第2話 女友達はフランクである
「一年
「
「
キツい
この
だけどあまり気にせず入学する生徒も多い。
俺もそのクチだ。家から近いし成績的には難なく合格できるから選んだ。……だけど、この坂と三年付き合うことも一考に入れておくべきだったんじゃあないか、過去の俺。お陰であと二年、俺はこの坂を登っていかなきゃならんぞ。
「大丈夫か桜花。お前、体力無いだろ?」
「もう慣れちゃったよ……。うーん、足が太くなっちゃうなあ」
えらく静かで穏やかな朝だ。こういう朝なら良いかもしれない。
なにせ死んだような顔をする
……だけども。
「
「のわっと!?」
ドン! と背中を思い切り張られる。
なんとか
……元気がありすぎるのも、考えものだと思う。
こんな朝っぱらからエンジン全開で
「なにしやがるよ、
「おはよう、蓮ちゃん」
「うん、桜花もおはよう!」
よく日に焼けた肌は
ただ、バイタリティがありすぎるのはどうかと思う。
「朝練か?」
「うん、
「お前、つくづくバカだと思ってたがとうとう
「まだまだ体力があるからやってるだけだっつのー!」
「ぐえ、おま止め……!」
首に腕を回して、ぐいと絞めてくる蓮。蓮がいるのは坂の下の方。だから体重が掛かっていて、
今は命の方が
桜花に視線で助けを求めたが「私日直だから行かなくちゃと」そそくさと行ってしまった。
おのれなぜここで捨て置く!? いつも俺を面倒見てくれる優しい幼馴染はどこにいった!?
「あ、そうだ誠」
「げほっげほっ……なんだよ……」
青空がやたら近く見えた瞬間に、
肺にどっと入ってきた空気が美味い。
知らなかった。春の空気が、朝の空気こんなに澄んでいるなんて。空気っていい。呼吸ができるって最高。800m走り抜けた時は息も吸うのも辛いのに。
呼吸ってのは大事だ。生きる為には必要なんだ。俺は今日初めて、そんな当たり前なことに気付いた。
喜びを噛みしめて振り向けば。
「誠も走ろう!」
蓮は俺の手を取って、やたら熱い視線を注いできた。……またか、と思わず「うへえ」と顔を
なぜか蓮はこの通り、やたらと走ろうと
……いや、なぜかっていうのは変か。実際中学までは、一緒に走っていた。
しかし、だ。
「すまんな、用意がないから無理」
「えー、いーじゃんいーじゃん、大丈夫だって!」
いーじゃんと言われても今は
しかも外周ということはこの150m坂を含めて900mぐらいはある。完全装備でも
そもそも。
「俺は、もう陸上辞めたんだから。走る理由がないんだよ」
「大丈夫、これを機にまた始めれば問題ない」
なんで
いやまあ、その
だけど、一度手放したモノにまた手を伸ばそうと思えるほど、俺は器用じゃない。
「
「出たよ誠の「
「ライバルって言ったって、もうお前の方が速いだろ?」
「いやいや、メンタルの問題だよ。誠と走るんだよ? 本気でやるに決まってんじゃん!」
俺は陸上をやってた時、蓮と同じ中距離をメインにやってた。蓮は練習の時も男子の練習に混じっていて、肩を並べてトラックを走った回数は千や二千じゃ足りないだろう。
男子の
たしか
……いや、なんでかっていうのもおかしいか。蓮の目的は、間違いなく。
「ライバル欲しいなら、他の学校に良きゃあ良いのに」
「分かってないなあ誠は……アタシは、誠と一緒に走りたいんだって!」
……この通り、とうの昔に走るのを辞めた俺と、また走るためだ。
蓮は
ふにり、と、腕がなにかに挟まれた。
さすがに
……どうやら、引きそうにないらしい。
「……しょうがねえなあ。
「マジで!?」
いったいどこまで嬉しかったのか、蓮は目をキラキラと輝かせて真っ直ぐ見ている。
……これじゃあ、なにか
今さら無理とは言えないし、明日はちゃんと付き合わなければ。
「ああ、マジ、マジもマジだ。だからほら、さっさと続きやれ。サボってたってコーチに言うぞ」
「げ、それは勘弁! じゃあ、また教室でね誠! 明日の部活、楽しみにしてるからー!」
うげえ、っと顔を
相変わらず速い。その上、全く疲れた
最後に付き合ったのは確か、年始めの自主練の時だったっけか。モチの食い過ぎで体が重かったから付き合ったが、もうだいぶ、差を付けられていた。
――だけどそのことに、全然悔しさが湧かなくて。
もう本当に陸上を辞めてしまったんだなと、深く
思い出すのは中学時代。トラックを全力で駆け抜けたあの日々。
今はひどく遠く思える、何色でもない思い出だけだった。
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