第三章:Etude

第24話これがお金持ちの本気……と思っていた時期が私にもありました

「おはようございます皆さま、クラン結成おめでとうございます」


 ログアウトして身支度を終えた後、全員がリビングに揃ったのを見計らったかのように十文字じゅうもんじさんに声をかけられた。


「こちらは皆さまへのささやかなプレゼントでございます、デザインについては早起きしてきた早乙女さおとめに書き起こさせ、特急で業者に作らせました」


 そういって私達6人に配ってきたもの、それは――リストバンドだ。


「せっかくですので、現実の世界でも仲良くしていただきたいと思い、用意をさせて頂きました」


 そのリストバンドはモノクロームの徽章が刺繍されていてとてもカッコイイ、早速左腕――冒険譚ララバイ用の腕輪に被せるように着けた。


「うん!いいねいいね」

「なかなかいい出来ですわね」

「微力ながら尽力した甲斐がありました、お褒めの言葉、光栄でございます」

「あぁ、なんか仲間ってかんじだよな」

「そうですね、チームメンバーの証っていう気がしますね」

「まだそこの箱にたくさん入ってるみたいだけど、なんで?」


 多和田たわださんが十文字じゅうもんじさんに聞く。


「ご主人様が自分も欲しいとおっしゃったので仕方なく……あとはクランを結成致しましたので、今後メンバーが増える可能性が十分にございます、そのとき、仲間外れのようなことにならないようにあらかじめ多めに用意させていただきました」


 あぁ……なるほどね、そういえば6人じゃないといけないってことはないのだった、結成クエストが最低六人必要なだけだったんだよね、学校――クラスメイトで他に遊んでる人いるのかな?そろそろ大幅な量産体制が整ってきたらしくて2次ロットが発売されるから、欲しい人は手に入りやすくなるのかもしれない、2学期になったらクラスメイトの話を聞いてみようかな。


「それはさておき」


 ん?十文字じゅうもんじさん……何?


「合宿から帰った次の日、8月14日の夜なのですが錦家主催の夏祭りである納涼・錦祭が執り行われることになっております、皆さま、こちらお越しいただけますでしょうか?」


 うーん?まぁ私は一人暮らしと言いますか、拉致されたようなものなので錦家主催のイベントだと拒否権はないようなものだ、当確の花が飾られていることだろう――盆踊り、久しぶりだなぁ、屋台は高いから、貧乏人の私は行ってもなにも買えないから虚しいだけだったのでいつの間にか足を運ぶことはなくなっていた。


「問題ないよな?」

「そうですね、僕も錦家でお世話になっているので行かないわけにはいきませんし」

「悩殺浴衣を着ていくよ!男を捕まえるいい機会だ」


 一人だけ目的がぶっ飛んでいる気がするぞ……けど浴衣かそんなもの――持ってない、着たことすらない……いや、かろうじて七五三の時にレンタル衣装で撮った写真が残っていたから着たことはあるのか。


 佐久夜さくやが私の微妙な空気を感じたのか口を開いた。


「浴衣ですか、いいわね――十文字じゅうもんじ、全員分用意できる?」

「もちろんでございます、完璧かつ可憐かつ美しく用意させていただきましょう」

「うん、よろしくね十文字じゅうもんじ

「は!畏まりました、早速準備させていただきます」


 気合十分の十文字じゅうもんじさんはリビングから颯爽と飛び出して行った。

 浴衣は気にしなくてもいいということらしいが盆踊りの踊りなんて知らないよ、ゲームの中でもくるくる回ってただけだしなぁ……ま、雰囲気を楽しんで屋台を回ってみようかな、今年はメイドのバイトのおかげで少し余裕がある。


 「とにかく、これで今日は十文字じゅうもんじはもういないわよ?」


 ――佐久夜さくやは悪い顔をして笑っている十文字じゅうもんじさんがいない午前、それはつまり座禅のない平和な午前なのだ!

