第23話モノクローム

 どうしてこうなった……まぁ自分で蒔いた種なんだけどね……とがっくりと頭を落としている私。


 すぐにでも魔法スクロール取得クエストである火の試練にでも向かうことになると思っていたのだが、ギルドに併設している作業場で裁縫と鍛冶の技術をフル活用していた。


 それを尻目に残りの5人は徽章、つまりはクランのエンブレムについてあーだこーだと、なかなかに白熱した議論を交わしていた。

 リジッドマウンテンでの盗賊団タルタロスとのバトルフィールド、そこでの経緯を説明することになったのだが、その際ルインサイズを皆に見せたことが事の発端だ、アイテムボックスから取り出した途端、全員の目は鎌にくぎ付けとなった。


「セツナ、それどうしたの?」

「うん?創ったよ」

「誰が?」

「私が」


 ……


「セツナ様、最近は皆さまと一緒に行動していらっしゃったかと存じますが、マジリハで荒らしをしていた頃でしょうか?」

「うんそうだよ」

「材料や、工房はどのように?」

「クエストで余った材料を、仲良くなった工房のNPCのおっちゃんさんが使わせてくれた」

「なるほど……」


 ……そう言ってツカサさんは黙る。


「それかっこいいよな、なんっつーか漆黒!って感じでよ」

「うん、そうだよね~、魔王とかが鎌を持ってたらどんな感じかな?って思ってデザインしたらこんな感じになったよ、真っ黒だから着色も簡単だったし、さすがに装飾までする技術はまだなかったから……シンプルな形にしか創れなかったんだけどね」

「他にも何か作ったのか?」

「うん、何個か試作品をね」


 そう言って私はアイテムボックスの中から、数点の武器を取り出していく。


 ――ショートソード

真っ黒な刀身とグリップの『ルインフラー』

鍔は付いていないのだ、初めて剣を打った練習台だったからそちらには頭は回らなかった。


 ――ダガー

真っ黒な刀身とグリップの『ルインダガー』

ダガーという名前だけど、苦無くないのほうが近いかもしれない……まぁいいのだ作者がそういうのだ、問題ない。


 ――じょう

真っ黒なシャフトの先に申し訳程度に無属性の魔石をはめ込んだ『ルインワンド』

打撃用というよりは魔法を使うのを意識して作ってみた、杖というと、某魔法使い映画を思い浮かべるかもしれないが、これは聖職者の偉い人が両手で扱うようなタイプだ。


さきっちょはすこしギザギザしているので打撃でもチクチク痛いかもしれない。


 ――|弓

真っ黒な和弓、弦も黒い『破滅の弓』

和弓なので、ルインボウではなく日本語読みにした


  ――大剣

真っ黒な刀身とグリップの『ルインブリンガー』

ブリンガーの名前なので装飾は禍々しくしてみた、ショートソードという練習台があったおかげでこちらの方がうまく作れた気がする。


 ――そして最後に大鎌

真っ黒な刀身とグリップの『ルインサイズ』

死神が持っていそうな感じの装飾をした……髑髏の装飾はないよ。


「これで今のとこ武器は・・・全部かな、みんなそれっぽい名前つけちゃったけど特殊効果とかはないから、名前負けしてる感じだね」

「こりゃすげぇな、武器はって言ったってことは防具――服とか?も作ったのか」

「うんそうだね簡単な外套程度とかは作ったはいいけど動きにくい感じだったから使わなかったよ」


 外套を見せながらそう言うと皆が静かになる、そして……。


「いいなぁ」


 マチルダが口元に指を当ててうらやましそうにこちらを見つめている。


「皆さん、集合してください」


 サクヤが私以外を集めた……。


「一人だけっていうのはずるいですよね?皆?」

「もちろんでございます、従者たるもの主人の物を最優先にすべきです」

「うん、皆は?」

「ほしいですね」

「当たり前だな」

「なんか、こう……カッコいいのを作ってもらいたいわ」

「決まりね?」


 ――ウンウン、とうなずいている、話はまとまったようだね。


「セツナ」


 もう言われることは見当ついてるよ。


「「「「「「全員の分を作りなさい!!」」」」」


「へーい」


 この結果冒頭のような状態になったのだ、まだ隠しておけばよかったのかなぁ……何れバトルになったらどれかは使うことになって見つかってしまっただろうし、諦めよう。


 ……


 今回作ることになったのは一通りの武器と全員分の外套(今回のこれは私は使わない)

武器についてだけど、皆からのオーダーは私のルインシリーズのウケがよかったのか、白か黒を基調とした彩色で作ってほしいという要望が占めた、外套は今度はちゃんと両手を外に出せるよう、両サイドにスリットを入れる加工をしたのち、仕上げとして徽章を背中に張り付けることになった……なんたら兵団とか、〇に亀のマークのようだ。


