第30話炎竜解放戦・前編

 私たちもまだ、ルリムの『退魔』とシュブの『徐魔』の効果については完全には把握しきれてはいない。


 とりあえずこの子たちの範囲バフ効果というものは、アライアンスさえ組んでいれば、その同盟関係に当たるパーティにも効果が影響するようだった。


 彼ら……いや、いまのリーダーは副会長のユリアさんのようなので彼女たちと呼ぶことにするか……それとも紅蓮の咆哮という中二病感満載なネーミングのクラン名で呼ぶのがいいのだろうか――だが今はそれは置いておこう、彼女たちのパーティからのアライアンス申請を受諾すると同時に、とても暑苦しそうな表情をしていたのが嘘かのように、快適そうな表情にみるみる変わっていくのが分かった。


 兎にも角にも進軍あるのみだ……意気込んで歩き始めたのだが、ここまでの道中と大差はないまま……つまり暑くもないし魔物も出現することも無いのだ、当然だがあっけなく『巨大な赤い門』に到達した。


 見るからに今まで階層を潜るときに潜り抜けて来た階段や門とは趣が違っていた、いままでは開き門であれば何らかの記号が意匠されたデザインだったが、今回は赤い門で、そこに竜が描かれている。


 どう見てもボス部屋ですね、分かりやすくて本当にありがとうございます。


 私たちは外套を脱ぎ、武器を取り出して本格的な戦闘用に準備を整える、もちろん紅蓮の咆哮チームの三人もなにやら良くは分からないのだが装備の準備をしている。


 ルリムとシュブもやる気満々なのだが、おそらくは竜との闘いになるだろう。


 リードさんからクエストを受けた時にもそれっぽく「『ドラゴンスレイヤー』になって来いよ」っと送り出されていたので、ここがその竜のいる場所だと確信に似たものがあったのだ。


 ――まだ小竜であるこの子達には、さすがにおそらく成竜であろう竜に対抗するまでの力があるのかどうかには、疑問が残る――いったんエータ君の持つテイムスキルの効果で隠れているようにお願いをしたけど不服そうだった、ごめんね?。


 構成は『耐える盾』のタツ君、『回避盾』のタクマ君とユウマ君、『近接アタッカー』としてサクヤとユリア、『使役』は出来そうにないので『参謀』として控えるエータ君、『遠隔アタッカー』のツカサさん、『何でも屋(能力を隠すためだが)』の私ことセツナは後方支援と役割を各自決めて、目の前の扉に全員が入っていった。


◆  炎竜解放戦・零


 ぽーん

「システムメッセージ、クエストバトル『『炎竜の岩屋』のバトルフィールド『炎竜解放戦』』を開始します、バトル終了まで、退出を制限します。」


 無機質なシステムメッセージの声が再生された、そこまではよかったのだが、その後に聞こえたメッセージが大問題になった、普通であれば自分で言うのもおかしいが、セツナ無双で楽勝だと思っていた……だが、それがまさか私のせいで物凄い状況になるとは予想だにしていなかった、楽観視はしていたつもりはなかったのだが……。


 ぽーん

「能力値の制限を超えたプレイヤーが参加しているため、炎竜の能力を補正します。補正効果により炎竜の適正レベルを50から300へと引き上げました」


 目の前にいた竜はそのメッセージとともに、元は体高5メートル程度だったのが、軽く10メートルはあろうかという、さすがの私でもしり込みをするような迫力を発する大きさへと変貌を遂げてしまった。


 そして……私たちを確認すると同時に大きく息を吸い、果てしなく強化されてしまった炎竜は強化が完了するとともに間髪を入れずに灼熱のブレスを吐いてきて、全員がブレスに包まれていった――。


 一瞬で焼き尽くされ……初めての全滅を喫した。

 

 ゲームだと割り切っていたので死の感覚への忌避感はないのだが、やはりゾワっとして嫌なものだった。


◆  炎竜解放戦・対策会議


「……ぷはぁ――!、なんだってんだ……」

「はぁ……はぁ……」

「イミフーーー!」

「「理不尽だ」」


 死に戻りをしてセントラルの教会で気が付いた皆は、肩で息を吐いている、戦闘と言えるような戦闘をすることすらもできずに特大のブレスに一掃されてしまったのだ。


「あんなん、どうすりゃいいんだよ、どうやっていったってブレス対策できてないと瞬殺されるぜ?(チラ)」

「確かに、あの竜は……(チラ)」

「「理不尽だ」」


 私たちのチームメンバーは私を見ている気がする、だがそれは不可抗力だよ――だけど、私は皆が光に包まれたのを見て、一人でクリアしてもつまらないのでそのまま動かずにやられた、それは誰にも見られてはいないはずだ。


