第8話
「詩、あんた高校どうすんの?」
「んーまだ決めてない」
「決めてないってあんたもう三年生よ。ホントだったらもう進路決めて勉強を徐々にしとかなきゃいけないんだよ」
「わかってるよ。でもそんな簡単に決まんないよ」
「父さんからもなにか言ってやってよ」
「うーん。詩にはいきたい高校いってほしいけどな。子の進路は親が決めるものじゃない。将来的に自分の役に立つならどんな高校いったっていいんだよ」
「父さんは甘いねぇ。もし高校いけなかったらどうすんの」
「それはないでしょ。成績も平均以上だしいけないことはないでしょ」
本当は決めている。それは周ちゃんと一緒の高校。理由は一緒に通いたい、ただそれだけだった。
周ちゃんの行く高校はレベルで言うとごく普通の高校。彼の進路先を友達からこっそり聞いていたのだ。
その高校なら電車も使わず徒歩で通える距離だし、私の今の成績ならちょっと勉強するだけで入れる。
「今度面談あるんだし、その時までに決めときなさいよ」
「わかってるよ」
めんどくさいのはその進路先を選んだ理由まで面談の時にはっきりさせなければいけない。
何かを目指して高校に進学する人はごく一部の人間だと思う。大学を目指してる人は進学校に行くだろうし、就職を考えてる人は工業系または高専に行くだろう。
そんな中で私はなんの目標もない。やりたいことも特にない。そもそもまだ中学生の身でありながら将来やりたいことなんてハッキリしてるわけないでしょう。
通いたいから通うではだめなのだろうか。どうせ卒業した後の人間なんてどうでもいいくせにこんなときばっかり理由だの目標だの言わせられる。
まあそんなのはその場しのぎでどうにかなる。大した問題じゃない。
*
「浪尾高校を志望ということでいいのか?」
「はい」
担任と母親と私とで三者面談が行われた。目的はもちろん進路先の志望。
「では理由は?」
「今はまだ決まっていないですけど、進学出来たらなって考えてます」
「お母さんも容認ということでいいですかね」
「ええ。娘がそこに行きたいのなら私がとやかく言う筋合いはありません」
「わかりました。秋ごろに最終面談がありますのでその時に決定という形になります」
ここで面談はお開き。意外にもすぐ終わってホッとしている。
お母さんがサクッと認めてくれたのは正直意外だった。学校の成績には人一倍うるさいのに。
自分が成績不良で困ったという過去を持っているので子にうるさくなるのは自然かもね。
自分が失敗したことは子にしてほしくないという親の愛情なのだろう。
「そういえば周ちゃんはどこの高校にいくのよ?」
「まだ聞いていない」
「あんたら幼馴染でしょ? そういう話しないのかい」
「時期が時期だし忙しくてそれどころじゃない」
「あたしが今度聞いといてあげるわ」
「いやいいよ、そんな」
言えない。周ちゃんも同じところだって。そしたら一発で「あんた周ちゃんと一緒に通いたいからそこに選んだのね」なんていじられるのが目に見えている。
好きな人と一緒に通いたいのなにがいけないんだ! 結婚して仕事辞めたりしてる人もいるんだし、それと比べればこんなのちっぽけな理由に過ぎないのだ。
結果的に自分の思惑がバレることなく高校入試はうまくいった。余裕の合格。
もちろん周ちゃんも合格しており、自分の部屋でマラドーナ監督なみに喜んだ。
わからない人は動画をみてほしい。多分載ってるはず。
これで周ちゃんとまた一緒に登校して仲を直そうっていう寸法よ。
ところが、高校に入学しても。
「あ」
「あ」
「「‥‥‥」」
き、気まずい。
自分の方から避けてたのでいざ出くわすと何も話せない。
「おはよう‥‥‥」
「‥‥‥」
何やってんだ私! せっかく声かけてきてくれたのに無視してしまった。
私が周ちゃんだったら今頃ビンタしてるかもしれない。
そんな状態が続いたある日。
「お弁当作って渡せば仲直りできるかも!」
と思い、早速次の日作ったのはいいが。
渡せない! 恥ずかしくて渡せない! せっかく作ったのに自分が情けない。
「なんで弁当二つも作ったのよ?」
「べべべ別に?」
「ふ~ん。さては周ちゃんの分ね」
「!」
母には何でもお見通しだった。あきらめて「そうだよ」と打ち明けた。
あとから台所にきた父さんが弁当をみて、
「なんだ詩~俺の分までつくってくれたのか。やっさしー」
「父さんの分じゃないから触んないで。父さんのお昼なんてその辺の残飯で充分」
「ひどい!」
「父さん安心しなさい。私が愛妻弁当つくってあげたわよ」
「ホントに⁉ わーいわー‥‥‥い」
「何よそのガッカリ感は」
「バランしか入ってないじゃん!」
「おかずはセルフとなっております」
「もうこの親子嫌!」
ちなみにバランというのは緑のギザギザの仕切りの事。
そんなこんなで作っては渡せずということが何回も続き、食材を無駄にしてしまっていた。
ところがつい先日。
「一緒に学校行かないか?」
正直、「メンタルリセットォォ‼」と叫びたいぐらい嬉しかった。
めちゃくちゃ嬉しかった。
でも素直じゃない私の情けない性格が悪さをする。
「勝手にすれば」
タヒね! 私!いや周ちゃんいっそのこと私を殺して!
私が周ちゃんだったら今頃カズチカ並みのドロップキック決めてるわ。
とまぁ、なんだかんだで一緒に行くことに。やばいニヤけを我慢するのがキツイ。
「「‥‥‥」」
一緒に登校できたのはいいけど、全然会話がない。どうしようなんて話したらいいのか全然わかんない。
一緒に行こうっていった周ちゃんも全然話してくれないし。
ならば、一か八かアレを持ち掛けてみるしかないか。恥ずかしいがやるしかない。
「ねぇ、あんたって昼ご飯いつも購買のパンよね」
「お、おう」
「そ、それじゃ栄養が偏るわよ。高校生なんだしもっとガッツリ食べなさいよ」
「お、おう‥‥‥」
「‥‥‥」
やばい言葉がうまく出てこない! 言いたいのに私の羞恥心が邪魔をしている。
周ちゃんも何がなんだか理解できてないし。
いけ! 行くんだ私!
「だ、だから、わ、私がお、お、おべ、おべん」
「ど、どうしたんだよ。言いたいことあるならハッキリ言えよ。こっちもスッキリしないんだ」
どこから来たのかわからないイライラが急に沸騰してきて抑えきれずに爆発してしまった。
「‥‥‥んもう! 私があんたのためにお弁当作ってきてやるっていってんのよ!」
言えた‥‥‥ほぼ勢いだけど。同時に恥ずかしさも混みあがってきてどうしようもない状態。
その後のあーだこーだが収まったところで周ちゃんが爆弾発言をする。
「手つなごうぜ」
ええ⁉ いいの⁉ そんなのつなぐに決まってるじゃん!
いやでもめちゃくちゃ恥ずかしい‥‥‥ほかの人に見たられたらどうしよう。
考えに考え抜いた挙句、私がとった行動は、
「ぶちのめすわよ。この変態」
言葉によるマヒャドいや、マヒャデドスを食らわせてしまった。
未だこの氷は解けていないのが現状だった。
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