 ショートソードはタツ君、大剣はサクヤ、弓は洋弓で要望をしてきたツカサさん、ダガー枠で脇差を希望するエータ君


「わったしはねぇ……セツナのと同じような大杖がいい!もうそれ妄想ど真ん中だよ!はぁはぁ――、早くつくってぇぇえ、ねぇぇはやくぅぅぅ」


 ということでマチルダのおバカは杖になった、もちろん打撃タイプではなく魔法タイプである。けどサクヤのが先だからね、レディースメイドとしては雇い主よりも他の人のを先に創ることはできない……もちろん、サクヤの剣の後であれば頑張ってみるつもりだよ。


◆ おっちゃんさんの工房、鍛冶部屋


 おっちゃんさんの許可をもらって工房の一画を借りた、おっちゃんさんの名前なんて知らない、おっちゃんさんはおっちゃんさんなのである。


 カーン…カーン…それにしても鍛造たんぞうは疲れるよね、炉に入れて柔らかくして槌 で成型かつ打ち固める作業、今回は私の試作品の単純な鉄ではなく、炭素を混ぜた合金の基本である鋼を用意した――、自分の物となると適当でもいいのだが、友達の体を守るための装備だ、手を抜くわけにはいかないのである、そもそも純粋な鉄だと脆いからね。


 ゲーム内での日付はとっくに0時を過ぎている、深夜になっても槌を振るい続けていた私以外は寝室に向かってしまった……漆黒の武器はほぼ完成をしたのだが、まだ外套を作る作業が残っているのだ。


 途中から白竜ルリム黒竜シュブが炉に火?の息を小さな吹き、炉の温度の維持を手伝ってくれているように見えた、白いブレスと黒いブレス、火には見えないのその不思議なブレスは、なぜか炉の温度を上げ、鍛えている刃が冷えるのを遅くしているように感じだ、そんな小さなお手伝いのお陰かわからないが、想像を遥かに凌ぐ速度で鍛造の作業は終了した。


 武器の製作を終えたときには、作業台の近くにあるテーブルでお互いがお互いのおなかを枕にするように丸くなり白と黒の物体は可愛らしいとしか言いようのない寝息を立てていた。


「プスゥーー……プスゥーーー……」

「クゥーー……クゥーーー……」


◆ おっちゃんさんの工房、裁縫部屋


 チクチク、チクチク、同じものを5着も作る作業は眠さパラメータを最大値まで高めていく、何度寝ぼけて指に針が刺さったことか……力を籠めるでもないこの作業は非常に眠気を貯めてくれる、編み物だったとしたら確実に網目を間違えていたことだろうが、今回は型を取った布を縫い付けていく作業なので寝ぼけてミスをするようなことは少ないのは良かった――さぁ!あと少しだぞ頑張れ私!……。


 ――翌朝。


 私が目を覚ますと作り上げた外套には徽章が刺繍された状態で仕上がっていた、どうやら昨日のうちに徽章のデザインは無事決まっていたようだ、私は話し合いに参加していないのだが、この仕上がりを見たら文句はない……刺繍はツカサさんだろう、錦邸にいるときに超高速で刺繍をしているのを見たことがあった、速度の秘訣を教わってみたいな……今度聞いてみよう。


 それを眺めているとツカサさんを含め5人が作業場に入ってきた。


「おはようございます、セツナ様」

「うんおはよう、ツカサさんだよね刺繍で仕上げてくれたのは」

「はい、お疲れの様でしたので美味しいところを頂きました」


 カッコよく笑うツカサさんその顔はやり切った満足感からか晴れやかだ、その他の眠そうな男どもとマチルダ&サクヤはその話を聞くと、最初は眠そうな顔をしていたのだがすぐに目が覚めた顔に変化していく。


 黒をメインにし、スリットを境として腹部と輪郭のみ白の生地を使用したシンプルなデザイン、腹部の輪郭は逆に黒くなっている、そして背中だけではなく、両肩にもツカサさんが刺繍したのであろう徽章が存在感を放っていた。


 徽章には、竜が描かれている、左半身は白、右半身は黒だ――翼を広げて飛んでいる姿勢を背中から描いたかのようだ、輪郭に白、黒を使用し服の黒と混ざって分かりにくくならないように工夫されていた、ルリムとシュブは速攻で私たちのシンボルになっていた……異論?そんなのないよ。


 皆は外套を受け取り、そのまま纏っていく、纏ったあとには私が創り上げたユニーク武器をプレゼントしていく、皆嬉しそうに感謝の声をかけてくれた。


 そして私はメイド服、外套は着ないよ?その代わりに変えのメイド服の肩のところに徽章を刺繍をしてもらった。

 さすがに私だけ徽章がないのは寂しいからね……皆が武器を持ち構えたのでそれにつられて私の手には大鎌を構えた。


「クラン『モノクローム』完成だね!」


 サクヤの待ってましたというようなその声に、全員で武器を振り上げて呼応した――。


「「「「「おーーーーーー!」」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る