第28話世間は狭いっていう話だよ

 魔導都市セントラルでいま一番熱いクエストは当然『炎の岩屋探索』


 私たちもこのクエストを受けることになり、リードさんから話を聞いていた。


「新しい階層を踏破するとミニマムサクセス、最深階層の踏破に成功するとフルサクセス、お嬢ちゃんたちだから教えてやるが、このダンジョンの名前は『炎の岩屋』ではないんだ、本当は『炎竜の岩屋』と呼ばれるものらしい、この町の古い文献にかろうじて書いたあったらしい、知らぬはプレイヤーだけ……NPCの人たちには『炎の赤岩』の本来の由来は正しく伝わっている設定だったようだ」


 ――ものすごいメタ発言、冒険譚ララバイの関係者でも知らない設定もあったようだ。


 私たちもすでに多くのクランが攻略に乗り出し、ある程度の階層までの攻略を進めている『炎の岩屋』の攻略を開始する。


 白と黒の外套で背中には翼竜の徽章、メンバーの一人はメイド服、さらにゲーム内ではあまり普及していない、これも白と黒とでできているリストバンド。


 そんなモノクローム専用装備で身を固め魔法スクロール取得に関わるのであろうダンジョン、『炎竜の岩屋』攻略を開始した。


◆ 『炎竜の岩屋』第一階層編(踏破率九十%)


「ったく……噂通り……あっちいなぁチキショウ」

「帰っていい?」

「ご一緒させていただきますぅ」


 私とマチルダとでコントというかある意味本音なやり取りが繰り広げられる、なんぜわざわざ夢の中でまでもつらい思いをしなきゃいかんのだ、私たちはぐちぐちと文句を言いながらも進んでいく。


 すでに八層まで到達した人がいる、七層はともかくとして六層までは完全にマッピングがなされた後なので、グチグチと言いつつもすんなりと二層への階段に到達した。


 動きの遅い火球、おそらくは初期火魔法の入門編の物であろう魔法を投げかけてくる『ウィル・オー・ウィスプ』、つまりは火の玉、そんなものは私達にとっては何の障害でも何でもないのだ。


◆ 『炎竜の岩屋』第二階層編(到達率七十%)


 先行攻略組にはこのフロアは鳴れたものであろう、私たち以外は防熱装備を用意してある程度の熱波から身を守る工夫をしているようである……それに引き換え私たちは暑苦しい外套と何の役に立つのかと言われたら全く答えることのできないメイド服、太陽光はないため気温ほどの暑苦しさを感じはしないのだが、やはり体力を削るのには十分な熱がフロア……とくに下の方から感じられた。


 少し進んだ時、『ボルカーリザード』と呼ばれるいわゆるトカゲが出現した。


「ギィィャァァーー!」


 私たちを見つけるや否や、火球を吐き飛ばしてくる『ボルカーリザード』もとい『火トカゲ』。


 だが動きが遅い、リードさんに散々特訓された居残り組はストレス発散とでもいうように、私がプレゼントした装備すら使うこともないままに、トカゲを一掃していった。


◆ 『炎竜の岩屋』第三階層編(到達率五十%)


 暑さに加えて魔物も加わった二層を抜け、三層に到達した経験のあるクランはすでに半数となる。


 この層では暑さそのものに違うはないのであったが、真っ赤な蟹の『ボルカークラブ』、それに真っ赤なナマズの『ボルカーヴェルズ』、その他川の水生生物がこの階層フロアには棲んでいるようだ。


  目の前には火の弾が飛び交っているのではあるのだが、私たちにその火球が到達することはなかった、それは私たちにとっても予想外の光景であり、彼ら・・にとっては初めての実戦である。


 だがまだ興味もなさそうに


「プスゥーー……プスゥーーー……」

「ピスゥーー……ピスゥーーー……?」


 と寝息を立てている……よくこんなにも熱いところで寝られるなと、私達は心底感心したものだ。


◆ 『炎竜の岩屋』第四階層編(到達率二十%)


 ここはすでにC級のクランでは入った実績のない階層フロアらしい、三層では二層とくらべても暑さには大差なかったのだが、ところどころ間欠泉のように溶岩が噴き出す場所がある。


 事前情報のガイドブックでもそれは分かっていたのだが、カニやナマズはまだいい大きくなっていても見慣れた形と思うことは出来た……だが真っ赤なカエル、それは毒々しさはないのだがやはりある程度の能力を有していそうな『ボルカーフロッグ』


 目の前でゲコゲコ鳴く数十匹はいるであろうカエル、こいつは今後階層フロアを潜る度に大きくなり、面倒になってくる魔物だったらしい。


 だけど、魔法が使えなくとも遠隔攻撃ができるツカサさん、すでに私たちの前に立ち、弓を射る構えに入った彼女の前では、それら・・・はただのお肉の塊に過ぎないのである、その左手には私がプレゼントした『蜃気楼の弓』が構えられている。


 「ミラージュボウ」


 そう呟いた彼女の弓からは一擲だが数えることもできないようなっ大量の半透明の矢が放たれた、それは次々とカエルの群れに当たっていく――ように見える。


 この階層フロアのなかでも気温が高い場所がところどころに点在する、そんなホットスポットを利用し、『陽炎』の作用を最大限に利用した架空の矢、それはカエルにとっては、ただただ膨大な量の自分に降りかかる矢に見えたのである、放ったのはたった一本の矢だけだったのにだ。


 死への恐怖から気絶した赤いカエルをアイテムボックスにしまい、次の層への階段へと向かった。


◆ 『炎竜の岩屋』第五階層~編


「グゥゥゥ!」

「ゴァァァ!」


 私たちの七、八番目の仲間が目を覚ました、ログイン以降ずっと目を覚ますことはなかったのだが、目を覚ますと同時にハイテンションになり、モノクロームのメンバーに順番に頬ずりをしたりペロペロしたりしている、舌は多少ザリザリしていて痛いのだが、猫のそれと同じように親愛の行動であることは分かるので誰も拒まなかった、その結果として全員がよだれでびちょびちょになったのだが、この階層ではハイテンション状態となったこの子達が活躍していたので、その間に涎は乾いた……がカピカピした感じになったのは気にしないのだよ。


 この子たちが起きてからのダンジョン攻略は……異常に楽だった。


 ルリムの常時発動能力『退魔』


 シュブの常時発動能力『徐魔』


 その力によってある程度広い範囲には弱い魔物は近づいてすら来ないし、多少強い魔物でも広くはないのだがその徐魔の効果範囲に入ってきたら体が光の粒子になって消えていく。


 それだけではなく、この洞窟の熱すらさえも感じなくなっていたのであった……つまりこの暑さは『熱を生み、維持する魔力』……によって作られているものだったのだが、ルリムとシュブのアンチマジックコンビによってその熱さえも完全に無効化されていた。


◆ 『炎竜の岩屋』第九階層と『紅蓮の咆哮』・『炎の赤岩』攻略チーム其の弐、出会い


 順調に進軍を続け九層にまで進んだ『モノクローム』のメンバー、六人は九層に降りた直後の広場で『紅蓮の咆哮』の三名と遭遇した。


 突然出会ったこともあり、両陣営黙っていたのだが、その沈黙を破ったのは私的には意外にもマチルダであった。


 「あ……副会長だ」


 ――なん……だと……!?


 マチルダを除く、八名が凍り付いていた。

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