにチラチラと楓に視線を向ける中、彼女はそんなことまるで興味ないと行った感じにぼんやり人の行き来を眺めていた。
するとそんな中、勇敢な男子二人が楓に声をかけていた。
「ねぇ、君、一人なの? もしよかったら俺たちと一緒に――」
「いえ、私は待ち合わせをしてますので、遠慮させていただきます」
「でも、君のような子を待たせるような相手だろう? そんな奴よりも俺たちの方が――」
厄介そうな相手だな。
俺は少し早足気味に楓の方へと向かっていく。
「待ったか?」
「……えぇ、すごく待ちました」
手を上げて楓を呼ぶと彼女は安心した表情を一瞬見せたあと、俺のそばに寄ってくる。
「そこは、今来たところっていう場面じゃないのか?」
「だって、本当に待ちましたから。岸野さんがもう少し早かったら何もトラブルがなかったんですよ……」
そうは言っても待ち合わせの時間は十時で今は五分前だ。
遅刻はしてないと思うんだけどな。
「まぁ、トラブルの件はすまなかったな。それでお前達は一体なんなんだ?」
楓に絡んできた男達を睨みつける。
すると、男達はがっかりした様子で去っていった。
「なんだ、男付きか……」
「あれだけの美人だ。当然か……」
そのあまりにもあっさりした去り際に俺は呆然と眺めていた。
ただ、楓は少し驚いていた。
「あんなに簡単に行ってくれるんですね……」
「あぁ、誰も男連れに声をかけようとしないからな」
「……これからも岸野さんに頼むのもいいですね」
単なる男よけとしてだけど、楓は真剣に考えているようだった。
「そんなことよりデートっぽく見せるんだろう? どこから見て回るんだ?」
「そうでした。でも、どこを見て回るのがいいのでしょうか?」
「……そういったことは詳しいんじゃないのか?」
「いえ、私もこういったことは初めてですから」
流石にこれは予想外だったかもしれない。
ただ動き出さないことには怪しまれるだろう。
「仕方ない、とりあえずどこか行く……というより見て回ることを優先しよう。良いところがあれば入る感じで……」
「わかりました」
俺が誘導していくことになりそうだな。
あまりこのショッピングモールのことは詳しくないんだけどな……。
苦笑を浮かべながらまずは近くにある店へと足を運ぶ。
そこは女性服の専門店だった。
「ここは、服屋ですね。何か買いますか?」
「……俺が買うと思うか?」
「思いませんよ。もし買われるなら距離をあけようと思いました」
まぁ、そうなるよな。
「そういう美澄は何か見ないか?」
「いえ、こう見えても服って結構な値段がするんですよ。あんまりポンポンとは買えません」
ただそうは言っても服は気になるようでチラチラと店内を眺めていた。
「まぁ見て回るのが目的なんだから、見てきたらどうだ?」
「そう……ですね。わかりました、それでは少しだけ見させてもらいます」
楓は俺に軽く頭を下げた後、店内に入っていった。
本当の彼氏なら一緒についていって、服についての感想とかを言ってあげるべきなんだろう。
流石に今は俺がいたらゆっくり服を見られないだろうと、今回は店の外で待っていた。
店内で嬉しそうな表情で服を見ている楓の姿が見える。
その姿は今まで見たことないような楽しそうな様子だった。
それを見ながらしばらく待っていると楓が戻ってくる。
「お待たせしました」
いつもと同じような反応を見せてくる楓。
ただ、その表情は少し綻んでおり、それを見た俺も小さく笑みを浮かべていた。
「むっ、どうかしましたか?」
少しだけ頬を膨らませる楓。
「いや、そんな表情を出来るんだなって思ってな」
「私をなんだと思っているのですか?」
「それよりも何か買ったのか?」
楓の手に握られている大きな袋を見ながら聞く。
「はい、ちょうどいいものがありましたので」
「それは良かったな」
嬉しそうな笑みを浮かべる楓。
すると突然大きな鐘の音が響いてくる。
これは正午を伝えるものだった。
「そろそろお昼ですね」
「何か食うか?」
すると楓が服の方に視線を落とす。
「そのくらい俺が払うぞ?」
「だ、ダメです。こう言う時は割り勘にするべきです」
「普段から料理を作ってもらってる礼だと思ってくれ」
それを伝えてもまだ渋っていた楓。
「とにかく、まずは店を見て回るか」
「……そうですね」
食べるものが決まっていないのに騒ぐことでもないだろう。
そして、俺たちはいくつかの店を見て回った結果、フードコートで食事をしていた。
比較的安価で買うことができ、これくらいならと楓が奢られてくれるギリギリのラインがこのフードコートだった。
「結構美味しいんですね……」
ホットドッグを頬張りながら楓は驚きの表情を浮かべていた。
「ここのフードコートは飯がうまいと有名らしいからな」
俺自身も食べたこと自体はなかったが、山北がよく絶賛していた。
まずハズレはないだろうと思っていたが、想像以上に美味かった。
これはまた山北には感謝しないといけないな。
そんなことを思っていると遠目に山北らしい人物の姿が見えた。
いや、気のせいだな。
よく考えると山北は週末はよくここに来ているとか言っていた気がする。
流石に見られたら大変なことになるな。
「どうかしましたか?」
楓が不思議そうに聞いてくる。
「いや、なんでもない。それよりも昼からはどこを見て回る?」
「そうですね」
楓が周りを見て回る。
そして、その視線がある場所で止まる。
そこは可愛らしいぬいぐるみが置かれている店だった。
「ぬいぐるみが欲しいのか?」
「い、いえ、そんなことないです。それよりもあっちに行ってみましょう」
慌てて楓が指さす。その方向にはゲームセンターがあった。
「ゲーセンか……」
「い、いえ、そういえばあそこは男女で行く人が多いなと思っただけです。行きたいとかそういうわけじゃないですよ」
そわそわとしながら顔を背ける。
「それなら行ってみるか」
席を立ち上がると俺たちはゲーセンへと足を運んでいく。
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