「けど、ゲームなんですから対抗策は何かしら用意されているはずです、まず考えられるのはブレスを喰らわないように避けるためのAGI……ですがこれは高めても(私を見ながら)限界があると思います、ですが対火装備で身を包むことが出来れば、ブレスを耐えることが出来るかもしれません」


 続けてエータ君は話を続ける。


「シュブの能力で軽減は出来そうですが、あのブレスを見るとさすがに心もとないです、何か耐火素材に心当たりはありませんか?」


 私たちは十文字じゅうもんじさんとリードさんに扱かれていただけ、そんな素材は持ってない。


 ジーー……、とりあえず紅蓮の咆哮のメンバーを見つめてみることにした。


「え!?あれ?私たち?!」


 ユリアさんがキョドっている、大きいサクアみたいな感じがする、だが双子さんがまさかの素材を提案してくれた。


「「スライムとボルカーキャラピラー」」


 スライムと芋虫!?っといってもモノクローム陣営は芋虫にはエンカウントしていない、どういうことだろう?


「蛹になるときに出す糸に」「スライムの粘液を付与すると火耐性のある糸が創れます」


 ――確認すると、熱対策として紅蓮の咆哮メンバーは元からその糸で作られた装備を着ていたらしく、作ったのは東の始まりの都市であるアインスの村の裁縫ギルドにいるNPCであったらしい……だが、それでも耐えきれはしなかったようだ。


 ◆ セツナ工房・弐(ギャザリング)


 ぶっちゃけた話、そこいらのNPCより私の方が裁縫スキルは高い、ツカサさんには敵わないがそれでも私もマジリハではいろいろなものを高速で作ってきた経験があるのだ。


 それもあってか、紅蓮の咆哮メンバーの耐火装備を見せてもらったのだが、それらは大した性能ではないということすぐに分かった、腕が鳴る……あ!ツカサさんいるじゃん!横を見るとやる気満々といった表情のツカサさんが


「お嬢様の仇を取る……お嬢様の仇を取る」


 っと言っていた、いや死んでないけどあなたも死んだでしょう?


 リアル翌日、デスペナルティが解消されるとともに、炎の岩屋に潜っていった、今回の道中ではルリムとシュブには控えていてもらい、魔物と遭遇できないということにならないようにした……そして八層に到着しボルカーキャタピラーの捜索を開始すると同時にシュブだけ呼び出した。


「ゴアァァァァ!」


 この階層まではまだ冒険者はほとんど来れていないため、この層の魔物であるキャタピラーは沢山生息していた、そのなかでさなぎの形態を超えて、生体にまで変態したボルカーワモーラが数匹……いやかなりの群れで彷徨っている状態になっていたのは想定外の光景であった。


 キャタピラーとはその名の通り芋虫だ、それがさなぎの形態を超えて成長したので、ワモーラは当然『蛾』なのである、成虫であるワモーラは、なにやら催眠作用のある鱗粉を撒くらしいのだが、これに関しては我々のシュブが優秀なのが、鱗粉による状態異常効果を受けることはなかった……ちなみに喰らった場合には全身麻痺毒とか幻惑だとか、そういうタイプの影響を受けるらしい……動けなくなったところに虫(蛾)が集団で襲い掛かってくる光景を想像すると、前回の炎竜戦での全滅の仕方は、精神衛生上ではまだ大分マシだったのかもしれない。


 さっそくモノクロームのメンバーはワモーラやキャタピターに対し身構えたのだが……無類の虫嫌いであるタクマ君とユウマ君が物凄い連携で羽根を削ぎ、次の瞬間には頭をつぶしていた、その近くではキャタピラーが成虫に成長するため、つまり蚕を作るために・・・・・・・・・糸を吐いている最中であった。


 これは生物の行動理論には沿ったものなのかもれない。


 成虫は卵を産んだ後には死を待つだけになる、そのため次以降の世代を育てるために、蛹に変化する状態になる無防備な時期には成虫が外敵の気を引き、蛹化が完全に終了するのを手助けをする、完全に蚕に包まれて蛹化すると外敵はキャタピラーを認識できなくなり、静かに成虫になる時を待つ……のだが、今回は焦ったのか糸に包まれた大きな塊が目の前にたくさんある。


 そんな出来立ての蚕は今の私たちには宝の山でしかない、エータ君や双子の情け容赦のない殲滅で十分な量を回収することが出来た。


 私は虫は苦手なので応援だけしていたよ。


「ガンバレー(棒)」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る