第32話炎竜解放戦・後編

 すべての装備の準備が整い、私たちは再度大門の前にいる、そこでバトルフィールド突入前の最終確認をしているところだ。


「くぅぅ……緊張してきたぜ」

「「僕らもです」」

「前回みたいな一瞬の全滅は理不尽ですよね」


 男性陣は前回のこともあったのか、大分警戒している様子だった。


「あれだけいろいろ準備したんだもん、大丈夫だよ」


 そう言って、自分自身やる気がみなぎってくるを感じている、それはタルタロスの時の非ではない、前回の炎竜戦がモノクロームのメンバーは私以外は初めてのバトルフィールドだった、若干自信を失いかけているようなのだ、やれる――妄想は力になる、それを今回私は示す。


 円陣を組み中央で手を合わせる


「「「「「「「「「1、2、3、オーー!!!」」」」」」」」」


◆ 炎竜解放戦・突入


 ぽーん

「システムメッセージ、クエストバトル”『炎竜の岩屋』のバトルフィールド『炎竜解放戦』”を開始します、バトル終了まで、退出を制限します。」


 ぽーん

「能力値の制限を超えたプレイヤーが参加しているため、炎竜の能力を補正します。補正効果により炎竜の適正レベルを五十から三百二に引き上げました」


 うん……そうだね、ここまでは前回と同じだ――すこし強くなっている気もするけど、誤差だ。


 だが今回は前回温存していたルリムとシュブもいるし、スライムの粘液とボルカーキャタピラーの糸から作った特殊な糸で縫製したモノクロームの徽章入りの真っ赤なフード付きの耐火コート、それを全員が羽織っている。


 次の瞬間には炎竜のブレスがコートを被り、後ろを向きながら鼻と口を押さえた私たちの全身を包み込んでいった。


 数十秒にわたるブレスが切れた時、粘液の効果を失ったのかボロボロになってコートは朽ちていった。


 だが、開幕のブレスを耐えきった私たちはコートを失ってはいるのだが、内心歓喜に沸いている、ルリムの能力でこの環境に耐えられるように外的要因を排除し、シュブの能力でブレスの効果を消滅、今回は消し切れてはいないが大分軽減することは出来た。


「耐えられたね」


 私の呟きに希望を見た仲間たちは深くうなずき、陣形を整え始めた。


「さぁ、戦いの始まりだよ……!」


◆ 炎竜解放戦・リベンジ開始


 炎竜は前回とは違い開幕のブレスは吐いて来なかった、だが人の背丈ほどはあろうかという大きさの火球をこの私を狙って数秒間隔で吐き続けている、それをひたすらに、メンバーの方に行かないように炎竜の姿勢を意識しながら動き回っている、すでに三十分ほどだ、もちろんメンバー達は無傷なのだが、当初想定していた通り火球とブレスの影響で足場が溶解しそうになってきていた。


「そろそろ出番ですかねぇ!」


 戦況維持を目的とする第2フェーズ


 マチルダ登場だ、手に持って赤くと大きな円柱状の物体、その名も『火を消すヤーツ』という名の消火器だ。単純な化学化合物が詰まっている消火器は冒険譚ララバイの中でも化合しやすかったらしく冷却とその後の燃焼への対策案を検討していた私たちの会議で満場一致で採用となった化学部の案である、今回は強化液式、炭酸カリウムを使用したアルカリ性の溶液を噴霧するタイプを採用した、なぜだって?ネットのウオークペディアで調べたら、なんとなく一番強そうだったからだ!


 最近主流の二酸化炭素式や泡式よりも延焼に強そうなイメージ、それだけではあったのだが、液体を散布するという性質上ある程度は延焼にも、溶解にも効果があったのではないだろうか。


 その後も三十分、つまり戦闘開始から一時間もの時間、私はひたすらに火球や時折振るってくる爪攻撃や尻尾攻撃、噛みつきなどを避けに避け、炎竜に目に見えるような疲労が浮かぶようにまで行動を誘導することに成功した。


 …


 サクヤさんが一人死地に立ち、あの炎竜を翻弄している……!


