第5話 委員長は頑張り屋である
「まさか
そうすれば金を回収して罰ゲームとして自腹を切ることもなかったのに。
桜花は
母さんには期待していない。俺のずぼらはあの人の
……よく考えたら
「まあ飲み物は水道で
教室に戻ったらしい
――というか、あんまり顔を合わせたくなかった。まだ微妙に、胸がどきどきしていた。
タカヤと武崇には悪いが、コーヒーとほうじ茶はしばらく
「うん?」
通り過ぎかけた教室の戸が開いていた。確かここは、辞書やら地図やらが
ふと気になって中を
こっちに背中を向けているが、青みがかったロングヘアは知らぬものでもない。
さっそく資料室に入って、後ろから声をかける。
「おはよう、
「え?」
声をかければ、彼女はこっちを振り向いた。
桜花とは、また違った清潔感を纏っていた。桜花のものが清くて和むものなら、彼女のそれは、凛として涼やかなものだった。お茶と
「あ、
「別に良いだろ? 委員長は委員長なんだからさ」
透き通った声を発する口もキリっと結ばれていて、「クールビューティー」という
しいて言うなら、ミントグリーンの
「ところで、なにやってたんだ? なんだ、その段ボール?」
「これ?
青海の肩越しになにやらいじっていた段ボールに目を向けると、青海もそっちに目を向けた。
その中には赤い
新しく
本当に仕事が
「今日、二時間目は
「……うん? なんで二時間目の準備を
だけどすぐさま、じっとりと、
「もう、忘れたの? 一時間目は、
「……あー、そういえば
「さすがに、どっちでもないってことはないと思うのだけれど……全くもう、春休み気分が抜けてないのか、それとも一週間経って緊張感が抜けてしまったのかは分からないけど、もう二年生なんだから、しっかりしないとダメよ? 黒高君は少し、というか、だいぶだらしないところが……」
委員長として適当人間である俺に目を付けるのは分かるが、幼馴染の桜花も含めて、二人以上に気を引き締められるのはさすがに自分が情けなくなってくる。
だけどこれも
「あー、おう、その辞書、さっさと持っていこうぜ?」
「……あ、そうだったわね」
俺の指摘で気を取り直した青海は、サッとしゃがんで段ボールに手を掛けて持ち上げようとする。
しかし中身は分厚い辞書、それもクラス全員分となるとかなりの重さになるだろう。
女子の青海には、ちと
「大丈夫か委員長? 持ってやろうか?」
「う、ううん……大、丈……!」
「いや大丈夫じゃねえな!」
よっこいしょ、なんて掛け声も出さず、ぐいと持ち上げる青海だが、後ろに重心がいって一、二歩
青海の腰は細く柔らかくて、30冊近い辞書を持つには、頼りなかった。
重心が暴れる前で助かった。青海は難なく体勢を
「ありがとう、黒高君。助かったわ」
「ああ、構わね――」
……段ボールの上に、豊かな二つの膨らみが乗っている。
さすがに緑丘ほどではないが、それでも高校生にしてはボリュームがある。下から段ボールに持ち上げられた胸は、
「……あの、黒高君? もう大丈夫よ?」
「お、おうそうか」
青海から、ゆっくりと手を離して一歩
青海は「よいしょ」と身を軽く跳ねさせて、段ボールを持ち直した。同時に、乗せられた胸もたゆんと跳ねる。
前々から思っていたことだけども……委員長って意外と、というか、結構スタイルいいな。キリッとした雰囲気で、そんな印象は薄いけども。
「や、っぱり、ちょっと重いわね……」
「ああ、うん、重そうだな……
「は? メロン? ……――ッ!?」
……しまった。口が滑った。
胸を隠そうとしたのか腕がピクリと動き――段ボールに乗ってた胸も左右に揺れて――しかし段ボールを
「これはヤバい」と
すると青海は、さっと後ろを向いてなおかつ腕で胸を隠した。
青海は真面目で、平時は頼れる委員長だが、この通り不測の事態には弱いところがある。……いや、今起きた不測の理由は俺にあるからそこは
「……えっと、ごめんな委員長。とりあえずこれ、教室まで持っていけば良いんだな?」
「い、いいわよ大丈夫! 私が……!」
大丈夫と言いつつ、さっきの自分の
教室に戻るまでに、「あれ」を何人にも見られる可能性が頭を
だが、しかし。
「い、いえ、大丈夫だから。それにそれ、重いでしょう?」
「力仕事なら俺の方が向いてるし、階段だって登るだろ? スカートだって後ろ隠せないぞ」
「うぐ……! でも、やっぱり……」
「何を言われようが、渡すのは
青海は真面目だが、その
これでも引き下がらないなら
「……断じて断る。か」
「うん?」
それは、今日だけで何度か使った言葉だ。
「……分かった。ありがとう黒高君。お願いできるかしら?」
「ああ、任された」
一体なんの心変わりか、青海は
正直助かった。持ち続けるのは、ちょっとしんどかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます