第4話

「話?」

「そう、放課後でいいから少し話したい事あるんだ」

「あー別にいいけど。すぐ終わる?」

「多分な」

「なんだそりゃ」


今朝の件をトビに相談しようと決めた。

帰りながらというのも考えたが、おそらく帰りは詩と一緒になる。

そんなに長引くような相談でもないし、ホームルームが終わった後ささっと済ませることにした。


   *


 ホームルームが終わり放課となり、すぐトビのところへ行く。

 前を見ていたトビの肩をトントンと叩いて合図する。


「おっけおっけ」

「ここじゃなんだし、図書室でいいか?」

「おう」


 そういって俺たちは図書室へ向かった。18時までは解放されているのでちょっとした話をするのにはうってつけだ。


「で? 話ってなんだ?」

「トビは今まで接した相手が急に態度が変化して、その上時間も少しずれたのを目の当たりにしたらどう思う?」

「なんかややこしい話だな‥‥‥まぁおかしいなとは思うな」

「だろ? それについてなんか思いつくような話はないか? あきらかに時系列があってないとか」


 トビは俺の問いに少し考えこみ、ついにはスマホを取り出してネットで調べ始めた。

 するとトビはスマホを机におき俺に見せるように出した。


「お前が知りたいのはこれじゃないか?」


 その画面にはこう書かれていた。


「並行世界‥‥‥別名パラレルワールド‥‥‥」

「名前ぐらいは聞いたことあるだろ。ほら前にこれを題材にした鬼ごっこの映画があったろ」

「そういえばあったな、だいぶ前だけど」

「別世界に行ったなんていう話もちょいちょいあるらしいな。日本ではあんまりないけど」

「ふーん」

「なんだ変な本でも読んだか? お前影響されやすいからな」

「そんなところだ。気にしないでくれ」


 あまり話を深掘りされたくないのでトビの話に適当にあわせる。

 この話を持ち掛ける時点で少し怪しいと思うが大丈夫だろう。


「話ってそれだけ? わざわざ図書室で話すことなかったんじゃない?」

「いやそういう系の本置いてないかなって思って図書室選んだのよ」

「スマホで即解決だったけどな」

「そこは俺の機転の悪さだ」


 図書室にきてわずか数十分。本も借りずにこそこそしてる俺たちを見てた図書委員が帰り際に「次はちゃんと本を借りてね」と少し怒り気味で注意され、

 二人で「すいません」と謝って図書室からでた。


「んじゃ、また明日な」

「おう。また明日」


 互いに挨拶をかわし別れたところで後ろから人の気配がする。そろりそろり狂言師並みの歩き方で近寄ってくるが、誰なのかもちろんわかっているので振り向かないで声をかけた。


「じゃ帰るか詩」

「え! なんでわかったの⁉ 驚かそうかと思ったのに。もしかして見聞色の覇気‥‥‥!」

「いや足跡で気づくし、そんな事やってくるのお前しかいないでしょ」

「クソ~!」

「そんで見聞色なんて使わないわ。マントラはつかうけど」

「いやそれ同じだから」


 そのネタ知ってるとはなかなか詳しいな。

 その横で「ねぇねぇカミエとかならできそうじゃない?」と首をヒョイヒョイ横に振ってまだ終わらない模様。


「とにかく早く帰ろうぜ。海賊の話はそのあとだ」

「じゃ、帰りながら話そうね~」

「はいはい」


 帰りも当然手をつないで帰ることに。朝と比べ人が少ないので人目は気にならなかった。



その日の夜、ベッドの上でスマホをいじりながらある事を調べていた。

それは放課後トビと話していたパラレルワールドについてだ。

基本的にパラレルワールドとはある世界から分岐してそれに並行している別世界の事を言うらしい。

 

「並行している‥‥‥か。だったら時間のズレはないはずだが」


 そう思ってさらに詳しく調べてみると実際に体験した人の話がいくつも載っていた。

 信憑性に欠ける話ばかりだが、自分が起こった事と似ている話があるかもしれないと細かく読んでみた。

 ――しばらく読んでいてわかったのは必ずしも時間が並行していない事と、タイムスリップ的な事も起こりえるつまり、似た世界じゃない場合もあるらしい。そのほとんどが気づいたら元の世界に戻っていたとか。

