第14話

「フフそんなに慌てて隠さなくても大丈夫だよ。昔見てるんだから」

「いや普通隠すだろ。その辺の兄妹でも隠すぞ」


 平然を保っているように見えるが実は全くである。

 マンガみたいに湯気で大事な部分が隠れるわけではない。そう今詩は全裸、生まれたままの姿なのである。

 なのにも関わらず全然隠そうとしない。あ、やばい。俺の俺がスカイツリーなりそう。

 変な目で見たくなくても視界に入ってるのでどうしようもない。


「久しぶりに一緒に入るね。小さい時は気にしないで入ってたのに」

「心も成長するんだ。恥ずかしさがでて当然だ」

「周ちゃん恥ずかしがってかわいかったな~」

「うるさい。俺はいったん出るから。上がったら声かけてくれ」


 こんな状況じゃ心も体も休まんないわ。

 あと、俺の理性がどっかに飛びそう。


「どこ行くの?」


 ガシッと腕をつかまれる。なかなか力が強い。

 

「お前が上がってくるまで外で待つんだよ。一緒になんか入れないからな」

「もう~恥ずかしがりやめ。せっかくなんだし一緒に入ろうよ。それにこれから毎日一緒なんだから今のうちに慣れないとね?」

「お前に羞恥心はないのか!」


 さてはこいつ、これを狙って先入ってていいよと促したのか。

 まったく油断も隙もねぇな。


「はい、ジャポーン」


 腕をつかまれたまま湯船に押される。


「私最初に洗うから湯船で待ってて。洗いっこしてもいいんだけどね」

「それだけは何があってもしない」


 俺の気持ちも考えてくれ。俺は今東京タワーになってるってのに。

 洗いっこなんかしたらスカイツリー通りこしてブルジュ・ハリファになりそうだわ。

 正座をして壁を向こう。そして雨ニモマケズを唱える。

 忘れたいことがある時はこれを3周ぐらい読むと大抵の事は忘れるのでおススメ。

 小声で唱えて三週目を終えようとしたときに詩が湯船に侵入。


「はい。次周ちゃんいいよ」

「ソウイウモノニワタシハナリタイ」

「なんて?」


 もちろん体を洗っているときも続ける。ヨクハナクケッシテイカラズ‥‥‥


「周ちゃんの「それ」隠してるつもりだけど全然隠れてないね。元気にこんにちはしてるよ」


 ここで俺の鉄壁の雨ニモマケズが破られた。

 欲は出て決して怒れない。


「んだよ‥‥‥」

「え?」

「クラムボンは死んだよ」

「ええ?」


 クラムボンに切り替える。

 第二形態「やまなし」で挑んでやる。

 

「周ちゃん、何か気に障るような事いったのなら謝るよ」

「クラムボンは笑ったよ」

「ごめんて!」


 このまま全身洗い終えてそのまま風呂から出るという流れ。

 この際体があったまろうが冷めようが関係ない。


「ちょっと待ちなさい。何出ようとしてるの?」


 その思惑もはかなく散った。

 警察が現行犯で犯人を逮捕するときみたいに押さえつけられている。


「体冷えて風邪ひいちゃうよ? 一緒に入ろうね?」

「‥‥‥」


 もうどうでもいいや。


「なんで正座して後ろ向いてるの? 前見てよ」

「イヤデス」

「周ちゃんの「それ」入った時からずっと見えてるから気にしなくていいって。それにそうなるのは健全だよ」

「シニタイデス」

「ペッパーのほうが流暢に聞こえるよ‥‥‥」


 死にたい。見られたくないもの見られてしまった。

 俺はもうブルジュ・ハリファになっています。助けてください。


「よいしょと」

「!」


 あろうことか詩が後ろから俺の体に手を回し抱き着いてくるという一撃必殺をくり出しやがった。


「こっち向かないならこうだ!」

「ダメヨーダメダメ」

「私が「それ」慰めてあげれば万事解決かな?」

「カンベンシテクダサイ」


 そういいながら手をまさぐり、とうとう詩の手が俺のブルジュ・ハリファをつかんだ。


「私初めてだから周ちゃんの気持ちいいやり方教えてね。上手にできるように頑張るから」

「いやああやめてぇぇぇ」


 詩の手がスベスベして‥‥‥ああ、ダメだこの感覚は抗えない。

 やばいやばいやばい我慢できッ‥‥‥!




「やめてぇぇ!」

「あ、起きた? 大丈夫?」

「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥あれ?」

「もう周ちゃん途中でのぼせちゃうんだもん。大変だったよ」

 

 気が付くとパンツ一丁でリビングのソファに寝ていた。

 若干まだクラクラする。

 さっきのは夢か? めっちゃリアルな夢だったな‥‥‥


「どのあたりでのぼせたんだ?」

「周ちゃんが体洗い終わって湯船に入ってすぐ。コロッと」

「ああ。そうか悪かったな」


 待てよ?

 俺いまパンツ履いてるけどあれ?

 誰が履かしたんだ‥‥‥?


「えっと、もしかして悟さん呼んだ?」

「呼んでないよ?」

「え? じゃあどうやって」

「フフフ」


 な、なにその笑顔は!

 違うよな? 違うって言ってくれ!


「元気な周ちゃんじっくり見ちゃった♪ けど安心して、ナニもしてないから」

「もうお嫁にいけない‥‥‥」

「大丈夫だよ。私がいるから」

「勘弁してつかぁさい」


 こんなのが毎日続くなんて俺は生きていけるのだろうか。

 しかしここは元の世界とは違う場所。何かの拍子であっち行ったりこっち行ったりするからな。

 一緒に棲むのは嬉しいのか嬉しくないのか今はまだわからない。

 風呂にも入ったしさて寝るかと思ったが、ひとつ詩に言い忘れていたことがあった。


「俺はもう寝るけど、絶対侵入するなよ」

「それはフリかな?」

「マジで違うから」


 詩は実はもう経験済みなんだけどなぁと思いながら周の話をきいた。


「本当に侵入してきたらもう口きかない」

「ふ~ん。それができるか試してみようか? お父さんに言ったらさぞかし怒るだろうな」

「う‥‥‥悟さん出すのはズルいぞ」

「「女しかいない家族は男が負ける」か。名言だね。経験してるからこそ言える言葉」

「と、とにかく来るなよ」

「はいはい。今日はね」

「これからも来るな」


 お互い自分の部屋に向かい別れる。

 すぐに電気を消し寝床につく。

 

「なんでこっちに来るといろいろあるんだろうな」


 と不思議に感じながら眠りについた。


     *

 

 ――一方その頃


「やばいやばいやばい」


 布団の枕に思い切り顔を押し当てながら声を発した。


「周ちゃんの見ちゃった‥‥‥ああ、なんだろうこの感覚」


 十分からかっていた詩も実はあの状況に耐えられていなかった。

 勢いで入ったのはいいが、幼馴染の成長した体を目の当たりにしたときは正直鼻血がでそうなくらい興奮してしまった。

 

「うう‥‥‥まだドキドキが収まんないし、それになんかお腹が疼く」


 このまま周の部屋にいったら自分の中の何かが爆発して周を襲いかねないなと考え今日は寝ることに決めた。


 さすがにこれを毎日は無理だとちょっぴり反省する詩であった。

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