第6話 ミステリアスな子には懐かれる
「よっし、着いたな……っと」
「ありがとう
やはり
「おー、やーっと帰ってきたか
「してねえよ。ほらご注文のコーヒーだ。
「こら誠、教室でモノ投げないのっ」
「そうよ黒高君、人にぶつけたらどうするの」
「あー、
すると側にいた青海には注意され、教室の後ろにいた桜花には詰め寄られ、それを最前席に座る
「
「うん? 緑丘? そういえばさっきまでいたけどどっか行ったな。トイレでも行ってんじゃないかーアイツ友達いねーし」
「タカヤ、お前相変わらず緑丘には
タカヤと緑丘は顔を会わせると、相手を意識的に無視することが多々あった。
もしかしたら緑丘がいなくなったのもタカヤと鉢合わせしたからかもしれない。
……とはいえ、あまり仲良くなって欲しいなとも思わなかった。二人とも変なことに頭を働かせる奴だ。「組んだら絶対にヤバいことになる」と、俺の勘が告げている。
「さて、っと」
「あれ、どこ行くの誠っちゃん?」
「俺もそこら
「黒高君、本当に好きなのね、散歩……」
「ほっといたら、ひたすらうろついてるからね、誠。晩御飯の時間になっても帰ってこない時なんてもうしょっちゅうで……」
「黒高君はそういうところがあるわよね……自分のことにはとことん
「そうなの。連絡入れても携帯をちゃんと確認しないから全然反応なくて。この前なんて帰ってきたの夜の九時だよ?」
「そんな時間まで当てもなくうろつくなんて……ちゃんと勉強は」
「さーてちょっくら行ってくらーっと!」
桜花と青海の(俺に対する)
だいたい散歩の何が悪いのか。健康的で良いじゃあないか。……さすがに件の九時まで歩いていたのは反省しているが。
ただ、元から足を動かすのは好きである。陸上を止めて
個人的な散歩のルールとして、同じ日に同じ場所、同じルートは辿らないと決めている。校内を練り歩くときも例外じゃないが、今日はあちらこちら色々歩き回った。
と、なると。
「あそこに行くか――」
合宿所までの
奥まで行って帰ると、
「見つけた……」
「おう?」
さて行くかと思った瞬間、
とろんとしたタレ目は眠たげだが、
「なんだ、
「うん、ワタシだよ、誠」
相変わらずの
まあ、間と雰囲気の二つだけではなく制服の着こなしも理由には挙がるんだろう。
ブレザーをゆるく
いちおう―だいぶ緩くて逆に不安になる―
ただ、本人にその気は無い。俺と同じく、というより俺よりもマイペースで自分への視線に
胸元から目を逸らしつつ、紫場の目を見る。
綺麗な
「どうしてこんなとこに?」
「誠を探してた。登校したら誠の
「俺になんか用でもあったか?」
「…………。……?」
いやキョトンとされて首をかしげられてもな……。まあ、特に用事はないのだろう。ただ
本人はあまり気にしていないらしいが、紫場はどうも友達が少ないらしい。
無口だし、表情も無く制服は着崩す。ついでに何を考えているか、
だけど。
「……散歩するけど付き合うか?」
「うん」
この通り、紫場は素直な性格をしている。普段はただ、ボーッとしているだけだ。
例えるならそう、のんびり
俺もクロという
とかく紫場は、意外と付き合いやすい。あまり自分から動くことはないが、こちらから歩み寄れば、しっかりと答えてくれる。
……まあ、近付くまでの勇気を持つのが、ちょっと要るだろうが。
揺れるチョーカーのチャームを横目に見ながら、ふと、
「紫場は寂しくないか? 友達居なくて」
「……? いるよ、友達。誠がいる。あと桜花とか菊理もいる」
「量より質なのな……」
「特に、誠が好き。菊理も好き。ちっちゃくて、可愛い」
「あー、ほどほどにな?」
紫場は菊理とは親しいが、視界にいれた瞬間に
お陰かどうか、菊理は紫場が
「牡丹ちゃんはわたしのコンプレックスを刺激する」と語っていたが、…………うん、同じ土俵で戦うのは、難しいだろう。
そんなことを思いつつ、二人並んで、のんびり進む。横にピタリと着かれていると、本当に散歩をしている気になる。
合宿所までの道は一本道だがゆるやかなカーブが何度かあって、途中に小さな川と橋まである。
ちょっとした和風庭園みたいで、ここが校内だというのも忘れてしまう。
本当に、散歩しがいがある場所だ。
物静かな紫場と歩けば、風の音もよく聞こえて気持ち良かった。
流し目に見てみれば、紫場の表情も、どこか柔らかい。
「散歩、好きか?」
「うん、好き。
「ああ、疾風丸か。元気してるか?」
「うん、ご飯もたくさん食べるし。クロちゃんは?」
「もうじいさんで昼寝ばっかしてるけど、あの様子じゃまだまだ生きるだろうな」
紫場も、犬を飼っている。「疾風丸」というお堅い名前に反した、白黒模様の小さい犬で、飼い主と違って
俺もクロの散歩でドッグランに行ったとき、紫場と疾風丸に顔を合わせることがあった。
本当に、見た目で損をしているなと思う。ホントは素朴で優しい子なのに。この一面を知ったら、もっと友達も増えるだろうに。
「お、見えてきたな、合宿所」
「オバケとか、出そうだよね」
「はっはっは、やめようなそういうの?」
俺はその
だけど目をこらして見てみれば、木造二階建ての建物は改装しただけあって古くささは無いし、
そう聞くと、泊まってみたくはある。まあ、帰宅部の自分とは縁が無いものだが。
「さて、そろそろ戻るか。丁度良い時間だろうし」
「うん、帰ろう」
じゃれつくように、紫場が腕にしがみついてきた。高校生離れした緑丘にも匹敵しうる胸が腕を挟み込んでくる。
……紫場は本当に、距離感を考えるのが苦手らしい。これじゃあ友達作りも大変だなあ……。
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