第33話公式プロモーション動画

 スクロールとはこの世界では許可を得た証、お金や交換では手に入れることは出来ない自分とその仲間が頑張った証。


 ズズン……と炎竜が倒れたとともに聞こえた魔法習得の報せ、待ちに待った『魔法』を私たち9人が最速で手に入れることに成功したのだった。


「ファイア」


 手のひらを上に向け、火の玉がそこに出現することを意識ながらありがちな呪文を唱えると、ポゥ……っと小さな火球が顕現する……!ゾクゾクッと興奮が高まったが集中が切れた影響からか火球はたちまち散り散りになり消えてしまった。


「魔法だ……使えた!」

「うぉぉぉぉお!!俺もだぁあ!」

「きゃーーー!」


……



 しばらくは手を前に突き出して火をズバーー!と出そうとしたり、とにかく炎を出すために人差し指に力を集中させようとしてみたり、思い思いに練習を続けていた、だが……ただ力んでいるようにしか見えないモノクロームの5人には、こそっとアドバイスをしてみた。


「イマジネーションハイを意識してみて」


 力任せではなく、なぜそこから『火』が出現するのか、それを出すためにどのようにすれば効率が良いのか、それらのことを正しくイメージすると……。


「うぉぉ……」

「わぁぁぁぁぁ」

「……!(声にならない)」

「はぁぁ……」

「出来た!セツナ出来た!」


 ク〇ラのように「立った……ク〇ラが立った!」みたいにサクヤがはしゃいでいる、早速それの形を変化させてみたり、色を変化させてみたり、イマジネーションハイでイメージを高めることで皆自然と火の魔力を操れるようになっていった、これは妄想力と、セバスさんにより合宿中睡眠学習のように座禅中に講習されたお陰でしみついた知識の賜物だね。


 そんな私たちを恨めしそうに見ている紅蓮の咆哮のメンバー、あまりにも必死になっていて


「トワーー!!!!!」

「むむむむ……!」

「ムムムム……!」


 と捻りだそうとしているのである……ちょっとかわいそうになってきたので、もっとかみ砕いたアドバイスをしてみることにする。


「ねぇ、よくあるラノベではただ火が出ろと念じるだけじゃ効果が薄いことが多いでしょ?火が付くイメージって意外と難しいの、燃性の物質が酸化して高温になることで見えているただ熱いものなの、こんなことを言ってもたぶん難しいよね」


「だから逆に考えるの、そこには実はすでに『火』がめらめらと燃えている、だけど見えないだけだと、その見えない『火』に出ておいでって感じでライターをカチっとすると燃えそうでしょ?ほら……自分の力じゃなくてなにかが勝手にやってくれるって思ったらイメージしやすいでしょ?自分のイメージしやすい形で表現するのがいいと思うよ」


 …


 それからは早かった、タクマ君とユウマ君はそれぞれ理科の授業でやったような火の実験を思い描いたようだ。


 タクマ君は塩化ナトリウムの炎色反応、学校の実験でやったから燃えているイメージがしやすかったらしい、アルコールランプをイメージしたと言っていて。


「イエローファイア!」


 とか叫んでいた、ユウマ君は絞ることで酸素濃度などを調整できるバーナーをイメージしたらしい。


「ブルーファイア!」


 と叫ぶ、こちらの方が炎のイメージとしては高温そうだけど黄色い方にはなんだか特殊効果が付与できそうな気がするね。


 そして紅蓮の咆哮組最後にはユリアさん、いやユリアちゃんだ、炎竜とのバトルが終わると同時に。


「『さん』で呼ばないで『ちゃん』で呼んでください!」


 っと要望を受けたのでお近づきの印としてそう呼ぶことにしたんだ。


 この子は想像したものは私の想像の遥か斜め上を、さらに物凄く上に行っていた……ある意味凄い想像力だと思う。


「あなたの名前は『アグー』火の神様の『アグニ』から名前を取ったよ」


 火に対して話しかけているユリア、だがその火はゆらゆらと言葉に合わせて反応しているようで……。


「キュゥ」


 ――と鳴いている……ん?鳴いている・・・・・だと?


「キュゥウ?」


 真っ赤なウーパールーパー……いやトカゲ?それはファンタジーの定番であるサラマンダーであるかのように火の体を持っていた。

 ……


 ともかく全員が魔法を使うことが出来た。


 そこからは誰からとかではなく、全員が同調するかのように円陣を組んだ。


 打ち上げを喜ぶように中央でこぶしをを合わせたあと、一斉にガッツポーズを挙げた!


