2.魔凶、代行改訂者と対決

「代行改訂者──ミカミ・ショウスケ……?」


 魔王は困惑した。代行改訂者という肩書きもミカミ・ショウスケという名の者も思い当たる節がなかったのだ。それは魔凶も同じであったが、


(代行改訂者……?はて、どこかで耳にしたような──)


 叡魔将ザブロウドだけはどこかでその名を耳にしたような気がしていた。


「……して、代行改訂者のミカミ・ショウスケという者よ」

「ミカミでいいぜ」

「……ミカミよ」

「おう」

「お前はどこから来たのだ?」

「ああ、そこの扉を開けて来たぜ」


 魔王の問いにミカミは奥に見える扉を指差した。


「いや、そうではなく──えっ、!?」


『!?』


 その瞬間、魔王とその配下に衝撃が走る。同時に魔凶達は目にも留まらぬ速さでミカミから離れ、魔王を守るようにその前に移動した。


「ああ、そこの鎧のヤツが入ったあとを見てからだけどな。で、入ったらここにいるヤツらが並んでるからとりあえず、並んでみたわけだ」


 平然と話すミカミだが、それは本来起こり得ることではない。


 本来、この魔王の間は結界魔法が何重にも施され、魔王が認めた者しか扉からは入ることが出来ず、尚且つ、それ相応の力が要求されるのだ。

 ただし、例外の条件もある。

 それは、魔王、または魔凶がこの間の中で召喚術で結果外から呼び出した場合、魔凶自らが配下の者や眷属を連れてきた場合である。

 それ以外では──。


「我が結界を破壊し、入ってきたというのか……!」


 


「結界?そんなもんあったのか?」


 平然と言い放つミカミ。


 魔王は思った、結界を破壊して入って来たというのであれば道理が行くと。

 だが、そんなことは今までなかった、完全な想定外だった。だからその可能性はないと考え、魔凶に関係する者と結論付けていたのだ。

 しかし、それは違った、大きな間違いだったのである。それ以前に魔王及び魔将に気付かれず、普通に入って来て何食わぬ顔で普通に並ばれていたという事実が衝撃であるが。

 そして、魔王はここで結論に達した。


「ミカミよ、貴様、魔族ではないな……?」

「ああ、人間──いや、って言うのか、こういうのは」


 ──やはりか……!


 確信に変わった瞬間だった。

 

「そうだ、冷静に考えればそうなのだ。このような事態など夢にも思っていなかったことだ。かつて、地上で争った神や勇者共も魔界に乗り込んでくることはなかった。我が領土である魔界は瘴気に満ち溢れた邪悪そのもの!魔族以外では生きれぬ暗黒世界よ!」

「おお、そりゃすごいな」

「貴様は口にした、神の名を!我に仇なす憎き名を!故に確信した!神により差し向けられた刺客ということをな!我が結界を破壊する恐るべき力、その妙な肩書きの道理もいくわけだ!」

「おう、そうか。で、話は終わったか?」


 熱弁する魔王をよそにマスクマンはテキトーに聞き流していた。


「神の刺客よ、我が前に現れたことを後悔させよう、散れ、哀れな存在よ!」


 魔王が玉座から立ち上がり、ミカミに手をかざそうとした。そのとき──。


「魔王様!此奴の始末、このゴロバズにお任せを!」


 剛魔凶ゴロバズが名乗りを上げたのである。


「ゴロバズよ、この者は神の刺客、油断ならぬものぞ」

「ハッ!心得ております、魔王様!だからこそ、このゴロバズが全力を持ってこの刺客を討ち取りたく思ったのです!地上への侵攻を前にその戦力を知る目安にもなり得ましょう!その役目、このゴロバズが果たして見せましょうぞ!」

「なるほど、そうか、ならば仕方あるまい。ゴロバズ、我が前でしかと役目を果たせ。この場がと気にせずにな」

「ハッ!」


(ゴロバズよ、強者を前にし、血が滾ってきたようだな)


 魔王は、その胸中を察した。

 幾千年前の戦いの時代、ゴロバズは圧倒的な怪力で地上の英雄と称された猛者共を返り討ちにし、破壊の限りを尽くした。

 そんな中、勇者とその仲間と戦い、激戦の末に敗北した。そのときに身体に刻まれた傷痕は、自らを戒める敗北の証として今も残している。復讐の証として──。

 それを糧にゴロバズは鍛錬に励み、力を磨き上げ、かつての時代とは比べ物にならない力を身に付けた。

 そして、今、それを発揮する場がやって来たのである!


「人間よ!俺の名は剛魔凶ゴロバズ!かつて地上の猛者共を屠り、蹂躙を尽くした魔界の将である!憎き神の下僕である貴様を全力を持って始末してやろう!」

「ああっ?やるってんのか?……ったく、しょうがねぇな」


 ゴロバズからオーラが溢れ出し、空間が振動し始めた。

 一方のミカミは来いよと言って腕組みをしてるだけである。


(なんという力!ゴロバズ殿、剛魔の名は伊達ではないようじゃな……!それに比べてこの人間は腕組みをして漠然とゴロバズ殿を見ているだけ──いや、これは余裕と捉えるべきか。……だとすれば──この者、只者ではないぞ!)


 このとき、ザブロウドはミカミの余裕な態度から只ならぬ何かを感じた。


「行くぞ!ミカミ・ショウスケ!」

「おう、来いよ」


 そして、それは──。


「い、痛い!?イタイタイタイタイタイ!マジ痛い!苦しい!苦しい!痛い!痛い!ギブ!ギブギブギブギブギブギブギブギブ!ギブッ!やめて!やめてください!お願いします!ホントにヤバイから!」

「なら、俺の勝ちでいいんだな、ん?」

「はい!負けました!もう負けましたから!すいません!お願いですから!もうこれ以上は無理です!」


 逆エビ固めを決められたゴロバズがミカミに許しを請う形として現実となったのである。


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