「「すごい」」


 僕達兄弟はそう呟いていた、作戦としては最初のブレスを堪え切れた場合にはセツナさんがちょっかいを出して敵対心ヘイトを取り、それに乗じて少しずつ、敵対心ヘイトを取らない程度に後方から削っていく、そんな恐るべき作戦を快くよく受けたセツナさんよりも、いまこの場で踊るように炎竜を翻弄するセツナさんのほうが――すごい。


 やるべきことは忘れはしない、兄(弟)と同じ位置に立たないように、それでいてセツナさんの動きの邪魔にならず、さらにはチームワークが取れるコンビで削る、僕(俺)達しかいないでしょう。


 足場が悪くなってきたときにはいったん退避してマチルダという人に地面の処置を任せた、その際に客観的に観察することのできたセツナさんはなにやら大きく黒い鎌を携えて動き回っている、その表情は非常に楽しそうでこんな元気等の最中なのではあるが、本当にゲームを楽しんでいるのが見て取れた。


 それを見て奮い立たない坂本兄弟ではない。


「「行くよ(ぞ)兄弟!」」


 握ったこぶしをコツンと当て、地面の処置が終わったバトルエリアに再突入していった。


 何度も危ないシーンはあったのだが、兄弟でサポートしあい、致命傷を避けながら炎竜に攻撃を続けていった。


 そこから三十分程たったか……そのころには炎竜の羽の被膜には無数の穴が開き、飛翔を封じるには十分なダメージを与えることに成功した。


 僕(俺)達は作戦通り、炎竜の機動力を削ぐことに成功しお役御免となった。


 再び握ったこぶしをコツンと当て、お互い満足気な笑みを浮かべたあとは、次の作戦を担当する金髪の少女の後方への下がった。


 …


 本格的にダメージを与えていく予定第3フェーズ


 サクヤが前線に立ち、炎竜に深目の傷を追わせていく予定だ、事前にあらかじめ強化を重ねていたグラビティソードをここでお見舞いする……!


 炎竜の尾を根元から断ち切ることに成功した……これでバランスを崩し、まともに立ち振る舞うことは出来なくなったはずだ、そう思っていた。


 見事その巨大は尾を断ち切ることには成功した、そしてその尾からは帯びたおびただしい量の瘴気があふれだしてくる、この瘴気がすべて炎竜から出ていけば力はすべて流出し……あとはとどめを刺すだけの予定。


 ――そのはずであった。


 炎竜はその傷跡を焼き塞ぐと同時に、極大のブレスを吐き出してきたのだ……。


 幸い誰もそのブレスの影響範囲内にはいなかった、だがまだノーモーションでブレスを吐くことが出来るというのはサクヤとツカサさんによる詰めを実行するのには大きな障害となっていた。


 どうしたものか……考えが後手に回り始める――小さく声が聞こえた気がした――数秒後、タン!……タン!タン!


 ――音がした、思わずその方向に目を向ける、見えたものは両目に矢が刺さった状態の炎竜だ……!


 ツカサさんが渾身のブラストボウで両目を打ち抜いていたのだ。


 ……まだ炎竜は衰えない、方々に火球をまき散らし少しでも私たちに攻撃をしようと発狂している――だが、それも予定通りだよ?

 …


 実はタツ君が双子チームに交じって大きめの攻撃を与えつつ、当てては戻って当てては戻ってを繰り返していた、それにより当初の想定よりも大きめのダメージを与えることが出来た、タツ君がヘイトを私からとってしまうのが唯一の懸念点ではあったのだが、サクヤという人間を観察してきた成果なのか、

怒る直前をわきまえていた。


 しかし、タツ君の必殺技であるボラタイルソードを構えたその時だ、私からヘイトがはがれてしまった。


 だが、ここまで登場していなかった最後のとっておき、紅蓮の咆哮のユリアさんがすべてを決めてくれた。


「『オルタナ』、『ボラタイルソード』」……「『オルタナ』、『速歩』」……「『オルタナ』、『グラビティソードォ!』」


 素早く動き首元に達し、竜の首を狩らんというようにとても重く、竜の首を両断せんとでもいうかの如くとても大きい。


 大きく振りかぶり切りつけ……炎竜の体から瘴気と熱気が強烈な勢いで噴出し、戦いの終焉を告げた。


「システムメッセージ、クエストバトル『『炎竜の岩屋』のバトルフィールド『炎竜解放戦』』における『解放』を確認しました、解放メンバーに対し『ドラゴンスレイヤー(火)』の称号を付与、また『初級火魔法』を習得しました」


 解放戦……気になっていたんだ、普通ならクエスト名称は討伐戦だと思う、なのにこれは解放戦だった、今回戦闘開始後から炎竜をよく見てみたら黒い靄が炎竜から立ち上っている事に気が付いた、そしてその靄によって炎竜が苦しんでいるようだった、だからそれをルリムの退魔の力を借りて浄化しつつ倒すことになった、そしてその靄が消えるのを確認した後に戦闘を終わらせたので結果として長期戦になってしまった、ルリムがいなかったら解放なんてできなかったと思う、他のパーティだとどうやって解放するんだろう……。

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