「「「「「「「「「火の魔法ゲットーーー!!!」」」」」」」」」


◆ とある現実世界の一室


高級そうな家具が並び、ふかふかしていそうな椅子に座っている男に、初老の男性が声をかける。


「ご主人様、予定通り、いえ予定よりだいぶ早かったですが魔竜の一角である炎竜……いえ炎龍の討伐に成功したようでございます」


「ほう……それで?撮影は問題ないだろうな」


「はい、全員問題ありません……アライアンスを組んだのは想定外でしたがそのメンバーも全員『公開申請』をしているメンバーでしたので問題はありません」


「ならば早急に編集し、公開だ」


「仰せの通りに」


 ……初老の男性が出ていった後、残った男であるにしき弦十郎げんじゅうろうは今後の冒険譚ララバイに思いを馳せた。


『連続クエスト、魔法と魔術』

『錬金術と魔法』

『エピック第二章』

『レコード』


 を次回のバージョンアップで公開する予定である冒険譚ララバイ、そのうちの『レコード』をプロモーションとして使用することに決めていた。


◆ 白と黒と紅、世界の電波を駆ける


 魔法の練習を終えてクエストクリアの報告をリードさんにした後、今後について紅蓮の咆哮メンバーから風の魔法があるはずの 『慟哭の風穴』に挑戦しているメンバーのところに合流するつもりだと話を聞きログアウトすることになった。


 世界中の冒険譚ララバイファンの注目を私たち九人が集めていたことなど知る由もない、夢の中ではあったがとても頑張ったこともあり、昼過ぎまで寝過ごした私たちが『それ』を理解した時には、すでに数千万人が『その』動画を見た後だった。


◆ 冒険譚ララバイバージョンアップ直前、プロモーション動画


 その動画は、冒険譚ララバイ公開以降、特筆したプレイヤーの動きを収めたハイライトの様であった、だけど節々で私が映るのはなぜか……高速で移動する旅人の服の私、超高速で移動するメイド服の私、音速で移動するリストバンドを付けた私。


 大きめの魔獣を他のプレイヤーが倒すカットも少しの間入っていたのだが動画の終盤は私たちと紅蓮の咆哮が炎竜に初めて戦いを挑む直前のカットから始まった。


 全員が瞬殺されたように(編集された)動画、助かった……不特定多数にあんなシーンは見られたくないよ……。


 そこから会議をしているところ、装備を創るために素材を集めるところ、その集大成として装備をそろえて装備するところ。


 そのすべてがこの後にあるであろう炎竜へのリベンジのシーンに向けて盛り上げていくような構成になってるようだった。


 そしてカットは切り替わり、映像内の私たちは大きな門の前で円陣を組み、中央で手を合わせていた。


「「「「「「「「「1、2、3、オーー!!!」」」」」」」」」


 なんかカッコイイ効果音が入った動画になっている、恥ずかしながら大分カッコよく盛り上がった動画になっている。


 グゴゴゴゴゴゴ……大門が開く、そして火球が降り注ぎしばらくしたらブレスが飛んでくる。


 それを、リベンジのために製作していた装備を使って防ぎ、その後も私が回避盾役として飛び回るシーンが続く、だがさすがに30分もそれを続けるわけにはいかないのである程度カットが入り、マチルダがアップで映りはじめた。


 やっていることは地味なのだが『戦況維持のための工作活動』というようなテロップが入り、重要な役割であることをやんわりと周知する……そしてその後に登場した二人の戦士、その二人は見事なコンビネーションによって炎竜の足や翼の被膜に地道ではあるが効果が見て取れるようなダメージを与え、下がっていった……これも十文字じゅうもんじさんのナレーションとテロップで興奮気味に解説が入っていた。


 さらに特大の剣を振るい炎竜のシッポを両断する剣士サクヤ、目を射抜き炎竜の機動力だけでなく察知能力をも削っていくアーチャーのツカサさん。


 そして止めを刺すためにコツコツと力をためていたタツ君がようやくその力を振るおうとしたタイミングで炎竜のヘイトを引いてしまうというピンチ。


 だけど最後には謎のスキルである『オルタナ』の効果によって他人のスキルを一時的に借り受けた巨大かつ重い、そしてとても素早く動くユリアちゃんの手によって炎竜が倒れていく……そんなシーンのあとには。


冒険譚ララバイ追加コンテンツ&追加ロット8月31日、乞うご期待!、9月1日バージョンアップカーニバルを開催します!』


 というシーンで締めくくられた。


 動画再生数、二億五千八百万回……私たちは今後自由に外を歩けるのであろうか?……かくして、この影響からかは分からないが、新学期開始後に一波乱あったのだが、それは必然だったのかもしれない。

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