第16話
朝はつらい。
学生でも社会人でもみんな同じことを思うだろう。
その理由に「眠い」が多数をしめると思う。
ほかにも毎日の満員電車での通勤が嫌だとか学校まで遠いなどいろいろある。
でも俺は学校もそんなに遠くないし電車で通学もしていない。
じゃあ何が嫌なのかそれは――
「周ちゃんおっきろ~とりゃあ!」
「ぐふぇごおおうふううう」
これだ。
俺が寝ているベッドに向かってダブルローテーションムーンサルトを決めてくる。
ここ最近普通に起こしてくれてたのに。
「こうでもしないと周ちゃん一回じゃ起きないからね」
「余計起きれなくなるわ」
「朝ごはんできてるから早くね」
「はいはい」
俺が学校からパラレって早三日。
未だに戻れる雰囲気はなさそう。というか雰囲気もなにも急に切り替わるので予測できない。
元の世界の方はどうなってるんだろうか。知らない間に罪を犯したとかマジで勘弁してほしい。
頼むぞもう一人の俺。
「まだ寝てるかぁ~」
「今起きます今起きます」
さすがに二回目は俺のあばらがお陀仏しちゃう。
素早く学校の支度をし、いつでも登校できるようにする。
「行ってきます」
いつも通り二人で登校する。
もちろん手もつないで。
「俺も慣れちゃったな」
「なにが?」
「手つなぐの」
「慣れてなかったんだ。 結構ノリノリじゃなかった?」
「んなことないわ。心臓ドッキドキのバックバクよ」
いいのか悪いのかわからない。
ただ今この時の感触は大事にしたいという気持ちはあった。
「そういえば来週インターンシップだね」
「え。来週だっけ?」
「うん。毎年この時期にやってるじゃん」
「あれぇ? そうだったっけ」
インターンシップ。一言で言うと職場体験だ。
その実施日が元の世界とこっちの世界で違うことに戸惑う。
確か元の方は再来週だったような気がする。
もしかしてのもしかしてだけど、インターンシップ二回やる可能性もある?
「ほかのクラスと混じってやるらしいから、知らない人も来るんだよね」
「そうだな。それも面倒だけど」
「周ちゃん私と一緒のところにしない?」
「別にいいけど、お互い行きたいところ違うでしょ」
「どっちかが合わせればいいんだよ」
「ええ‥‥‥」
その後もインターンシップの事について話しながら歩き学校まで。
朝のホームルームでも担任の先生が同じことを皆に周知した。
「来週からインターンシップがあるわけだが、企業をリストにまとめたから各々明後日までに希望届だせよ~」
先生がA3サイズの紙二枚を教室内の掲示板にはった。
ホームルームが終わった途端クラスの人達は掲示板の前に集まる。
「うお製菓工場の依頼も来てんじゃん。俺ここにしよっかな、たぶんお菓子もらえんべ」
「車両整備もいいな~」
「おい見ろよ、漁業もあるぜ」
いろいろ話が飛び交う。見たところ結構な数の依頼が来ていた。
そんなに人手不足なの? っていうぐらい。
「周、お前どのへん行く予定だ?」
「いやまだ決めてない」
「結構インターンシップは侮れないぜ。いい印象与えれば向こうから採用の推薦来ることもあるらしいからな」
「ホントかよ。たった一週間で見切れるもんかい」
「誰もが知っている大企業からも結構来てるんだから、それぐらいのスキルはあるだろうよ」
「ほう‥‥‥」
「実際にインターンシップをキッカケに無試験で入社したひとも過去にいるからな」
「ただ単に人足りないだけじゃないのか?」
「いくら人足んねぇっていってもこんなちんけな普通高校に依頼が来るなんて珍しいだろ」
「それもそうか」
こいつなかなか求人情報に詳しいな。
もともとトビは高校でたら就職するって言ってたから結構本気なんだろうな。
裕福な家庭でもなければ兄弟も多い。両親の負担を軽くしたいっていう親思いの長男なのである。
「でも就職考えるなら工業高校とかそういう実業系の高校に言ったほうが有利じゃない?」と言ったら「それだと女の子と話せなくなる」と返され、そこは譲らないんだと心の中でツッコんだ。
「俺は一か八かここに行ってくるぜ」
「おま、ここ超有名じゃん。あの飲料メーカーだろ?」
「そう。言うて工場だしな」
「やらかしそう‥‥‥」
「縁起でもねぇこと言うなよ。マジでやらかしたらどうすんだ」
それはお前次第だろと言ってしまいそうになるが我慢した。
言ったら怒りそうだし。
「俺はどこにすっかな〜」
「俺と一緒のところでもいいよ」
「なんかめんどくさそうだからパス」
「おい」
なにもインターンシップがすべてなわけではないのだから、そんなに本気でやっても疲れるだけだと思う。
「悩むなぁ」
その後もチャイムが鳴るまでリストを見続け、悩んだ。
*
その日の放課後――
「周ちゃんインターンシップの依頼リストみた?」
「見たよ。結構数多かったね」
「でさ、どこに行くか決めた?」
「いや全然」
「私は決めたよ」
「マジで? どこ?」
「保育園」
「ほいくえん⁉︎」
まさかそんなところからも依頼が来てたとは思ってもいなかった。
「私と一緒に保育園行くよね?」
「いや、ちょっと考えさせて」
保育園か~まぁ変な企業に行って何の役にも立たない事学ぶなら保育園にいって園児たちと触れ合うほうが楽しそうだな。
詩が子供好きっていうのもあるしね。俺自身は子供嫌いなわけではないが慣れるまでちょっと時間がかかる。
「はい。ちょっと考えたよね」
「まだ早い」
「どうせ周ちゃんの事だから「本気でやっても疲れるだけ」とか言って適当に済ませる気でしょ?」
「ち、ちがうわい」
ちくしょう、思いのほかバレてる。さすがずっと見てきただけあるな。
でもなぁ、女の子がいくならわかるけど男の俺がいったら変な目で見られそうで嫌なんだよね。
男でも保育士になる人いるから大丈夫かな。目指してるわけじゃないけど。
「わかった。俺も保育園行くよ」
「ホント? 明日早速希望届出そうね」
こうして俺のインターンシップは保育園行きで確定した。
他のクラスの人も交えてやるからそんなに緊張しなくて大丈夫だとは思うけど頼む、男一人でもいいから来てくれ。
そうすればなんか気が楽になるから。
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