 

「ひゃっはーーーー!」

「くぅぅぅう!」

「ぷひゃーーー」

「……っ!」


「今日は合宿最終日、夜はバーベキュー、その後には花火でいかがでしょうか?」


 ――その佐久夜さくやの提案を断る人などあろうはずがない、満場一致で決定した。


 ……


 一日中気兼ねなくビーチで遊ぶ、……何故か錦家謹製のウォータースライダーまでもが併設されいるビーチだ、思えば座禅のせいで足が痺れてまともに泳げた気がしないが、連日のビーチの影響ですこし黒く焼けた私たちはいつのまにか日が沈みかけているビーチサイドで、異次元レベルのバーベキューを開始しようとしていたのだった……。


 今日は使用人としてではなく、お客としてもてなしてくれるらしい、足立あだち君(エータ)と早乙女さおとめさん(ツカサ)も同じように席に着いた。


 ――それは一般市民が想像するレベルのものではない、日本での一般的なバーベキューでは、お肉はカルビやロース、ハラミとトントロと来てからのフランクフルト、時々頑張ってステーキみたいなやつがあったりなのかな――少し凝ってると串に刺して焼いたりをする感じだろうか。


 それに野菜はピーマン玉ねぎ、シイタケにナス……最近はエリンギとかも人気らしいしちょっと頑張ってマツタケとかがあるようだ――無論そんなものは食べたことはないがな!……だけどシメジのほうがおいしいと聞く、だけどこの違いはよくわからないな……あとはトウモロコシやナス、魚介ではイカやブラックタイガーエビといったところを自分たちで好き勝手に焼く形になり、〆に焼きそばとかだろう(バーベキューやったことないけど)


 だけど今この場を取り仕切っているのは日本最大財閥なのである、その財閥が娘とその友達をもてなすための本気(やりすぎ)のバーベキューなのだ普通に終わるなんてことは当然ありえなかった。


 ――余談ではあるが、途中からなぜか佐久夜さくやのお父さんも乱入してワイン片手に上機嫌になっていた、それ一本で車が買えるらしい、それはロマネなんたらだとか言っていて……胃がキュっとなるのを感じた。


 そして本命のお料理――THE豚の丸焼き(正直これは見たくなかった)、ローストビーフや特大フィレ肉、シャトーブリアンからのサーロインやらといった和牛A5ランク軍団とローストしたシカや鴨といったジビエ達、北京ダックもあったけどこれはバーベキューなのかはもう私にはわからないのだ。

 

 ※完全に筆者の独り言なんですが、オーストラリアでオーストラリア産和牛というものを見ました・・・それ、和牛?PS、ワニ美味かったです、鶏ささみ肉って言われて出されたら気が付かない人も多いと思います。


 フランベというフライパンをアルコールで火で包む技術を見たときには、高いお肉が焦げちゃう!っと庶民的な恐怖を感じるには十分なインパクトがあった。


 さて、お次の魚介類はオマールエビや伊勢海老だ、オマールエビはザリガニのように爪が大きいということをここで知ったよ……イカはイメージ通りの物で少し安心したのだが、その次に出されたウニとアワビとかいう私的・未確認海の物体(USO)や、かろうじて食べたことのある、ホタテ(殻付き)と来た後には……なぜかマグロの解体ショーからの寿司職人パフォーマンスがあった――マグロの解体はマグロ解体師とかいう謎の職人が威勢の良い掛け声で実演してくれた、実際に解体するのには資格なんていらないらしいのだがこの資格を持っている人にパフォーマンス依頼するだけで七桁はくだらない依頼量がかかるらしい……さらにその職人によって柵になった切り身から大トロのみを使ってTHE・シェフ達が目の前で握る――中トロ以下はお土産に包んでほしいよ……。

 

 魚介はまだ終わらない、Mr.ズワイさん Mr.タラバさんなどそうそうたるカニ……カニ!タラバってヤドカリの仲間なんだとシェフの人が教えてくれたけど貧乏人の私はそんなトリビアを授かったところで今後生かす場面はないだろうと思った。


 とにかくだ、いろんな職人さんやシェフの人達に頼むというかこれ何?って具合に質問に行くと、試食させてくれたり、希望した量を切り分けてくれたりテーブルまで持ってきてくれたりするのだ、注文するたびに緊張する……だが美味しい――それを繰り返すこと数回、平民たちは誰も……もうなにも気にせず注文できるようになりつつあったのだが……。


 フォアグラ?!トリュフ!?キャビア!?

 

 それはなんですか!?空想の食べ物じゃないんですか?私的心の雄たけびが上がることが何度もあった……胃が痛くなる以外は楽しいバーベキューを楽しめた。


 だけどね……注文に行くたびに、いちいちこれは本日、日本近海で捕れた――とか、産地直送だとか、今日のためにロシアから取り寄せた最高級キャビアだとか言わないでほしい、美味しいのは分かるけど胃がキリキリと痛むんだよ……。


 心の中でこのバーベキュー中に精神を破壊されないようにいろいろ助言して手助けしてくれた早乙女さおとめさんには頭が上がらないなと考えている間に夕焼けも水平線に沈み、辺りは暗くなっていった。


早乙女さおとめさんありがとうね……』



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