第31話炎竜解放戦・中編

◆ セツナ工房・参(クラフト)


「ツカサ師匠、始めちゃいますか」

「えぇセツナ様、キッチリと仕立て上げましょう」


 ボルカーキャタピラーの蚕を解いた糸をスライムの赤い粘液に浸して浸透させていく。


 冒険譚ララバイでのスライムは例に漏れず弱いのだが、とても性質変化の力が高い……それはこの粘液が、喰らっている攻撃に対しての耐性力を高めていく性質を持っているためだ、だが効果が目に見える前にスライムの少ないHPでは息絶えてしまうため、その効果に気が付く人は少ない……だが納品のためにスライムの粘液をボウルに持ったまま走り回っていた私は転んでしまい……暖炉に投げ込んでしまうという失態をやらかしたことのある私は知っていた、火で消滅してしまったかとおもったその粘液は半分近くの質量を残して赤く変質した物になっていた。


 そして、暖炉内から取り出したのにも関わらず熱くない・・・・のだ。


 その経験から得たスライムの性能、双子君たちがなぜ知っていたのかはスライムを火でいじめていた(練習のため)らだんだん効きが悪くなったから解ったと言う……鬼畜?


 今回作るのはコートだ、外套とは違ってフードまでついている形状の物だ 、だがこの耐火糸はなかなかに加工が難しいのだ、なんせネバネバしたスライムの粘液を吸っている糸だ、針でチクチク編み込んでいくのにも物凄く労力が掛かってしまう、このペースでは一着でリアル時間で一日も掛かっちゃうよ……


 今がリアル八月十六日だから九着も作れば夏休みがほとんど終わってしまう、そんな間に最速クリアを他のクランにとられるのは嫌だと紅蓮の咆哮のメンバーは言う……今日追随するクランが九層に到達したらしいのだ……はてさて、どうしたものだろうか。


「「編む作業であれば手伝うことが出来ます」」


 坂本兄弟が協力を申し出てくれる、それをみてマチルダ


「ん……私は粘液に糸を浸す作業を手伝うよ、浸透圧とかで効率が良くなりそうだしね」


 やれることのないエータ君とタツ君、そしてサクヤはルリムとシュブと一緒にリードさんの修行を受けに行った。


 ユリアさんは……老舗着物職人のお孫さんだったらしい、布として編み込まれた後の最後の仕立てを任せることが出来ることになった、お嬢さんだとおもっていたけどそんな特技を持っていることもあるんだね。


 二人で作り上げるつもりだったのが、各工程に人を割り振ることが出来たため、効率は非常に上がった、そして九人分の耐火コートを作り終わったのは、なんと三日後の夕方だ、作業に慣れたこともあり、とても早く終わらせることが出来たのだった。


◆  炎竜解放戦・予習


 戦闘を開始すると能力ペナルティで炎竜が強化される


 その炎竜は強化終了とともに扇状範囲に対し、炎のブレスによる攻撃をする


 ……ここからは私だけが知っている、じつは全滅の前に私はブレスを一回避けていた、巨大化した影響からか何十トンもあろうかという炎竜は、旋回の速度や首を向けてくる速度はさほど速くはない、私のAGI速力であれば避け切れる、さらに軽い攻撃であれば紅蓮の咆哮メンバーを誤魔化しながらであっても与えられそうであった。


 確認しておきたい炎竜の動きを見極めた後、動きを止めて炎に飲み込まれた。


 ……


 前回のアライアンス構成は『耐える盾』のタツ君、『回避盾』のタクマ君とユウマ君、『近接アタッカー』としてサクヤとユリア、『参謀』として情報収集に備えるエータ君、『遠隔アタッカー』のツカサさんだった。


 そして今回は 『盾』の私、『妨害ジャマーとしてのタクマ君とユウマ君、『ヘイト回し要員』としてのサクヤとユリア、『バッファー』としてエータ君、止め担当のツカサさん。


 前回と比べて大きく構成が変わった、組む相手そのものは変化していないが、今回はルリムとシュブもメンバーとして考えている、装備の準備も終わり、各自の役割の説明も完了し、今日はログアウトした。


◆ システムバージョンアップ予告


 炎竜戦を夜に控えて英気を養う八月十九日、朝からオムライスを食べながら作戦会議だ、先日炎竜に負けてからは、多和田たわださんも瀬戸せと君も客室に泊まって冒険譚ララバイに没頭できる環境を整えてもらっていた……私と足立あだち君は使用人としての業務があるので昼間は自由には出来ないのであるが、多和田たわださんと瀬戸せと君はさっさと仕事を終わらせた十文字じゅうもんじさんの指導の下、炎竜戦への対策の練習を現実世界でもすることになったようだった。


 その日の昼過ぎ……冒険譚ララバイにおけるシステムバージョンアップの告知が公式ホームページに掲載された、


『連続クエスト、魔法と魔術』の追加

『錬金術と魔法』の追加

『エピック第二章(詳細は一章クリア者が出現した後)』の追加

『レコード(際立った情報公開許可をしているプレイヤーの行動を録画し、現実世界のSNSなどで公開)』のベータ版実装


 この『レコード』がゲーム内外における私の評価を魔王としてたらしめることになる、それは以前告知のあった『刹那』へとつながっていくことになるのである。

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