第13話

「詩、お前周の家に住めばいいじゃん」


 俺だけ硬直しているなか他の二人は話を盛り上げる。


「そうねぇ、あなたにしてはいいアイデアじゃない」

「私は全然いいよ。むしろそれできないかなってずーっと考えてた」

「そしたら周が寂しくなることないだろ」

「え? ちょ、どういうことです?」

「私が周ちゃんの家に住むんだよ」


 すらすら話が進み、全然理解できない。

 住む? ええ?


「周の家部屋余ってない?」

「い、いや余ってますけど、なんというかその住むのはちょっと」

「なにかあったとしても隣だしなんとかなるわよ」


 そういう問題じゃないです。


「私荷物まとめてくるね」

「あんまりもっていかないようにしなよ、人の家なんだから」


 気が早い気が早い。

 なんでもう確定なんだよ。こっちだってちゃんと親の許可とってないのに。


「あ、もしもし? 紗枝ちゃん? 久しぶり~あーうんうん元気よ」


 油断していたら美恵さんが俺の母親に電話をかけていた。

 なにしてんすか。


「それでね、詩が周ちゃんの家に住むって話でーあ、大丈夫? 好きな部屋使っていい? ありがとね~ごめんね仕事中に。うんうん気にしないでじゃあねー」


 スマホを置き、一息つく美恵さん。

 そして俺の事を見て、


「許可はとったわよ」


 勝ち誇った顔をする。


「あきらめろ周。言ったろ? 女しかいない家族は男が負けるんだって」


 言い出しっぺあなたですよね?

 あんなこと言わなければこんなことになってないんですよ。


「私たちの事は気にしないで。周ちゃんを信用しての事なんだから」

「そうだぞ。どこの馬の骨だか分らん奴に詩をやるつもりはないからな。だから周、詩の事は任せた」


 そんな事で公認されても‥‥‥いや信用されてるのは嬉しいけどさ。

 こんなにドタバタしているが夕食をまだ食べ終わっていない。

 なんて行動力なんだこの家族は。


「ふぅ。とりあえず着替えはこんなもんでいいかな。残りの荷物は少しずつ持っていけばいいか」


 詩がドサッと着替えが入ったバッグを玄関前におろす。

 

「周ちゃん後で部屋案内してね」

「うん‥‥‥」

「なんか嫌そうだな周」

「そんなことないですよ」

 

 さっきまであった食欲がなくなりつつある。箸も進まない。

 春花家の人は何事もなかったかのように食事を再開している。


「じゃあ今日の夜からずっと周ちゃんの家に住むのね?」

「うん。住むっていっても隣だからちょっと遊びに行く感覚だけどね」


 いや全然違います。

 焦ってるの俺だけ? 俺の感覚がおかしいの?


「そうだ周。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「なんですか?」


 さっきまでパクパク食べていた美恵さんと詩も箸を止めて悟さんの問いかけに集中する。

 

「お前彼女とかいないよな?」


 一番真剣な顔で聞いてきたので少しドキッとしてしまった。

 しかし答えは一つ。いるわけがない。


「いないですけど?」

「なんで疑問形なんだよ」

「え、周ちゃんいないよね? いるわけがないよね?」


 詩も真剣な顔で箸をおき、だんだん顔の距離を縮めてくる。

 怖い怖い怖い怖い。


「マジでいないって」

「そうだよな。詩がいるのにそんな奴いないよな」

「早く孫がみたいわ~」


 ちょっと美恵さんだけ話飛びすぎ。

 俺らそんな関係じゃないから。

 

「よ、よかった‥‥‥いなくて」

「なんかしんみりしちゃったな。周責任とれ」

「ええ⁉ なんでですか!」


 理不尽にもほどがある。

 なんか次うちにご飯食べに来てよって言われても断りそう。

 いろいろあったけど、やっと夕食を終えた。


「周ちゃん片付けはいいから、詩に部屋案内してやって」

「あ、はい」


 こうなったら受け入れるしかない。

 さてどこの部屋を案内するか。

 意外とうちは部屋の数が多い。俺の部屋、母親の部屋、父の部屋、両親の寝室、客人用の部屋がある。

 無難なのは客人用の部屋かな。布団しか置いてないし、とりあえずそこでいいだろ。


「フフ、これから毎日いっしょだね」


 その笑顔に思わずドキッとする。

 その笑顔とそのセリフは会心の一撃だ。俺じゃなくても男なら誰でも今のはやられるだろうな。

 早速詩に使ってもらう部屋を案内する。


「ここが詩の部屋ね。今のところ布団しかないけど」

「おお~広い」

「俺風呂沸かしておくから、持ってきた荷物とかまとめてていいよ」

「おっけー」



「全然落ち着かねぇ」


 風呂を掃除しながら落ち着こうと試みたがダメだった。

 とうとう洗剤の匂いすら忘れてしまうくらい落ち着かない。

 ――オユハリヲカイシシマス

 

「ふぅ、ひとまず風呂が沸くまでの辛抱だ。風呂に入れば多少は落ち着くだろ」

「周ちゃんちょっといい?」

「何?」


 詩に呼ばれて部屋に行ってみることに。


「これとこれどっちがいい?」


 と見せられたのは二つのパジャマだった。 

 なんで俺に選択権を与えたのかはわからないが。


「詩がいいって思ったほう着ればいいんじゃないか?」

「そこは選んでよ。周ちゃんに選んでもらったやつ着るから」

「‥‥‥じゃあそっちで」


 選んだのは大人の女性が着るようなデザインのルームウェア。

 適当に選んだものだけど、詩は嬉しそうにしている。


 ――♪~オフロガワキマシタ

 

「風呂沸いたみたいだな、どうする先入る?」

「周ちゃん先に入っていいよ。私まだ荷物整理してるから」

「了解」


 着替えをもって風呂場へ向かう。 

 よしゆっくり浸かりながらちょっと落ち着こう。

 服を脱ぎ安息の場へ。

 いの一番にレバーを捻り温かいシャワーを出す


「ふぅ~あったけぇ‥‥‥家の風呂ってこんなに気持ちよかったっけ」


 ガララララ。


「んぁ?」


 え? なんで扉開いたん?

 そう思って後ろを振り向くとそこには一糸まとわぬ詩の姿が。


「ハッピーかい?」


 某老婆医者のセリフを吐く。


 「いいいいやあああああああ」


 風呂に響くのは俺の悲鳴。

 

 全然ハッピーじゃない。

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