第2話

 状況が全く理解できず目の前の事と思考が全く追いつかない。

 俺が忘れ物をとってここまで来るのに1分程度、早くて30秒程度の時間だ。

 その間に戻ってきた? いやそれはありえない。姿が見えなくなるまで離れたのに1分以内でここまで戻るのはボルトでも不可能だ。

 戻った戻っていないもそうだが、さっきのにこやかな笑顔なんだ? 雰囲気もガラッと変化している。


「お前先に行ったんじゃなかったのかよ。なんで戻ってきたんだよ」

「え? 私周ちゃんと学校いくのにここでずっと待ってたよ? 昨日約束したじゃん」

「昨日‥‥‥?」


 昨日どころかここ最近あいつとまともに会話すらしていないし、したとしても一緒に登校しようなんて絶対に言ってくるはずがない。

 あいさつしただけで「話かけるな」って冷たく言ってくるやつだぞ。


「周ちゃん昔から忘れっぽいからふとした会話なんて覚えてないよね」


 と悲しそうに下を向く彼女。


「いや、お前さっき『おはよう』ってあいさつしたとき気安く話かけるなって‥‥‥」

「ええ? 今日初めて会ったよね? 周ちゃんにおはようなんていわれてないよ‥‥‥?」


 二人とも頭の上に『?』が出てくるぐらい会話がかみ合っていない。

 さっき見たのは幻覚? それとも夢?

 それと同じく彼女の雰囲気についても気になるが。まぁいいやと何気なく時計をみた。

 ――時刻は7時15分

 15分? 時計がずれてるのかとスマホの時間をみたら、同じく7時15分でずれてはいない。

 さっき見たときは確実に7時半だった。納得できず詩にも時間を聞いてみる。


「詩、今何時?」

「今? 7時15分あ、16分になったよ」


 やっぱりおかしい。

 体のあらゆるところをつねったが痛覚がはっきりしていたのでやはり夢や幻覚ではない。


「どうしたの? 急につねり始めて。そんな事してないで早く行かないと遅刻しちゃうよ」


 と俺の腕を強引に引っ張って歩き始めそのまま指を絡めるように手を握ってきた。いわゆる恋人つなぎというやつだろうか?

 それにびっくりして思わず抵抗した。


「ちょ、待って。どしたの」

「ん? いつもこうしてたじゃん。それとも周ちゃん恥ずかしくなった?」

「いや、お前そんなんじゃなかったろ」

「ええ? 私からすれば周ちゃんのほうが変だよ」

 

 確かに手をつないで登校したこともあるが、お互い恥ずかしくなってほかの生徒に見つかる前にやめようとなりそれ以降手はつないでいない。

 それも小学校の時の話だ。俺が困惑してるなか一向に手を離そうとしない上、気にせず話を続ける。


「今日もお弁当作ってきたから一緒に食べようね。最近好きなものしか入れてなかったから、今日はちゃんとバランスを考えて作りましたからね!」


 えっへん! とおっぱいを揺らしてドヤ顔をする。

 今日も? そもそも詩が料理ができるのかすら知らないのに加え、弁当作ってきたことなんて一度もない。


「詩って俺の彼女じゃないよね?」

「彼女じゃなければお弁当作っちゃダメなの?」

「い、いや‥‥‥」


 真剣な顔で言われたので強く言い返せない。もちろんその行為はめちゃくちゃ嬉しいしありがたいが、異性に弁当作って一緒にたべようなんてカップルじゃないとまず起こりえないシチュエーションだと思う。実際のカップルでもなかなか見ないのに。

 まあず~っと一緒にいた俺たちからすればそれがあっても不思議ではないと思った。


「私、周ちゃんの彼女でもいいかな。別に最初からそういう風に見てたわけじゃないけど、ほかの男子にはこんなこと絶対しないというかしたくない‥‥‥」


 顔を赤らめながらプイッっとそっぽを向いた。その様子に俺は思わずかわいいと思ってしまった。


「でも、周りからはカップルって思われてるし今更って感じだけどね」


 再度俺の顔をみてニコッと微笑む。やっぱりかわいい。

 それよりも周囲の人たちからカップルって思われてる‥‥‥? そこまで親密になった覚えはないし、あり得ない。

 でもまあ、昔の関係にすこし戻れた気がして少しうれしかったのは間違いない。


「あ~もうすぐ学校ついちゃうなぁ。おてて離したくない~」


 つないだ手をブンブン振り、口をとがらせながら言う。

 俺はほかの生徒の反応を伺っていたが、意外にもまわりの生徒の反応は薄かった。冷やかすやつもいないし、後ろ指指す奴もいない。

 やっぱりおかしいと思いながら学校の校門をくぐった。

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