第19話ノット絆ブレイク
私はものすごく気合たっぷりで、絶体絶命のピンチに現れるスーパーヒーロー的なノリでその場に臨んだのだが、肝心の孤児達はいなかった。
せっかくカッコイイところ見せれると思ったのに気が抜けてしまったよ、盗賊のボスなのであろう男との問答の後では、目的が半減してしまったように感じるのは仕方がないことなのだ。
「大義名分が無くなっちゃったなぁ」
そんなことをポツリと声に出してしまっていはいたが、誰にも聞こえてはいない。
『上』の人と少しだけやり取りをしたが、しばらくしたらしびれを切らしたかのように――盗賊団が襲い掛かってきてくれたよ。
私としては『襲われたので、やり返しました』という大義名分を得た気分だった、やってやろうじゃないか、ゲームの中とはいえ理不尽に対人戦はしたくはなかったんだもんね。
「ルインサイズ、おいで」
漆黒の大鎌が姿を顕現し、私は回転舞踏を始めた……舞と言っても回転をし続けるだけなのだが、この舞踏、悪党をひたすら優雅に反撃を許さずに殲滅する嵐とでもいうようなイメージがあったこともあって、お気に入りになりつつあった。
その名も『
回転しながら切っ先を敵の首に添えていくだけの簡単な作業、刃が通った次の瞬間には敵が物理的に2つに分かれていく――盗賊達はナイフやショートソードを振るってきてはいるののだけど……あまりにも遅い、少し鎌の軌道を変え、盗賊の武器を薙ぎ払った次の回転でまた盗賊を引き裂いていく。
現実の命ではなく、
やられなければ見逃す、やられたら全力で相手をする、それが
それもこれも刹那の魔王の噂がきっかけだ
――魔王と言えば人類を攻め滅ぼそうとしているちうイメージが根強くあるが、大半は人間が一方的に魔物がいるから攻撃する……魔物だから何をしてくるかわからない、だから攻撃は正義なのだ!などと意味の分からない正義を振りかざすゲームや小説がたくさんあった。
だけど相手の善悪は自分の目で見て判断する、それは転生ものの主人公とか一部の英雄に限られた思考だったのである。
それでは、刹那の魔王だ!などと一部で呼ばれる私の立ち振る舞いはどうしたものか?少なくともPVPに関しては専守防衛を通してみる、システム的に無限にPOPするモンスターは置いておいて、人型に対しては縛りプレイもまた面白そうだと思った。
◆ 『上』の人
面白いお嬢ちゃんだなぁ。
「お嬢ちゃんちょっといいか?」
戦闘中なのだが、俺の声を聞き動きを素直に止めた。
「その動きを見る感じ間違いないと思うが『イマジネーションハイ』って知ってるか?」
「うん、それで?」
「分かった、それで十分だあとは俺……そうだな『テン』とでも名乗っておこうか、勝ったら教えてやるさお前ら《村民たち》、手ぇだすなよ?」
雑兵どもは頷き、場から離れた。
◆
――
私は様子を見ながら、時々攻撃がギリギリと届く程度の動きを続けつつ、少しづつ深く攻撃が入るように調整をしていく――様子を見るために数分間は適度に距離をとっていた、攻撃する姿勢も崩さない立ち振る舞いをしてたし、そろそろ攻撃を強めようかと気合をいれた時。
「まいった、なんっつぅ速さだ、無理ゲーだよ畜生」
――えぇ?終わり?
「もう終わりなの?……本当に?それだと約束の通り教えてよね――っていうが手ごたえがなくて楽しめなかった」
半分怒り、半分安堵、ちょっぴりガッカリだが、バトルを楽しむまでに至らなかったからこの人は総合して”残念賞”だね。
「システムメッセージ、クエストバトル『タルタロスの幻影---ツェーン---』を突破しました。
バトルフィールド制限を解除します」
◆ 『上』の人
いやぁ……まいったわ、こいつ速すぎるぜ、しかも『イマジネーションハイ』なんていう仕様を知っているってことは開発者の誰かに通じてるってことだよなぁ。
……手ごたえがなかったとか言われちまったし、完敗だな手も足も出ない……マジ強かったなぁ……こいつなら――いや、分からないが、とにかく約束通り教えるしかないか。
「俺は、
おっと現実メタ発言だ、ゲーム内で本名なんていいのかな。
「これ以上俺の口からリアルの……俺以外の情報を口にすると
「とにかくだ、このクエスト『Break Bond』とその裏目的『枷を破壊せよ』はクリアだな。さっさとセントラルに報告に行ってきな」
絆ブレイク……それは本来は俺たちじゃなくて『あいつ』を倒すためのシステム制限だったんだがな――。
◆
――うまくまとめられた気がする、だけどここには孤児院の子供たちはいないし、もう戦うべき相手もいないし、ボスは投降した。
村人たちはほとんど失神しているのだ、倒せばEXPになるかもしれないと考えもするが、
その時、洞窟の入り口……いや、もっと上の方から――。
……ッドーーーーン!
ガラガラガラ……ズザザザー……!!
外からとても大きな音がしてきた、――忘れてた!ここには1人で来てたんじゃなかったよ。
「エータ君!」(あ、君って言っちゃた)
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