第34話転校生

 夏休みは過ぎていき、遂に8月31日――つまり夏休み最終日かつ、第2ロットの発売日を迎えた。


 この日の夕方、冒険譚ララバイの公式ホームページ上でバージョンアップについての詳細な情報が公開された。


・追加ゲームシステムの拡張

『レコード』

ゲーム内での人材発掘の活性化と、それを使用したゲームのユーザーによるプロモーションの活性化を目的とした追加要素との触れ込みだ、そのサンプルデータとして私たちの炎竜討伐戦が使用されてしまうことになり、動画が思いのほか再生数が伸びてしまった結果として、混乱を避けるため錦家に引きこもるハメになった……だが明日からは2学期だ、外に出ないといけないことになる、憂鬱だよ……。


・ステータス表記の変更

『『HP』と『MP』の表記を削除』

数値化された体力を明示的にみることが出来る影響で数値によってはっきりとプレイヤーの行動が切り替わる、『レコード』の実装によってオーディエンスには分かりにくい行動とならないように、あえて隠すこととなったようだ。『MP』は先日初めて使用されるようになったのだが、これも同じような現象が懸念されたため表記されないことになったようだ。

 だが『HP』表記を削除した本当の目的は、現実世界で冒険譚ララバイのような行動をしようとして自己を起こす例が多発したためだと十文字じゅうもんじさんに聞いた、ゲーム内ではダメージを受けても動きは悪くならないが現実世界では痛みによって行動が鈍くなる、その結果として無理な行動をしてしまうプレイヤーが続発してしまったらしい。

 そして『HP』ではないのだが、ゲーム内で強化された身体能力のままに現実世界でパルクールのようなアクロバティックな行動をしようとしてしまい、これもまた失敗し転落事故などが起きていることも問題になっているらしい……フルダイブ型のMMOだと問題として発生するのは宿命なのだがけど、悲しい話だね。


・遠隔ボイスチャットシステム

『コール』

 パーティを組んでいるか、クランメンバーと念話のようなことが出来るようになるシステムらしい、ただバトル中には不通になる仕様とのことだ、テレパシーみたいでカッコ良さそうだし、大分便利な気がするね。

 将来的には『フレンド』というシステムを実装してその関係間でも会話できるように拡張をするらしい。


 ……


 9月1日、2学期最初の登校日だ、正直さぼりたい……。


 …


 登校し、我が教室である2-Bのドアをガラガラっと開くとクラスメイト達の視線が私達に集中する、一部の中の良い女子友達も私達のやったことをしっているようで、有名人になったかのようにキャッキャと話しかけてきた、時々色紙を渡されたのだが……サインなんてないので習字のように名前を縦書きして、銘の部分にモノクロームの徽章を描いてあげた。


 遠目からちらちらと眺めてきている生徒は男女問わずいたし、教室のドアの外から学年問わず沢山の人がのぞきに来ているような状況になっている。


 ……なにこれ、恥っず!


 遠目からクラスメイトの小清水こしみずすばるさんが何か言いたそうにして立ち上がり、こちらに近づいてこようとしていたらしいのだけど、担任の椎名しいな由利子ゆりこ先生がガラ!っと大きな音を立て、教室に入ってきたことで、ギャラリーも散っていき、クラスメイト達も自分の席に着席した。


「やぁ諸君たち、元気だったか?|にしきさんとか榊原さかきばらさんは言うまでもないよね?あんな有名になっちゃってさぁ、宿題ちゃんとやったのかい?」


 ……この担任、いきなりブッこんできたね。


「はっはっは!私もねえ第2ロットの抽選が当たったんだよね~、ゲームの中であったらよろしくな!」


 学校の先生が始業のあいさつでしゃべる内容とはとてもではないけど思えない、やっぱりこの先生は緩い気がする、が何かを思い出したかのようにまじめな表情になった。


「あ、そうそう――君らに新しい仲間が増えるよ、つまりは転校生だね、入ってきて!」


 忘れられてた転校生は可愛そうだ……先生の合図を受けて教室に入って来た。


 椎名しいな先生は黒板にカカカッと転校生の名前を板書する、書き終えると同時に転校生に自己紹介を促した。


「イギリスの高校から引っ越してきました、みなもと理奈りなです、中途半端な時期の転校ですがよろしくお願いします。」


 パチパチパチ……。


 彼女はずっと佐久夜さくやの方を見ていた、あいさつを終えると、椎名しいな先生がまた話し始めた。


「んじゃ、皆仲良くね~、みなもとさんは……えっとそこの席ね、じゃぁ座っちゃってね」


勧められて彼女が着席したその席は、窓際最高峰だった私の隣になった。

※クラス構成は6列で、各列5~6人の平均33人1クラスです、2列単位で男女が隣り合いますが、余っている性別は並ぶことがあり、このクラスはこの時点で女子17名、男子16名です。


 ……


 そのまま授業が始まり、昼休みの時間になった、私は持参したお弁当(材料経費錦家持ち(佐久夜さくやのも作るのが条件))が有るので早速席でお弁当を広げようとしていた。


 そこにみなもとさんが立ち上がり、声をかけてきた。


榊原さかきばらさん?いま少しお時間よろしいでしょうか。」


 ……デジャブ?佐久夜さくやの時もそうだった気がする……とりあえず同じように返事をしておくかな。


「なんですか?」

冒険譚ララバイの動画を見ました、にしきさんとは親しいのでしょうか?」


 冒険譚ララバイ……あれを見たんですか……はぁ、にしきさんと親しいか?――ときたか、住込みで働いているくらいだし、たぶん親しいことは親しいよね。


「うん、てか私は錦さんの家に住んでるからね、どうしたの?」


彼女は目を丸くして驚いている……が、直ぐに気を取り直して来た。


「放課後に、にしきさんと話がしたいです!お願いできますか?!」


 鬼気迫る勢いで懇願された、私としてはどういう状況なのかはわからないけどお願いされたのを特に理由もなく断ることは出来ない。


「うん、分かったよ、たぶんにしきさんのお家まで行くことになるかもしれないけど、それは大丈夫?」

「えぇ、問題ありません、(聞こえない声で)はじめ……あなたへの手がかりが見つかったよ、待っててね」


 放課後に転校生であるみなもと理奈りなさんを佐久夜さくやに紹介することになった、その時冒険譚ララバイに関する裏事情を聞くことになるまでの間は、新しい友達ができるかもしれないという高揚に包まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る