第3話
「おっすお二人さん。今日もやってるね~」
校門をくぐってすぐの事、後ろからニヤニヤしながら声をかけてきたのは同じクラスの
こいつも小学生からの付き合いで飛澤の飛をもじってトビと呼んでいる。
「おおトビ。よかったお前は変わってないな」
「ん?」
トビは「何言ってるんだこいつ」みたいな顔で俺の事を見てくる。こいつはいつも通りで安心した。トビまで変わっていたらいよいよパニくっていたかもしれない。
「詩ちゃん、こいつどうかしたん?」
「私もちょっと違和感感じてね~でもそこまで変じゃないから大丈夫だよ」
俺からすれば今この状況が違和感しかない。でもおかしいのは詩だけでトビをはじめ学校の造りや他の生徒、先生など全く変わっていない。
だから余計わけがわからなくなる。いつもと違うのは時間15分のズレ、詩の雰囲気そして記憶にない会話や行動。
これだけでも十分におかしいと言える材料があるが、今はそんな粗探しをしている場合ではなくこの先の状況をいち早く飲み込むのが最優先だ。
考え込むのはそのあとで遅くはないだろう。
「じゃ、お昼休みにねバイバイ」
「お、おう」
お互い靴を履き替えてそれぞれのクラスに向かう。クラスが違うのも変わっていない。このあとの最初のイベントが昼休みならば、そこでも周りの反応も確かめないとな。
「周、お前なんかよそよそしくない?」
「そうか?」
「うん。さっきもすごい周りを気にしてたし」
「気のせいだろ」
向こうも若干俺に違和感を感じてるみたいなので、あんまり下手な事すると余計にややこしくなるかもしれない。
だからなるべく話を合わせていかないと。
*
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
午前中最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。ここまで授業の進み具合や席の位置その他諸々変化なし。
問題はここからだ。詩がどういう風に昼飯を誘ってくるのか、わかっていることはこちらからは誘わないという事。
今の雰囲気上詩の方から確実に誘ってくるはず。
なんて考えていたら後ろの方の扉がガラッと勢いよく開く。扉をあけた正体はもちろん詩。そして開口一番――
「周ちゃん一緒にた~べよ!」
と教室全体に詩の美声が響き渡る。当然こっちも恥ずかしくなり目のやり場に困ったのだが‥‥‥
「あ、詩ちゃんいらっしゃい~ほら旦那さんあそこで待ってるよ」
「やだなもう~旦那とかそんなんじゃないから」
「あたしも彼氏つくって同じ事してみたい~」
一部でキャッキャッして照れくさそうにする詩。驚くべき所ははなんと冷やかすどころか、むしろウェルカム。そんで旦那て。
同じく事の一部始終を見ていた近くの男子生徒がうらやましいそうに俺に声をかけてきた。
「いいなぁ愛妻弁当。あんなの見てると母ちゃんの弁当食ってるのがバカバカしいぜ」
「俺もあんな幼馴染欲しかったわ~」
「俺も彼女つくって同じ事されてぇ~」
「俺だって強制はしてないからな」
多分。
幸いなのは、他の男女の生徒から干されていないと言う事。羨ましがられるだけで済んでいるのは正直ホッとしている。
クラスで孤立してみんなと関わりづらくなるのだけは避けたかったので安心した。
女子生徒との会話を終えた詩がこちらへ向かってきて、使われていない椅子をとって俺と対面するように座り一つの机で食事をするみたいだ。
「はい。これ周ちゃんの」
と机に出してきたのは少し大きめの二段弁当箱。男が食べる分には十分なサイズだが、女が持つとかなりでかく見える。
俺は早速手に取り弁当箱を開ける。
気になる中身は下の段はびっちり敷き詰められたご飯、上の段には卵焼き、ほうれん草のお浸し、唐揚げ、ウインナー、ミニトマト、焼き鮭がこれまたびっちり詰められていた。普通にうまそう。
一方で詩の弁当箱はかわいらしく、ちいさな弁当箱。中身は大体俺と一緒だった。
二人で「いただきます」と言って食べ始める。じゃあ最初は卵焼きを――
「おいしい?」
「‥‥‥うまい!」
「おおよかった~。まあ毎日作ってるから味は変わんないと思うけど」
いや、俺はあなたの料理初めて食べます。けどそれは置いとくとして。
これはマジでうまい、そのうまさに箸がやめられないとまらない。さらに服がビリビリに破れそうだ。
ほかのおかずも最高ですぐに食べ終わってしまった。詩からは「ゆっくりたべなよ~」と言われたが関係ない。
だっておいしいんだもん。
くだらない会話を交えながら昼食を済ませる。二人で「ごちそうさまでした」と交わし片付けて鞄にしまおうとしたが‥‥‥
「持って帰って洗うからいいよ」
「いや作ってもらったうえ洗わせるのはさすがにな」
「だから周ちゃんの弁当箱一個しかないんだからこっちで洗ったほうが効率いいって毎回言ってるでしょ?」
いや、初めて聞きました。
「別に無理して作らなくてもいいぞ」
「好きでやってるからいいの。はい頂戴」
彼女の圧に負けてしまい、弁当箱を渡すことになった。
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