第27話紅蓮の咆哮と伝説

 魔導都市セントラル中心地の広場付近に堂々と顔を出している岩、その周りには屋台や武器防具の修理屋など人だかりができていた、しっかりとした店構えの店舗はなく、どこか出張感もある。


 だが、そんな広場から少し離れた大通りは空前の建築ラッシュとなっているようだ……大きな武器屋、防具屋、ポーションなどを扱う薬屋、宿屋など所狭しと職人さんが飛び回っていた。


 この岩、現在……といってもつい数日前までではあるのだが『炎の赤岩』と呼ばれ魔導都市セントラルの中では魔法を封じた岩だと伝えられていた、本来は違った名前で呼ばれていたのだが、この風貌もあり、長い時間をかけて本来の名前を知る者はごく一部の貴族を除いてはいなくなってしまっていた。


 悠久の時代をご神体のようにあがめられていた『炎の赤岩』だったのだが、十数日前に私が火の魔法を解放したことで、突如として本来の姿である洞窟への入り口が解放されたようだ。


 当然町の人が中に様子を見に入り……魔物に手ひどい怪我を負わされてしまう事件が発生する。


 そのような事件が起きたからには、管理体制が急いで引かれることになる、その陣頭指揮を執ったにはギルドマスターのリードさんであり、新しく施行されたセントラル統治法において、冒険者ギルドでクエストを受けた、つまりは許可を受けたものと騎士団以外は立ち入りが禁止された。


 だが突如現れたそのダンジョンには、元はご神体と言われていたことや、中に棲む魔物たちが炎を操っていることからも、これは遥か昔魔導都市として呼ばれることとなった要因の一つである『火のダンジョン』とも呼ばれていた『炎竜の岩屋』なのだろうことは誰の目にも明らかになる。


 それを自分の時代で目にすることが出来た、それはこの町の人だけではなく、他の都市の人にとっても興味が湧く話であり、冒険を試みる者、単純に観光に来る者、そのような人たちを相手に商魂たくましい商人たちは急ピッチで『炎の赤岩』の観光資源化が進めていたのだ。


 まだどれくらいの深さがあるのかは判明していない、Cランク以上の冒険者クランが多数と、Bランクのメンバーを含んだクランが早速踏破に乗り出していて、新しいフロアを発見した際にはその情報を情報屋に売り、自分たちのクランの名を挙げる、さらに情報屋はダンジョンのマッピング情報から地図やガイドブックを製作し、週刊誌のように販売をし始めたようだ、内部の魔物の様子やところどころ赤く光るダンジョンの様子など、この町の住人にとっては伝説級だった場所が開拓されていく、酒の肴には『炎の赤岩』の話題、そんな日々は長く続くこととなったらしい。


◆  トップクラン・紅蓮の咆哮


 現在最深層踏破クランは『紅蓮の咆哮』というらしい、しかもメンバーの6人のうちの半数を他のダンジョンである『慟哭の風穴』に向かわせて、平行して攻略をしているようである、起きている時間にミーティングをして、寝ている時間に攻略を進める。


 冒険譚ララバイにはチャットのような意思疎通システムは文章で届け伝えるか、直接話すかしかないのである、遠くにいる仲間と効率的に情報の共有をするのであれば実質起きてメールでも電話でもするのが一番効率的であったしそうでもしないといけないという焦りを感じでいたのだ。


 …


 時は数日遡る、冒険譚ララバイのサービス開始からひたすらに効率的にレベルを上げて、モノクローム一行とはまた違ったクラン結成クエストも無事に突破し、第一線で各地域の情報収集もしていた紅蓮の咆哮だったのだが、ついにストーリーを進める糸口や、魔法……これはやはりというべきかストーリを解放するためのフラグを見つけられずにいたのだった、そしてまだ解放されていない魔法にまつわる都市である『魔導都市セントラル』が怪しいだろうと考えた彼らはこの街のNPCからの聞き込み開始していた、そうしていたある日、突然のシステムメッセージが流れてきた。


ぽーん

「【システムメッセージ】力が500に到達したプレイヤーが現れたため、初級火魔法が解放されます」


ぽーん

「【システムメッセージ】知力が500に到達したプレイヤーが現れたため、初級水魔法が解放されます」


ぽーん

「【システムメッセージ】精神力が500に到達したプレイヤーが現れたため、初級光魔法が解放されます」


ぽーん

「【システムメッセージ】機動力が500に到達したプレイヤーが現れたため、初級風魔法が解放されます」


ぽーん

「【システムメッセージ】機動力が1000に到達したプレイヤーが現れたため、中級風魔法が解放されます」


ぽーん

「【システムメッセージ】これに伴い『エピックコンテンツ』サブストーリー『風の迷宮』が魔導都市セントラル付近に発生しました」


ぽーん

「【システムメッセージ】これに伴い『エピックコンテンツ』サブストーリー『火の迷宮』が魔導都市セントラルに発生しました」


ぽーん

「【システムメッセージ】これに伴い『エピックコンテンツ』サブストーリー『水の迷宮』がとあるエリアに解放されました」


ぽーん

「【システムメッセージ】これに伴い『エピックコンテンツ』サブストーリー『光の迷宮』がとあるエリアに解放されました」


ぽーん

「【システムメッセージ】秘匿条件が達成されましたので、討伐コンテンツ『刹那』を予告します、実施準備ができ次第追って報告します」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


