第10話
「なんで家を出る時間が被るのか‥‥‥か。どう考えても偶然としか言えない」
俺は家についてからも彼女に言われたセリフについてずっと考えていた。
確かに毎回と言っていいほど被る。
学校までの距離も同じくらいだし、一緒になるのはしょうがないと思うんだよな。
やっぱり詩が俺に合わせてる? というのも一瞬だけ考えたが、あの詩がそんな事するわけないだろうとすぐにかき消した。
それに朝あっちの世界に行ったかどうかの確認もしないと。できればちょっと避けたいかな。何気にこっちの詩の弁当楽しみなんだよ。
*
「はいこれ昨日言ってたお弁当」
朝早々、玄関を出たらなんと家の前で待ってくれてたので「やっべこれ来ちまったか!」と焦ったが詩のセリフと雰囲気でパラレってない事を確認できた。
「おお! ありがとう。ホントに作ってきてくれるなんて」
「約束は守るわよ。口だけだなんて思われたくないもの」
たとえ作ってきてくれなくても、その気持ちだけでも十分嬉しいのだが実際にされるとさらに嬉しい。
弁当を受け取って鞄にしまい学校へ向かうがちょっと後ろを歩いていた詩が、
「ちょっと歩くの速い! もうちょっとゆっくり歩いてよ」
「いやだって、別々で行くんじゃないのか?」
「ここまで来たら普通一緒に行くでしょ!」
「ええ‥‥‥いつもみたいに怒ると思ってさ」
「いちいち怒る相手に弁当なんか作るか!」
「はいすいません」
いつも怒ってましたよね? 今もうすでに怒ってるじゃん。
「それと、お昼になったらその弁当絶対見せびらかすんじゃないわよ」
「別にそんな事しないけど」
「いい? お昼になったら男子トイレの奥から二番目のトイレで食べなさい」
「誰がそんなボッチ飯味わうか! 普通に教室で食うわ」
「いつも購買で済ませてたやつが急に弁当持ってきたらおかしいじゃない」
「皆いちいち俺の事なんか見てないって」
「それもそうね。誰もあんたの事なんか興味ないもの」
「なんかホントに言われるとキツイな」
なんて会話をしながらダラダラ登校する。冷たいとは言え会話が多くなったのはいい事だと思う。地味に刺さるけど。
校門を目の前にやっと到着したところで、いつものやつの気配がモワモワ漂っているのがわかる。
「おっは。お二人さん」
「おう」
「おはよう、トビ君」
「最近仲いいんじゃないの? 昨日も一緒だったしね。さてはできちゃった?」
だからその表現やめろっつの。
「そんなんじゃないよ。こいつがついてくるだけ」
「あ~それなら納得だね。昔っからストーカー気味なとこあるもんね」
お前は俺のどこを見てストーカー気味なところがあるって思ったんだ?
くだらないと思い二人を無視して校舎に向かう。
「そんな怒んなって、冗談だよ冗談」
「あんたは本気と冗談は紙一重って言葉知らないの?」
口をそろえてマウントを取りに来る。
それを言うなら「バカと天才は紙一重」じゃね? あたかもそうかのようにドヤ顔で言われても全然響かんのよ。
それにお前の場合は本気しかないだろ。
「はいはい。私が悪うござんした」
なんかめんどくさくなったので適当に謝った。
*
午前中の授業が終わりいよいよお昼休みへ。
「周、購買行こうぜ」
チャイムが鳴り終わってすぐの事、トビがいつもと同じように誘ってきた。
「わりぃ今日は弁当持ってきてるんだ」
「は? お前が弁当? いつも購買メロンパン食って幸せそうなやつが?」
「失礼な奴だな。俺だって弁当ぐらい食うわ」
詩の「見せびらかすな」を思い切り無視して机の上に弁当を出した。
中身をみたトビは、
「お前の弁当としては随分まともだな。てっきりご飯に海苔乗せただけだと思ってた」
「これはな――なんでもない」
あぶね。危うく詩が作ってくれたと言ってしまうところだった。
トビも全然怪しむ様子がないので安心した。
「まいいや、俺は一人で寂しく購買に行ってくるわ」
と言って教室を後にした。
あいつが戻ってくるまで待ってやるか。
「天沢君」
「おおびっくりした。月城さんか」
「私もお昼一緒にいいかな」
「俺は全然かまわないけどトビがどうかが」
「大丈夫もう言ってあるよ」
俺たちのこのやり取りを見ている人は誰もいなかった。
それはみんな仲のいい人同士で食べ、教室内も話声でガヤガヤしているからだ。
「今更だけど、向こうの月城さんでいいんだよな?」
「そう。今日で三日目」
「俺もいつ向こうに行くかわかんないから毎日ヒヤヒヤしてるんだよ」
「お互い様だね。それよりさ――」
その発言と同時に俺の目の前にある弁当に彼女の視線がいった。
「こっちでも春花さんのお弁当ね」
「なんでわかった⁉」
「いやわかるよそりゃ。いつも購買で済ましてるのに急にお弁当って。それに随分と凝ったお弁当だし」
「まあ見せびらかすつもりはなかったんだが、しゃーないか」
ちょっとした会話をしながら過ごしていたら、買い物を済ませたトビが両手でパンを抱え込んで戻ってきた。
「パン買い競争勝ち取ったぜ」
「おお。あんまり買えないパンまですごいな」
「お、月城さんもきたんだね。はいこれお裾分け」
「お~ありがとう。このパン食べてみたかったんだよね」
トビは食パンにカフェオレベースのクリームが塗りたくられている物を月城さんにあげた。
それにしても月城さんとトビが意外にも仲が良かった事に驚いた。
いつから接点あったんだ?
そこまで気にするようなことじゃないからいいか。
いやそれにしても手を洗いたい。なんか手汗がひどいのかいつもよりベタつく。
「悪いちょっと手洗ってくるわ」
「なんだよ最初に済ませとけよ」
「天沢君、いってらっしゃい」
そういって教室の扉を開けた。
その自分の視界にはうっすら見えるこちらに向かってくる人が一人。
「あ! 周ちゃんどこいくの? ほらお昼一緒にたべよ!」
「あ‥‥‥ちょ、ちょっと手洗ってくるよ」
「わかった。まってるね」
はい。言ってるそばから来ました向こうの世界。
今度は学校からのパターン。
15分タイムラグがあるのでこっちだと丁度お昼になったばかりなのだろう。
「惜しいタイミングで来ちまったなぁ‥‥‥」
手を洗いながら大きくため息をついたが、水の流れる音でかき消されてしまった。
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