第3話 ロリ体型は見栄を張る
「チクショウ……」
負けた。ったく、二人揃ってパーだしやがって。お陰で俺の一人負け。……まさか読まれていたか?
「いや、まさかな……?」
ジャンケンはしょせん運だ。偶然だろう、うん。
のんびり目的の自販機前に行けば、
「お、ありゃあ……」
「ぬおー……も、もうちょ、っと……!」
小さい。俺の
自分でも届くのだと言いたげに、顔を真っ赤にして腕を伸ばしているが、中指があと少し届かない。
ふるふると、サイドアップに小さく纏めた、色素の薄い毛先が揺れていた。
そんな様子が小動物みたいに愛らしくて、SNSにあげたら間違いなくあっと言う間に拡散されるだろう。
「おっす、
「あ、
身長は
だが三人いるらしい兄は身長が高く、「兄ちゃんたちに身長を奪われたんだわたしは!!」と絡みソーダをされたことがある。
だが
「お前飲めるのか? ブラック」
「……の、飲めるし。こう見えても大人で
重複表現だぞ、それは。
ちなみに自販機の高さは183cm、最上段はだいたい177cmで俺の身長と同じだと噂に聞いたことがある。
実際それは真実だろう。だって俺のすぐ目の前が最上段だし。
「押してやろうか?」
「……かたじけない。
「
菊理はサッとしゃがんで、取り出し口から黒々としたラベルのスチール缶を取りだした。……しゃがまんでも取れるだろう、というツッコミは敢えてせず。
「センキュー誠っちゃん! 相変わらず頼りになるなー! これからもヨロシク!」
「おうおう、存分に使えー」
返礼しつつ自分の買う分の金を入れてソーダを
続けざまに、それも雑多な
「え、誠っちゃんそんなに飲むの?」
「タカヤと武崇にジャンケンで負けたんだよ……」
「ああ、シロちゃんとギンちゃんにか。誠っちゃんジャンケンめっちゃ弱いもんね」
「いやいや、ジャンケンなんて運だろ運……」
「でも誠っちゃん最初は絶対グーじゃん。バレバレだよ?」
「……え?」
まじでか。今までのジャンケンを思い返してみたが、確かにパーで負けたことが多いような……気がしないでも、ないような……。だけどそれなりにアイコになったことだって……まさか。
「タカヤの奴、俺に
「あー。シロちゃんならやるなー確実に。頭良いくせにやることがアホだよねーシロちゃんて」
「全くだぜ。武崇は分からんが、タカヤはやりかねん。……そこで飲んでこうぜ」
「早く戻んなくていいの?」
「構わねえよ。
なにより今戻ったら文句付けちまいそうだ。これを利用しない手はない。今度のジャンケン勝負は今に見てやがれ。俺はもう一つ上の次元に行くぞ。
自販機のそば、
隣の菊理を見てみれば、封を開けたもののまだ口をつけてなかった。だというのに
「…………昨日のグレンブレイザー」
「うぐ!」
俺の
ヒーローモノの
菊理は、グレンブレイザーの大ファンで、登校に使うリュックにキーホルダーやピンバッチを付けていた。
そして
「お前も飲みたくなっちゃったかー」
「うぐぐ……だが買ったものは
覚悟を決めて口先をつけ、両手で握りしめた缶をぐいと
「にっっっが~~~……」
さっきよりも
なんとも
「無糖だからな、コーヒーは苦いぞ」
「ソーダ飲んでるお子ちゃま
「
「うむう……
菊理は惜しむ
缶コーヒー
「ふいぃ……けぷ。……いつもありがとう。誠っちゃんには世話になりっぱなしだなあ、本当に」
「なあに気にすんなって。俺とお前の仲だ。出来ないことは相手に頼る。それが友達ってもんだろうさ」
うなだれる菊理の頭をワシャワシャと雑に撫でこする。
同じ髪なのに桜花とはまた違った感触と匂いがした。
桜花の髪は撫でると「気持ちいい」が、菊理の髪は撫でると「楽しい」が先に来る。
身長差のせいか、なんとなくしっくり来るのだ。
「誠っちゃん、今わたしの身長のこと考えたろ」
「ああ、考えた」
「正直過ぎだろこのヤロー!」
考えてないと言っても「嘘吐くんじゃねー!」と怒るんだからここは正直に、はっきり言い切った。
腕をぶんぶん回してポコポコ殴ってくるが、驚くほど痛くない。
苦笑しながらちょっと頭を撫でても菊理は機嫌を直さずに、むきーと目を剥いて更に殴ってくる。地味ーに痛くなってきたが、それでも肩たたきレベルである。
「なんだ、菊理はちっこいのはイヤか」
「そりゃあまあ色々不便だしね……
むしろ背伸びしている子どもっぽさが引き立っている。
「だけど菊理は元気あんだろ? そのちびっこい体から余るぐらいに」
「だからちっちゃいっていうんじゃねー!」
「自分で言ったじゃねえか……」
再び殴りかかってくるのを、頭を
届かないと察した菊理は、殴りかかるのをやめて悔しそうに「ぐぬぬ」とこちらを
俺は「まあ聞け」と、抑えていた手から力を抜く。
「その余ってる分は、周りのみんなに振りまいてる。お前といたらみんな元気になるんだよ。だから、あんまりしょげんるもんじゃないぜ? みんな、心配すっからさ。菊理は元気なのが一番だ」
なんだか説教臭いことを言ってしまったが、間違いなく本心だ。菊理はしょぼくれてるよりも、ニッカリ笑ってる方が良い。
菊理はポカンとして、俺を見上げてくる。
しばらく、沈黙が続いて。
「……誠っちゃん、言うことがなんかおっちゃんみたい」
「誰がおっちゃんだ、誰が」
「わきゃぁああああ! やめろー!」
グシャグシャと頭をなで回して、髪の毛をボサボサにする。当の本人は止めろと言っているが、くしゃりと楽しそうに笑っていて、
やっぱり菊理は無邪気な方が似合っている。
ひとしきり撫でると菊理は顔を上げて。
「うっしゃ、なんだか元気湧いてきた! ありがとうね、誠っちゃん!」
にっこりと、
「それじゃああたし教室戻るから、またね!」
「ああ、また後でな」
菊理はとてとてと手を振りながら、ソーダの缶を捨てて教室に戻っていく。
うん、やっぱりあいつは元気なのが一番だ。さっきも言った通り、こっちも気分が晴れてくるし、活力が湧いてくる。
ただ──
「あとはコイツを
このコーヒーを飲み干すのに、気力を使い果たしそうではあるが。
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