第5話
うーん今のところ冷蔵庫以外の家具家電に変化なし。
一緒にご飯を食べていた詩には「洗い物はやっとくから今日はもう大丈夫ありがと」と言って早めにご帰宅していただいた。
「最後までやる!」って言ったけど一刻も早く家を物色したかったのでそんな願い事は聞かなかった。
話を戻そう。
仮に今俺がパラレルワールドにいるとして、幸いなことは生活の支障の無さに限る。
ネットで調べた通り、タイムスリップなんかしたら生活に支障がでるはずだ。
変化したのは詩の雰囲気と、時間そして冷蔵庫の中身。この三つだけでありいずれも変化したからといって大きな影響はなかった。
仮にといったがここまで変化があればここはパラレルワールドだといっても過言ではないかもしれないな。
問題なのはどうしてこうなったのか、戻る方法など一番重要なことがまだわからない。誰かに相談するわけにもいかないし、「俺違う世界からやってきたかもしれない!」なんて言うのもおかしい。
ネットの事例にはもとに戻った人もいれば、そのまま行方不明になった人もいるそうだ。
「考えるだけ無駄だな。今日は寝よ」
ベッドを整え横になる。少し疲れていたのかすぐに眠気が襲ってきた。暗闇に包まれすべてを癒してくれるこのベッドに身を任せた。
「‥‥‥」
ガチャ‥‥‥ギィ‥‥‥
ゆっくり扉のきしむ音が部屋に響く。
「‥‥‥寝てる寝てる。周ちゃん今日はなんかおかしかったぞ♪」
えい! とほっぺを人差し指で突っつく。当然起きない。
それをみてニヤけが止まらない詩は自身のいたずら心がフルパワー全開。
「えへへ~寝ている周ちゃんの寝顔かわいい~今なら何しても抵抗しな~い」
いろいろイタズラをし、最後にはベッドに侵入。
広いベッドではないので当然狭いが詩には関係なく抱き着いて解決。
「いつもならこの時間はまだ起きてる時間なんだけど、今日は早いんだね」
問いかけても寝息を立てているので当然起きない。
あ~この寝顔一生見てられる。誰にも見せたくない。もう好き。大好き。
「寝ているときに襲うのは卑怯だよね、意識があるときにしなきゃ」
今すぐ襲いたいのを我慢し、周の腕を強く抱きしめた。
「フフ、お休み」
次第に詩も寝息を立て深い眠りについた。もちろん周より早く起きなければいけない、なぜなら弁当を作らないといけないから。
*
ピピピピピピ!
「アラームうるさっ!」
頭上にあった目覚まし時計のアラームを止めて時間を見た。
「まだ6時か」
「おっはよぉぉ!」
「どわああああああああ」
「そんなに驚かなくても‥‥‥」
特殊部隊の突撃並みの勢いで詩が俺の部屋に入り挨拶。お前昨日よりひどいからな。
「つか、なんで――」
こらえた。詩の行動の目的がわかったから、これ以上言わなかった。
「毎朝悪いな。弁当まで」
「いいんだよん。好きでやってることだし」
おそらく朝から夜まで俺のご飯を作るのは日課となっているのだろうな。
これなら嫁って思われてもしょうがないか。やってることマジで主婦みたいだし。
単なる世話好きなのか俺に好意を持っているのかどちらかは不明だ。
どっちにしろこういう面倒な事をやってもらえるだけすごいありがたいし嬉しい。
「周ちゃんみそ汁の具豆腐と油揚げどっちがいい?」
「油揚げで」
二人で朝食を済ませ登校する準備をする。詩が作ってくれた弁当も忘れずに鞄へしまう。そのほかの忘れ物もない。
「よしじゃ行こう」
お互い靴を履き替えて玄関の扉を開ける。
「今日の晩御飯――」
「え?」
そこでプッツンと会話が途切れる。あれ? と思い振り向いたが詩の姿がない。
恐る恐る玄関から外に出ると――
「また一緒に出てきた。ホントストーカーみたい」
もはや懐かしく感じてしまうこの冷たい言い草。
その声に反応して横を見るとついさっきまで後ろにいた詩がなぜか自分の家の玄関から出てきている。
「なにジロジロ見てんのよ変態」
俺は自分の中で何かがパチッとハマったそれは――
あ。これ戻ってきたやつだ。
と。
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