違う世界の幼馴染はデレデレだった

伊笠ヒビキ

第1話

「気安く話しかけないで」


 そう冷たく、空気さえも凍らせてしまうような言葉を放ったのは俺の幼馴染の春花詩はるはなうた

 生まれた病院から年齢、住んでいる地域までそして幼稚園小中高とすべて同じの腐りに腐りきった縁なのだ。

 周りからは「かわいい幼馴染がいていいな!」と羨ましがられるなんともありきたりな話だが、俺からすれば何十年って同じ顔を見てきたからこいつがかわいいのか正直わからない。

 幼馴染というか兄妹? 姉弟? みたいな感覚だったからお互いそんな気持ちはない。と思う。

 割と中学までは普通に仲がよかったのだが、高校に入って突然あんな風に言葉のマヒャドを打ってくるようになった。理由はわからない。

 家も隣同士だし通っている学校も同じなので、自ずと家を出る時間は被る。

 今日もちょうど一緒だったので、「おはよう」と挨拶をしただけなんだが‥‥‥

「毎回毎回登校時間被ってるけどなんなの? あんた私が家出るところ待ち構えてるんでしょ? 気持ち悪い」

「違うわ。そっちこそ俺に合わせて出てきてるんじゃないのか?」


 無論、そっちがその態度をとるならこっちもこっちだ。こういうタイプはちょっと優しくしたり、自分が引き下がったりするとすぐに調子に乗るタイプだ。

 何十年も一緒に居たわけだし、今更もっと親密になろうとも思わないので俺は引き下がらない。


「なにをバカな事いってるの? これだから勘違い男は。そんなんだから彼女もできないのよ」

「別に彼女いるのが高校生のすべてじゃないだろ。それともなに? お前は彼氏の有無で高校生活みたされんのか? 安っい高校生活だな」

「‥‥‥こんなバカとしゃべってたらこっちまでバカが感染るわ」


 と吐き捨てて踵を返し歩き始めた。やれやれと思い俺も学校へ向かうが、すぐ前を歩いてた詩がこちらを向き睨みつけて言葉を発した。


「ついてこないで。ストーカー」

「方向同じなんだからしょうがないだろ」


 俺がそう言い放つと、逃げるように早歩きで学校へ向かった。それを見た俺は「もう嫌われてるんだなと」確信しあまり関わらないほうが詩のためだと自分に言い聞かせた。長い間仲が良かった反面、急にあのような態度をとられると結構ショックが大きかった。

 

  *


「‥‥‥なんでついてこないのよバカ‥‥‥」


 遠く離れたところで一度後ろを振り向き思わずそんな言葉がでた。そこに彼の姿はなく、自分の行動にひどく後悔してしまう。


「なんで素直になれないんだろ‥‥‥昔はあんなに仲良かったのに」


 後悔して気分が落ち込んでる真っ最中に鞄のなかのスマホが着信音を鳴らす。朝早々電話をしてくる人は決まっていた。


「なによお母さん。忘れ物なんてないからね」

(ない言ってんだい。ほらしゅうちゃんにつくったお弁当忘れてるじゃない、これで何回目よもう)

「それはいいの。渡せる時がきたらちゃんと渡すから」

(そういってもう何ヶ月経つのよ。あんたも父さんに似て素直じゃないんだから)

「うるさい。父さんと一緒にしないでよ」


 イライラしながらスマホの画面を力任せにタップして通話を切った。

 大きくため息をつき、先ほどまで早いペースで歩いてたのがいつの間にか普通の速さに戻っていた。


  *


「毎日あんなんじゃこっちもどう接していいかわかんねぇな」


 すっかり姿が見えなくなってからふと時計をみたら時刻は7時半。

 それをみて「早くいかなきゃ遅刻しちまう!」と焦ったところで忘れ物があったのに気づく。


「あ! スマホ忘れた」


 普段ポケットにスマホを入れているのですぐに違和感を感じたのが幸いだった。

 急いで部屋に戻りベッドの上で充電しっぱなしだったスマホをとって再び玄関に向かう。


「やばいやばい!」

 

 靴もちゃんと履かないまま玄関の扉を開けた。すると目の前にはいるはずのない人物がこちらを向いて立っていた。

 表情は少しにこやかで、まで怒っていたのが嘘のように。


「おはよう! 早くしないと遅刻しちゃうよ!」


 もう一度言う。先に学校へ向かったはずの春花詩が玄関前に立っていた。

 

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