第7話
素直じゃない自分が嫌い。
ずっとそうだった。何をするのにも自分のハッキリとしたことも言えない。
臆病でわがままで傲慢で他人から見たらただの嫌なやつ。
けどなぜか友達はできた。それは私の実力じゃなく、幼馴染である天沢周のおかげ。
いつも一緒にいて学校に行くときも遊びに行くときも全部一緒だった。
彼はいつも私を引っ張ってくれた。だから孤独にはならなかった。
中学生になったころ、ある友達からこんな事を言われた。
「詩ちゃんって彼氏つくらないの?」
と。
私はそういうのに興味がなかったが、まわりの人たちはみんな恋愛ばかり。
冷たくあしらうのもと思い、適当に話を合わせた。
「うーん。今は大丈夫かな。作れたら作るって感じ」
「えー詩ちゃんかわいいのにもったいないねー」
「そうかな。でも大変そう」
「そんなことないよ。ほら天沢君とかとすっごく仲いいじゃん」
「あいつはただの幼馴染だし‥‥‥そんな感情ないよ」
彼の事は弟か兄みたいな目線でしか見てこなかったので「好き」とかそういう感情は全く芽生えなかった。
仲のいい兄弟ぐらいの気持ち。
「でも一人の男の子とずっと仲がいいなんて羨ましいなぁ。私そういう人と付き合ったらうまく続く感じがするんだよね」
その友達の言葉に私の何かがひっかかり始める。彼に対する気持ちが徐々に変わり始めたのだ。
「詩、帰ろうぜ」
「あ、うん」
毎日一緒に登下校するのが二人にとっては当たり前。けど周りから見たらただのカップル。
最初は全然気にしなかったが友達のセリフが頭の中でループし、周りの視線を気にすようになった。
「ねぇ周ちゃん」
「ん?」
「周ちゃんは彼女作らないの?」
「うん。 別にそんなのいたってしょうがないだろ。それに仲良くできる女子なんてお前だけいれば十分だし」
「え?」
「そういう人と付き合えたら長く続きそう」「仲のいい女子なんてお前だけでいい」
その二つのセリフの歯車がガッチリかみ合い、自分の心臓がドキッと跳ねた。
その跳ねは収まるどころかむしろひどくなる。
ああこれが好きという感情なのか。同時に恥ずかしさも芽生え彼の顔を直視できなくなり、今にも猛ダッシュしてこの場を抜けたい気分になった。
その日から彼ともうまく話せなくなり、一緒に登下校をする機会も減った。
それでも「一緒に帰ろう」と誘ってくる。すごい嬉しいけど、私は周りの視線が気になって一緒に帰りたくても帰れなかった。
「ごめんちょっと残ってやることがあるから、先に帰ってて」そう断る時が何回もあった。
だんだん彼との仲が崩れ始めてるときに自分の中で大きな事件を起こしてしまう。
それはある日、彼が一緒に帰ろうと誘いに来た時だった。
「ねぇやっぱりあの二人付き合ってるよね」
「絶対そうでしょ。じゃなきゃ一緒に帰ろうなんて言うわけないでしょ」
「春花さんももったいないね、あんなのと一緒だなんて」
と若干不良気味の女三人組がもろ聞こえる声で話していて正直、ムカついた。
ヒソヒソ話にムカついたわけではなく、彼の悪口に対してムカついた。
あんなの? 何も知らないくせに周ちゃんをバカにするんじゃない。
あの場でそいつらに言ってやればよかったのに、私にはそんな度胸なかった。
そんな事続くのも嫌で――
「もう、私周ちゃんと帰りたくない」
「え。なんで? 俺なんかした? 嫌なことしてたんなら謝るよ」
「違うの。けど今日はもう帰って」
「なんだよ」
無理やり教室から追い出す形になってしまった。彼は面白くない顔をして一人で帰っていった。
「うわー彼氏君フラれたー」
「今の超映えね?」
「目の前でカップル別れるの超メシウマ」
今にも殴りたい気持ちを抑えながらその場を後にした。
だが次の日もその次の日も。
「詩、帰ろう。ちょっと話しながら――」
「うるさい! もうやめてよ!」
彼には迷惑をかけたくない。でも不器用な私がとったのは彼から遠ざかること。
ホントはこんなことしたくない。けど臆病でわがままで傲慢な私はこの方法しかなかった。
この時すでに中3の春。この頃から彼に対して冷たい態度をとるようになった。
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