ワールド・オブ・バスター!

エスコーン

代行改訂者訪問編

1.魔王、代行改訂者に遭遇

 ここは魔界のとある場所──。

 地上の人間がたどり着けないとされる獄炎の山を越え、漆黒の谷を抜け、瘴気の海の先にあるという魔界を統べる大君主、魔王の城である。


「皆の者、揃ったようだな……」


 魔界竜の骨で仕立てられた玉座に座した魔王は、闇夜のように冷たく、奈落のように恐ろしくも威厳のある声で配下の者共に向けて声を発した。

 

 配下の者共は六人、いや、六体の魔人である。その者共は【魔凶】と称される魔界の最高戦力であった。それが玉座より下段で二列となり、向かい合う形で整列している。


 右列には、


【剛魔凶ゴロバズ】、六本の腕を持つ獣面の魔人。あらゆるものを砕き、駆逐するその剛力は脅威そのものである。


【防魔凶レギューダス】、優男の姿をしているが、本体は液状の魔人。武器、魔法などのあらゆる攻撃を防ぐその絶対防御は絶望そのものである。


【叡魔凶ザブロウド】、杖をついた老人の姿をした叡智の魔人。その知識は過去や未来といったありとあらゆる物事に通じ、驚愕そのものである。


もう一方の左列には、


【滅魔凶フィリーディア】、腰まで伸びた金色の長い髪が特徴的な美女の姿をした魔人であり、魔将の紅一点。その魔力はこの世のありとあらゆる存在を滅する悲劇そのものである。


【幻魔凶ヴァルドベリド】、貴族のような気品さとこの世を惑わす狡猾さを併せ持った魔人。幻術によってありとあらゆるものを支配し、嘲笑うその力は狂気そのものである。


【斬魔凶デュラドルム】、漆黒の鎧を纏った冷酷な魔人。生物、無機物、空間を問わずあらゆるものを慈悲もなく斬り捨てる剣技は戦慄そのものである。


 そして、その恐るべき六体の魔人をも統べる者、それが、


【魔王グランダル】である。


 その存在はありとあらゆる全ての頂点に君臨し、蹂躙する恐怖そのものである。


「さて、魔凶共よ、お前らをここに呼んだ理由──それは理解しておるな……」


 グランダルはまた声を発した。


「おおっ、遂にアレが始まるのですな」

「遂にこのときが」

「遂に来たのですね」


 それにこたえるように魔人達は口々に声を出した。


「その通りだ、いよいよ地上への侵攻を開始するときが来たのだ……!我らを魔界に追いやった神と下僕の人間共を討ち亡ぼすときが遂に来たのだ……!さあ、我が配下の全ての魔族よ、地上を恐怖に染め上げるのだ……!」


 その瞬間、オオッ!という地鳴りのような声が響いた。


 魔王グランダルと魔界の者共は、幾千年前の過去に神と人間の軍勢に戦争を起こした。戦いは熾烈を極めていたが、数と力で勝る魔王軍が優勢であった。

 しかし、神が己の強き力を分け与えた者──勇者が現れたことにより、魔王軍は徐々に劣勢となり、遂には魔界に追い返され、地上への入り口は封印された。

 魔王を筆頭に魔界の者共はこの出来事を最大の屈辱と捉え、今日までそれに耐えてきたのである。


 だが、封印の力は絶対ではなかった。

 幾千年も魔界の瘴気に晒され続け、人間達が互いに争いを起こすようになったことで発生した邪気により、神聖なるその封印は綻びを見せ始めたのである。

 そして、今、まさにこのとき、地上への侵攻が開始されようとしていたのだ!


「……してだが、デュラドルムよ」

「ハッ!」

「お前のその、隣に立っている者だが──」


 デュラドルム以外の目線がその隣に向けられる。


「それはお前が新たな魔将に推挙しようとする者なのか、それともお前自身の配下か眷属なのか……?」


「恐れながら魔王様、某の配下でも眷属でもありませぬ、他の魔将に関わりがある者ではありませぬか」

「……そうであったか」


 グランダルは、ううむと首を傾げながら、


「ゴロバズ」

「我が軍ではありません」

「レギューダス」

「僕は初対面です」

「じゃあ、ザブロウド」

「儂でもないですぞ」

「……えっと、フィリーディア」

「違いますわ」

「なら、ヴァルドベリド──」

「魔王様、お戯れを。我が軍勢にこのような者はおりませぬ。大方、下品なゴロバズが物忘れした数合わせの軍団の者でしょう」

「なんだと!貴様ァ!」


 魔凶全てに訊ねたが、答えはノーであった。しかも、犬猿の仲のゴロバズとヴァルドベリドの口論のオマケ付きである。


「ほう、脳筋風情が気高い私に意見するのか?」

「黙れッ!貴様は幻術で逃げるだけの腰抜けだろうが!貴族面してほざくな、このペテン師が!」

「……筋トレ自慢の分際でこの私をこけにするとは虫唾が走るな。よろしい、白黒つけるとしよう」

「おもしろい!魔凶から幻魔凶を剥奪してやろう!今ここでなァ!」


 ゴロバズ、ヴァルドベリドの身体からオーラのをようなものが滲み出す。その瞬間、魔王の間が軋み始めた。まさに一触触発!


「こ、これ!魔王様の御膳であるぞ!おヌシら、静まらんか!」

「貴殿らが決着をつけるときは今ではなく、地上を手中に収めたあとに行うべきだろう」

「全くですわ」

「だね」


 他の魔凶に咎められ、矛を収めるゴロバズとヴァルドベリド。二体の魔凶は魔王の前に出るとそのまま片膝をつき、


「申し訳ありません、魔王様」

「此度の失態、地上での働きにて挽回いたします故」


と詫びるのであった。


「よい、気にするな。お前たちの働きを期待するぞ」

「「ハッ!ありがたきお言葉!」」

「……してだ、では、お前は“何者”なのだ?」


 改めて魔王がその者に目線を向けて問うた。


「あっ、俺か?俺は【代行改訂者 ミカミ・ショウスケ】だ」


 その者は、目元と口元が開いた覆面レスラーのような灰色のマスクを被った180センチくらいのガタイのいい男であり、上下黒のジャージでスニーカーという姿をしていた。

 そして、代行改訂者のミカミ・ショウスケと名乗ったのであった。

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