第19話
「よいしょと」
「おにいさんありがとー」
男の子がお礼をいった。
なんでお礼をしたかというと、
「おにーさん次ぼく!」
「ぼくにも!」
「「かたぐるまして!」」
そう、子供なら一回はやってもらったことのある「肩車」をしてあげているからだ。
特別なにかするわけでもなく、ただ肩車をして庭を一周するだけの事なのだが。
目の前にはiPhone発売前かのように行列ができている。
「子供は軽いとはいえ、さすがにこの人数は堪えるなぁ」
「天沢さんの肩車人気ですね」
「あはは……人気なのはいいんですが、疲れて落ちちゃうのが怖いです」
「無理はしないでくださいね」
「先生はやらないんですか?」
「さすがにこの歳だとつらいわ。昔はよくやってたけど」
「そうなんですね」
先生たちと話している最中にも子供たちが「おにいさんはやく~」とせかしてくる。
「はいはい、ちょっとまってね~」
子供たちをなだめながら再度肩車。
しばらくやっているので、軽いはずなのに重く感じてしまう。
「わー! たかーい!」
「こらこら、あんまり頭をたたかないで」
俺の扱いはまるで競走馬だ。
喜んでいるからなのか、面白がっているだけなのかわからないがビシバシたたいてくる。
まあ、なんだかんだ走っちゃうんだけど。
「おにーさんもっかい!」
「だ~め。順番守らないとだめって言ったでしょ?」
「え~」
「言うこと聞かない子にはもうやりませ~ん」
「ご、ごめんなさい」
「よし、えらいぞ~」
だんだん子供の扱いにも慣れてきた感じがする。
実はここに来る途中、詩にはちょっとしたアドバイスをもらっていた。
『いい? 子供が悪いことしても絶対怒っちゃだめだよ?』
『なんでだ?』
『子供は純粋だから、怒っている人には恐怖を感じちゃってすぐ泣いちゃうよ』
『なるほど、その時はどうすればいいんだ?』
『まずはどうしてそうなったのかちゃんと聞いてあげること。そのうえで優しくしかること』
『ふむふむ』
『ちゃんと謝ったら必ず褒めること! これ大事だからね!』
『最後は褒めるでいいのか?』
『うん。子供は褒められることによって嬉しさがでて、次も褒めてもらおうと同じ事を繰り返すの』
『謝罪繰り返されてもな……』
『そこがかわいいの!』
という感じで指導を受けていた。
これだけ熱心な詩をみるといかに子供がすきなのかがわかる。
それはそれとして、まだ肩車待ちの子供がいるので早いとこやってあげよう。
「ん」
次に並んでいたのは女の子だった。
今までずっと男の子しか肩車をしていなかったので女の子まで並んでいるとは思っていなかった。
その女の子は両手を広げて何かを待っている様子。
少なくとも肩車を待っている態勢ではなさそうだが……。
「君も肩車? いいよ、おいで」
「かたぐるまじゃないほーがいい」
「え?」
「だっこ……」
すると女の子はしゃがんでいた俺に勢いよく抱き着いてきた。
なにかにおびえるようなそんな感じの抱き着き方だった。
「抱っこでいいの?」
「うん。パパにしてもらえないから……」
「そっか」
それ以上はなにも言えなかったいや、言いたくなかった。
「ママも忙しいからだっこしてもらえないの。だから今日はおにいちゃんにしてもらうの」
お、おおおおおにいちゃん⁉
他人とはいえ、「おにいちゃん」呼びがこんなにも破壊力あるとは……。
妹がほしいなんて思ったこともあるけど、これはすごいな。
「おにいちゃんのこと独り占めするぅ」
すると腕の力がはじめより強くなってきた。
それをみていた他の男の子や女の子も、
「あー! ずるい! わたしもだっこ!」
「ぼくも!」
きちんと並んでいたのにここにきて崩れてしまった。
肩の次は腕が壊れてしまう。
「頑張ってくださいね、天沢さん」
「先生助けて~」
ニコニコしながら事を眺める先生。
初日からギブアップしそうな勢いなんですが。
* * *
周が肩車で賑わっている頃、詩は室内で園児たちの相手をしていた。
「おねーさん、さっきのおにいさん彼氏?」
「か、かか彼氏だなんてそんな! まだそんなんじゃないし!」
最近の園児はそういう勘がするどい。
う、嬉しいんだけどね?
「おねーさんみて、エプロン着たよ。かわいい?」
「あら~かわいい! 似合ってるね」
「ママのおてつだいするのに、パパに作ってもらったの」
パパ、女子力の塊!
そしてなんていい子なの!
「おねーさん外みて、おにいさんがかたぐるまやってるよ」
「本当?」
外を覗いてみると本当に肩車をしていた。
順番待ちなのか、かなりの行列ができている。
「周ちゃん大変そう、でも楽しそう」
最初はあんまり乗り気ではなかったのに、今は馴染んでいる。
保育園きて正解だったかも。
「あ、かたぐるまの次はだっこしてる~」
見るのをやめた途端、一人の園児がそんなことをいうので気になって外を見るととんでもない光景が。
「ああああああ!!!」
「おねーさんうるさい……」
「ああ、ごめんね」
なんと女の子が周ちゃんに抱き着いているではないか。
形上抱っこかもしれないが、私からすれば同じようなこと。
そ、そんな……私だってしてもらったことないのに……周ちゃんのバカ。
晩御飯にキュウリとトマトたっぷり入れちゃうかんね!
「せんせー、おねーさんのライフ0になった~」
子供たちがいくら声をかけても反応しないくらい落胆した詩だった。
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