第11話
「いただきま~す」
「いただきます‥‥‥」
前と同じように一つの机で向かい合って食べる。
この状況と詩の雰囲気を見ればもう確定だろう。
しかし、パラレルワールドの判断基準が詩の雰囲気て。
「なんか元気ないね。なにかあった?」
「いや何もないよ」
「あ! お弁当おいしくないんでしょ? 違う?」
「違うって。弁当はホントにうまいよ」
嘘じゃない。
正直なところ元の世界の詩の弁当とこっちの詩の弁当食べ比べしたかったのにこのタイミングで来てしまった。最悪。
こっちに来るのが嫌ってわけではなくて、状況の整理に時間がかかるから困る。
元の世界にいるときはこっちの俺の記憶がないので今までなにがあったのかわからない。
「周ちゃん」
「ん?」
「あ~ん」
「え、ちょ! んぐぉ!」
おかずを無理やりねじ込まれた。
抵抗できず、モグモグ。
「おいしいでしょ?」
「おいひぃでふ」
俺のモグモグ姿を嬉しそうに見つめる。
そんなマジマジ見られると食べづらいんだけど。
「周ちゃん昨日のやつ覚えてる?」
「え?」
「もうやっぱり忘れてる~ほら買い物の話したでしょ?」
全然わかりません。
買い物? なんの?
「あ~あれか。こないだせっかく買った3段アイス落として萎えてたら、それを見てた人から「次ぁ5段買うといい」って言われてお金もらったからそれ買いに行くんでしょ?」
「ごめん全然違う」
あ、ヤバイ。詩が「こいつ大丈夫か?」みたいな顔で俺の事見てるのでふざけるのはここまでにしよう。
「ほら! 今日は私の家でご飯食べるって話したじゃん。それで今日帰りにスーパーで買い物する約束してたでしょ!」
「そういえばそうだったな。ごめんごめん」
なんとも白々しい嘘。いやでも本当にこの話を知らないからどうすることもないのである。
「次は忘れないでよね。じゃ、放課後ね」
「はーい」
こっちの詩はとにかく優しい。
今の会話を元の世界の詩としてたら確実に殺されてる勢いだ。
*
「じゃみんな気ぃ付けて帰れよ。さいなら」
「「「さよなら~」」」
担任の先生の挨拶と同時に放課。
詩との約束があるので帰る準備を速やかに行う。
でももうすでに廊下には詩の姿が見える。いや早くないか?
「お待たせ」
「よしじゃ行こう」
二人で校舎を出て、校門を抜けたあたりで、当たり前のように詩の方から手を握ってくる。
やっぱり慣れないなこの感覚。多少なり緊張して手汗すごいもん。
手汗びっしょびっしょのやつとか最悪でしょ。
それでも詩は全然気にしていない様子だけど。いや我慢してるのかもしれない。
「そういえば何買うんだ?」
「うーん。ちゃんとは決めてないけど、おかずになるもの適当に買うよ。周ちゃんも食べたいのあったら遠慮なく言ってね、お金はお父さんから預かってるから」
「ああ、そうなんだ。でも大丈夫、出されたもの食べるから特に要望はないよ」
まあ今日の俺の役目は荷物持ちだろうな。
いやぁスーパーなんて何年ぶりに行くかな。最後に行ったのは小学生の時母親と一緒に行ったきり。
もう何を買ったのかも覚えてない。
「周ちゃんうちに来るの久しぶりじゃない?」
「そういえばそうだな」
「うちの親が周ちゃんと久々に話したいって言ってたよ」
「そうか、
「もう毎日うるさくて」
実は詩の両親、悟さんと美恵さんは幼馴染同士なのである。
昔から今の今までずっと仲がいいそうだ。羨ましい。
俺たち二人は詩の両親の昔話をしながら買い物を済ませ帰宅する。
俺の両手にはパンパンになったレジ袋を持っている。結構買ったな‥‥‥
「これで何を作る予定なの?」
「それは後でのお楽しみだね」
詩の頭の中にはもう何を作るかシミュレーションしているのだろうな。
考えながら歩いていたらもう家についてしまった。
「荷物置いてから行くよ」
「うん。じゃ後でね」
こんな生活も悪くない。と思いながら自分の家の玄関を開け、足を踏み入れるのであった。
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