第6話

 戻ってきた。たった一日で。

 まさかこんな早く戻れるとは思ってなかった。

 でも何がキッカケで戻れたのか全くわからないし予想もつかない。

 一番驚いたのは確かに鞄に入れたはずの弁当がない。身に着けたものはきちんと持ってきているのに。

 ‥‥‥いやないのか。もともと詩の作った弁当はこっちには存在しない。しかしスマホや学校の物はどちらの世界にも存在するので切り替わっても存在はしている。

 となれば冷蔵庫の中身が変化していたのも頷ける。

 こっちには中身がないが冷蔵庫本体はある。一方で向こうには冷蔵庫本体もあるし、中身もある。

 こっちに存在していないものは向こうにあって、逆に存在しているものは向こうにはない。この法則で間違いないだろう。

 ひょっとして詩にもこれが言えるのか?

 こっちにはデレがないけど向こうにはある。反対に向こうにはツンがない。

 ないない。それはない。そんなマンガみたいな話あるわけ‥‥‥

 いや今までの事を考えると馬鹿げた話じゃあない。 この話はあり得る。

 そういう事にしておこう。これで一つ謎が解けた! よっし!


「あんたボケっとしてないで早くしないと遅刻するわよ」


 俺が心の中でアッツアッツに興奮していたところにキンキンの冷却水をぶっかけてきた。


「ああ。そうだな」


 くるりと方向転換して学校へ向かう詩を見て自分の中で何かが思わずポロッとあふれた。


「待ってくれ詩」

「!」


 俺の呼び声にピタッと止まりそのまま反応する。


「なによ。私はあんたに用事はないわ」

「俺はあんの。そんでさ、久しぶりに一緒に学校行かないか?」

「はぁ? 何言ってんのよ。やっぱりストーカーだったのね」

「ああ、ストーカーでもなんでもいい。たまにはいいだろ? 幼馴染なんだし」

「‥‥‥勝手にすれば」

「わかった勝手にする」


 さすがに手をつなぎはしないが、隣で一緒のペースで歩くだけで充分。

 たまに詩の顔を横目で見るけどなんとなく笑いをこらえてそうな感じがするが気のせいだろう。

 今の目的は詩と昔の関係に戻りたい。せっかく一緒の学校にまで通ってるわけだしこれぐらいいいだろ。

 

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


 しっっかし会話がないなぁ。歩き始めて何分か経つけど全く会話がない。

 こちらからなんて声をかければいいかわかんないし、向こうの時は終始詩がしゃべってたから続いたけど‥‥‥。


「ねぇ」


 なんて悶々となっている中、俺たち二人の静寂を先に破ったのは詩だった。


「あんたって昼ご飯いつも購買のパンよね」

「お、おう」


 そう。俺はいつも昼飯は購買のサンドイッチとメロンパンで済ましている。向こうにいた時は詩が準備してくれたけどね。

 詩が俺の昼飯事情を把握していたのには正直びっくりだが、なぜだろう。


「そ、それじゃ栄養が偏るわよ。高校生なんだしもっとガッツリ食べなさいよ」

「お、おう‥‥‥」

「‥‥‥」


 え! それだけ⁉ やっと会話が始まったと思ったらお母さんみたいな事いって終わり⁉


「だ、だから、わ、私がお、お、おべ、おべん」

「ど、どうしたんだよ」


 詩がすげぇ挙動不審になって俺も焦る。言いたいことあるならこの際だから言ってほしいのだが。


「言いたいことあるならハッキリ言えよ。こっちもスッキリしないんだ」

「‥‥‥んもう! 私があんたのためにお弁当作ってきてやるっていってんのよ!」

「最初からそう言‥‥‥はいぃ?」

「二度も言わせようとすんなこのボケ!」

「いだぁ!」


 豪快な右フックを俺の肩にかます。女の子のパンチといえど結構痛い。

 それより、べべべべ弁当ですかい? 嘘だろこっちの詩も料理できたのかよ。

 だがしかーし。おそらく料理スキルが天と地の差がある。と思う。

 俺はこっちの詩が料理している姿を一度も見たことがない。なので詩が料理できるのかは未知数なのだ。

 

「詩お前料理できたんだな」

「そうよ。こう見えて毎日ご飯作ってるの」

「そうだったのか。お前の事結構知ってるつもりだったけど、知らないこともあったんだな」

「とにかく明日楽しみにしてなさい。あんたのフルコースメニューの一種にバァン! と埋め込んでやるわ」

「お、おう楽しみにしてるよ」


 気のせいか詩の表情が少し柔らかくなったような感じがする。

 ああ今なら何となく言えそうな気がしてきた。よし! いけ! 言うんだ俺!

 精一杯の思いを今ここでぶちまけるんだ!


「なあ詩」

「なによ」

「手つなごうぜ」

「ぶちのめすわよ。この変態」


 ダメでした。

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