 日本でも偽1万円硬貨で騒ぎになった事例もあり、素材も希少なもので作られていて偽物と呼ぶにはかなりクオリティの高いものだったらしい。

 一部の間ではこれは別世界の代物ではと話題にもなった。


「ん~やっぱり参考にならない話ばかりだな。俺のやつとはかけ離れていてなんかなぁ」


 結構細かく調べてみたが自分の事例と似ている話はなかった。

 そもそも自分の場合はパラレルワールドなのかどうなのかもわからない。ただ玄関開けただけだし。

 

「俺も気づいたら元に戻って詩の雰囲気も変わってたりして」


 正直なところ冷たい詩より今の詩のほうが接しやすくて気が楽だ。弁当もうまかったし。


「呼んだ?」

「うわあああああああ」

「そんなびっくりしなくても‥‥‥」


 突然詩が俺の部屋の扉をいきなり開けてお風呂の何とかスキーみたいに「呼んだ?」っていい声を発した。

 もうお前立派な忍者だよ。そして思春期の男子部屋に無断で入ってくるなよ‥‥‥モゾモゾしてたらどうすんだ。


「何しに来たんだよ?」

「え? 何ってご飯作りにきたんだけど」


 お昼に飽き足らず夜ご飯まで作ってくれるの? いや嬉しいよ? そうじゃなくて事前に連絡が欲しかったって事。


「来るなら前もって言ってくれよ」

「いつもこの時間に来てるじゃん。紗枝さえさんいつも遅いからって」


 紗枝さえとは俺の母親の名前である。たしかに母親はいつも帰ってくるのが遅く、父親も海外におり家にいない。

 なので今まで適当に済ませていたし、今の今まで詩が飯作りに来ることなんて絶対になかった。

 やっぱりパラレルワールド説濃厚かもしれない。


「今日は何食べたい?」

「作ってくれるならなんでもいいよ」

「おっけー」


 顔の前に右手でOKマークを作って返事をし、台所へ向かった。

 なんでもいいよと言ったのは冷蔵庫の中身がないのをわかってて言ったのである。さすがに冷蔵庫の中身まで変わっていたら鳥肌ものだ。

 中身がない冷蔵庫を見てどう反応するのか楽しみだ。

 

 ‥‥‥‥‥‥。


「あれ? 何も言ってこない・・・・・・」


 様子を見に台所へ向かってみることに。そこには何食わぬ顔で包丁をさばいている詩と多数の食材が。


「なに? 待ちきれなかった? もう少し待っててね」

「食材は今買ってきたのか?」

「ううん。いっぱい入ってたよ。紗枝さんストックしといてくれてたんだね」


 は⁉ いやいやそんな馬鹿な話があるかい。昨日の時点でというかいつもうちの冷蔵庫は空っぽなんだぞ。唯一入ってるとすれば麦茶ぐらい。

 それが母親がストック? あんなめんどくさがりの母親がやるわけなかろう。

 しかし詩が嘘をついているとは思えない。実際に買ってきた形跡もないし。いやでも家から持ってきたっていう可能性も無きにしもあらず。


「俺の記憶では空っぽだったような気がしてさ。家から持ってきたとかじゃないのか?」

「うん。うちもこんなにいっぱい食材ないよ」


 うーん。やっぱり嘘じゃない。

 冷蔵庫も一緒にパラレったか? 家具家電も変化はないと思っていたがまさか冷蔵庫の中身が変わっていたとはな。

 もしかしたらほかの物も変化があるかもしれない。が、今やったら確実に怪しまれるので詩が帰った後にやろう。


「はいできたよ~」


 エプロン姿の詩が出来上がった料理をテーブルの上の置く。

 予想はしていたが一緒に食べるんですね。一人で食べるより全然マシだからいいけど。

 なにを作ったのかはご想像にお任せします。おいしそうとだけ言っておこう。

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