3.剛魔凶、散る

(これは現実なのか……?)


 魔王グランダルは目の前の光景に困惑していた。


「ギブ!ギブギブギブギブギブギブギブギブ!ギブッ!お願いします!ホントにヤバイ!ギブアップ!ギブアップ!負け負け負け負け負け負け!もう負けですって!」


 あの剛魔凶ゴロバズが情けなくもマスクマンに許しを請うていたからである。思いっきり逆エビ固めを決められて。

 魔界の最高戦力の魔凶がこの様な姿になる以上事態。いったい何が起きたというのだろうか?

 それはほんの少し前の出来事である──。



   ※



 戦いの火蓋が切って落とされ、剛魔凶ゴロバズはミカミに飛びかかった。


「喰らえッ!奥義ッ!【獣魔撃掌破】!」


 獣魔撃掌破──六本の腕に全魔力を込め、相手に放つこの技は相手の肉体、その周囲全てを粉砕するゴロバズの奥義である。まさに脅威そのものという技であるが──。


「で、終わりか?」


『!?』


 ミカミ、無傷ッ!


「バ、バカな⁉︎俺の獣魔撃掌破を喰らって無傷だと!?」


 奥義を喰らったはずのミカミは無傷であった。しかも、あろうことか着ているジャージもその周りも何事もなかったかのような状態なのだ。

 本来であれば魔王の間──いや、この城を含めて技の衝撃に耐えられずに吹き飛んでいるのだが、現状はこれである。


「……奴は技そのものを無力化したというわけか!」


 魔王は苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。


「んじゃ、こっちの番だな、オラッ!」


「なっ⁉︎ガハッ、グェェェ……⁉︎」


 ミカミはゴロバズの胸元にドロップキックを放った。それを喰らったゴロバズはその場に膝をつく。


「まさか……」

「そんな……」

「ありえぬ……」

「しかし……」

「なんと……」


 魔凶達もこの現状を飲み込めずにいた。

 そして、それを一番飲め込めていないのはゴロバズ自身であった。


(な、なんだ、ただのキックだというのにこの威力はいったい……⁉︎かつての戦いでもこのような奴はいなかった──いや、あの時代よりも己を磨き、更なる力を得た俺がこのようになるわけがない、ないというのに……!)


 胸部を押さえたゴロバズはこの現実を受け入れられずにいるが、堪らず俯せになってしまう。


「おいおい、背中見せるのは関心しねぇぜ」


「な、何──」


 ゴロバズが気付いたときには全てが手遅れだった。両足首を掴んだミカミがしゃがみ込む体勢に入っていたからである。


「行くぜ、せ〜〜の!」


「ゴハッ‼︎」


 逆エビ固めが決まった瞬間であった──。



   ※



 そして現在──。


「負けたから!もう負けたから!ギブギブギブギブギブギブギブギブッ!」


 ゴロバズは六本の腕をジタバタさせてギブアップを訴えるが、ミカミは止めようとしない。


「まあ、もう少しがんばれや」

「いや、もう無理!ホント無理!無理無理無理無理ッ!グワアアアアアアアアアアアアッ!」


 ゴロバズ、堪らず悲鳴を上げるッ!


「よし、こんなもんか」


 ミカミは掴んでいた両足首を離し、そのまま立ち上がった。その足下には六本の腕をピクリとも動かさず、放心状態の剛魔凶が伏したままである。


(ミカミ・ショウスケ──この男、やはり只者ではない……!)


 叡魔凶ザブロウドは冷や汗をかいていた。


(ミカミはゴロバズ殿の獣魔撃掌破を無力化──正確には己が身体であの強撃を受け切ったのじゃろう。どんな特殊な力を使ったのかはワシでもわからぬが、自身を含めて周囲にも何事もない理由はそのためじゃ。ただ、ここで一番のポイントは無力化したという事実を相手に叩きつけた戦略じゃ!)


 ザブロウド、心の中で解説し始める。


(奥義と称するほどの技である獣魔撃掌破を受け切ることにより、ゴロバズ殿のみならず我らに対しても警告以上のメッセージを送り、アドバンテージを得るミカミの戦略!そして受けの美学!そこから胸部にドロップキックを放ったのは逆エビ固めへの布石!逆エビ固めは腰だけではなく、胸部をも圧迫するプロレス技であるからじゃ!シンプルであり、ポピュラーな技とはいえ、その中身は凶悪そのもの!ちなみにプロレス技はこれを含めて素人が安易に真似すれば大怪我をする危険があるので真似してはいかん!そもそも──)


 ジジイ、解説に熱が入りすぎて長くなる。


(──そんなわけで、ミカミが勝ったのは偶然ではなく、必然じゃろう!……それにしても、代行改訂者というのはどこかで聞いたような──いや、思い出せぬ、最近物忘れが酷くてのォ、トホホ)


 ジジイ、肝心なことを忘れる。


「さて、次は誰がやるんだ?それとも全員でかかって来るか?」


 ミカミが魔王と魔凶達に目を向けて言い放つ。被っているマスクのデザインがヒール寄りのため、悪役レスラーのようにら見えてしまう。とはいえ、上下ジャージでスニーカー姿であるからトレーニング中とかセコンド役みたいであまりパッとしないが。


「まだやるって言うならこっちから──」

「残念、もう始まってるよ」


 それは既に始まっていた。

 ミカミの背中には身体を液状化させた防魔凶レギューダスが絡みついていたのであった。








 

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