 我々は驚愕していた、レベル50を超えようかという我々のステータスそれをはるかに上回るプレイヤーがいるということ、我々が総力を投入しても糸口を見つけることのできなかったストーリーの進展、さらには『魔法』の解放、それらが一気にアンロックされていった。


「なんなんだこれは」

「知らないわよ、かいちょ……じゃなかったわね、ショウ?どうする?」


 意見を求めるというよりは、指示を待っているような質問だな、だがこの状況はツイているのかもしれない。


「ユリア、それにタクマとユウマ、君たちにはセントラルを任せる、魔法への手がかりを見つけたらそこでの攻略を優先してくれ」


 その指示に3人は頷く。


「分かったわ」

「「了解した」」


「それで、俺とレンジ、それにシグレは風魔法の探索に向かおう、中級魔法を誰よりも早く手に入れることが出来れば、ほかのクランに比べて大きなマージンとなるだろう?――それに風の魔法といえばこの間近くで見つけた『あそこ』があやしいだろう」


「あぁ」

「ん……」


 その言葉に残りの二人を入れた全員が首を縦に振っている、散々いろいろな場所をリサーチして来ていた、そのうちの一つにとても印象に残る不自然さを残した場所があったのだ、当然そこに行くつもりだ。


「では、いったん俺たちはチームを分割する、ユリア達そっちらは任せたぞ」


「もちろんです」

「「了解した」」


◆ 紅蓮の咆哮・『炎の赤岩』攻略チーム


 メンバーからの報告は芳しくない、火の魔法がありそうなダンジョンはすぐに見つかって攻略を開始した……のだが、そのダンジョンである『炎の赤岩』は、入り口から街の喧騒が届く範囲程度であれば、呑気に進むことが出来る環境だったのだが、魔物が強いのではない……いや、魔物も魔法らしき能力を身に着けていて手ごわいのではあるのだが、何よりも堪えたのはその暑さ。


 1層ではその気温は30度程度、まだ普通に動くことが出来る、3層で35度の真夏の熱気程度だっただろう、だがそれでもそのくらいではさすがにへばることはないのだが、そこから階層を少し進み6層では気温そのものは体感35度程度で落ち着いていた……だが溶岩が流れているのだ、進むためには数千度ともいえるその溶岩を、飛び石のように転々と設置されている岩に飛び乗っていくしかない、ある時には足が滑り、ある時にはすくんだ足の影響でジャンプの飛距離が出ない、当然そのまま死に戻りとなる、それを繰り返していた。


「「どうすれば……」」

「暑いぃ」


 『炎の赤岩』攻略チームの顔には、明らかに焦りが芽生え始めているようであった。


◆ 紅蓮の咆哮・『慟哭の風穴』攻略チーム


 打って変わってこちらは涼しい……というよりも強設定の扇風機の目の前に顔を置いている状態だ。


 以前からこの地域では常に気持ちがいい風が吹く、それがこの地域の伝説として残されていた魔風門まふうもんが突如開かれたことで風量が一気に増大したらしい。


 この地域に棲む種族であるハルピュイアは風に対しての特殊能力があるのか、魔風門の影響を受けた強風でも何事もないかのように生活をしている様子であった。


 だが以前に訪れた際と比べてハルピュイアは明らかに好戦的になっている、以前では友好的で話し相手になってくれていた、だがいまのこの渓谷では、神話のハルピュイアのように『掠め取る女』、その呼び方がふさわしいかのような振る舞いで冒険者を威嚇をしているようであった。


 それは、自分たちに足りないを冒険者を喰らうことで搾取しようとしているかのような、自分たちを追い落とした神話の虹の女神である『イーリス』に対して抗うかのような――必死さを胸に秘めた行動であった。


 ある意味ではハルピュイアは実験動物……それに引き換え、『イーリス』は完成品と言えよう、ハルピュイアが嫉妬や妬みを覚えるのは当然のこと、それゆえに力を欲するのも当然のことなのであろう。


 そのハルピュイア……俗にいうハーピーとは、ギリシャ神話に登場する半人半獣……いや半人半鳥の生物である、祖母には地母神であるガイアという偉大な神の血が流れているのではあるのだが、より強大な力を持って生まれた『イーリス』によって追いやられ……『天界』から堕とされた挙句に『クレタ遺跡』――現在の呼び方で言うところの『慟哭の風穴』に力を封じられてしまっていたのだ。


 ある意味では堕天使と呼べるのかもしれないのだが、その魂の力を解放するのはもう少し先のことだった。


 兎にも角にも『イーリス』以上の力を追い求める『ハルピュイア』その魂の雄たけびによって『ハルピュイアが慟哭する風穴』……つまり『慟哭の風穴』と呼ばれるようになったこの場所が、海風と大地が交わり常にだれかが鳴いているような音が流れる渓谷なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る