第18話我が名は刹那、使用人でございます。
エータが山を登っていくのを見送った後、ゲーム内では久しぶりに完全に一人だけとなった、若干さびしくもあったが誰に見られることがなく自重も必要とせず、今できる最高の動きを試す機会を得たことでワクワクが止まらなくなっていた。
「さぁて、行ってみようかな」
ティティオスの洞門に入っていく……ゲーム内のご都合的な力が働いているのかは分からないが洞窟内でも暗くはない、なんの準備もしないで飛んできたから松明くらい必要だったかなぁとか考えていたんだけどこういうシステムはありがたいね、この光はヒカリゴケとかではなく岩そのもののようだ、じんわりとした光を出す種類の石がまばらに埋まっているような感じみたいだ。
そのまま進んでいくと体育館ほどの広場に出た。
「綺麗だ――」
眼前の光景に、率直な感想が無意識に出ていた――夜空の中に吸い込まれたのではないかと錯覚してしまう。
「やばい写真撮りたい」
さすがにそれは無理だったがスクリーンショット機能を実装してほしいと思ったのは事実だよ、しばらくぼーっとしてその光景を眺めていたのが、その感動は長くは続かなかった。
――あ、囲まれてたっぽい、それに気が付いたのと同時に。
「システムメッセージ、クエストバトル『タルタロスの幻影――ツェーン――』を開始します、バトル終了まで、退出を制限します。」
岩の隙間や来た道、さらに洞窟の奥の方から人の気配がする……向こうも気が付かれたことを察したのか隠れることを止めて、ぞろぞろと姿を現してきた――見覚えのある農家の人や宿屋の女将さん、木こり、酒場のマスター、そしてヴァジェッタの村長。
そして奥でどっしりと構えた周りの村人とは明らかに風格の違う見たことのない人。
だが子供達がいないようだ、31人も子供がいたら、話し声くらいは聞こえてもおかしくはないのだけど、そんな気配は全くなかった……もしかして、すでに売られてしまったのか?
「孤児院の子と、先生はどうしたの?ここにはいないようだけど」
キッと村長を睨みつける――それはゲームを楽しむなりきりゴッコだけどね。
「ちっ、あいつらは夜逃げしちまったよ、どうなってんだ建物ごといなくなるなんてよ」
「はい?どういうこと?あなたたちが誘拐したんじゃないの?」
「どうもこうもあんな人数の子供を連れてる状態で、こんなとこまで2日で来れると思うか?一昨日の夜、出荷直前に様子を見に行ったらこのざまだよ……ここには上に呼び出されて来ただけだしな」
誘拐については否定する気もないんだね……まぁこの人数なら返り討ちにできると思うだろう、っというか仮に負けても、プレイヤーは所定のポイントで復活できるからあんまり意味ないんだけどなぁ。
「余裕そうにしているが、お前『バトルフィールド』は初めてのようだな」
――?なんじゃそりゃ、いろいろ説明してくれるようだから黙って聞いてみよう、ご都合の説明をしてくれるようなのでおとなしくするよ。
「
ありがとう親切な盗賊さん!という設定のNPCだよね?ていうか――一応絆ブレイク要素もあったんだね、つまり『バトルフィールド』ってのの開始を知らせてくれるのががさっきのシステムメッセージだったみたいだ、ツェーン って何だろうってツッコミはあったけど――そろそろ始まりそうだ。
さっきから気になってたけど、たぶん奥にいる雰囲気の違う人が『上』の人なんだろうね……その人が手を上げると雰囲気はガラリと変わった……、村人風盗賊達も武器は武器を構える。
――100人は軽くいるだろう、だがこの人たちにはなぜか負ける気がしないのだ、いわゆる戦闘力5しか無さそうな敵なんか、いくらいても――ね。
そもそも大抵の場合では物語でも、史実でも、盗賊という集団の大半は騎士団に入れなかったり奴隷だったような人の寄せ集めというのが関の山だし、訓練もまともにしていないのがほとんどだろう。
盗賊がじりじりと距離を詰め始めたタイミング――『上』であろう人物はのそっと立ち上がり声を上げた。
「お嬢ちゃん、ロールは?」
「何に見える?」
そういいながら私は装備を整える――カチューシャ、リボン、エプロン、その下には黒をベースにしたワンピース、え?装備整えるの遅すぎるって?というかその恰好が装備なのかって?
「
「半分正解!」
その答えにガクッっとしたようにも見えたが、それを合図に盗賊たちが一斉に動き始めた。
――ある程度を距離を取り、弓やクロスボウのようなものを構える者たち、ナイフや槍、棍棒など近接ににじり寄ってくる者たち。
あぁ始まるよ、今までの下準備が終わって私の冒険がはじまるよ!
ぞくぞくする気持ちが押し殺せない――私は今どんな顔をしているんだろう。
さぁ出ておいで私の私による私のための
◆ はじまりのマジリハでのお使いの日々
――マジリハの街で素材収集クエストをこなしているうちに余った数々の素材。
――マジリハの街で本の送り届けクエストをしたときに様々な本の盗み読みした知識。
――マジリハの街でのアルバイトというようなお手伝いクエストで町中の人と出会いコネを大量に作ってきた。
私は最初はロールをハンターにしようと思っていた、でも冒険者っていうとゲーム内ではある意味では全員がそうだし、盗賊っていうと響きが悪い、怪盗でもよかったんだけどなにかちがう、ハンターならいろいろ冒険して宝物を見つけて悪いやつを成敗して――!
……そうこう考えているうちにいつの間にやら魔王とか呼ばれるようになっていた、解せぬ――が、何となく仮に自分が女魔王だったらどういう動きをするだろうか?とか考え始めて行動を始めようとしていた。
そんなさなか、突然サクヤに誘われて錦家の使用人になることになった、それ以降は使用人というなじみのない仕事が選択肢に入って来た……ゲーム内だとしたらどうやって戦うんだろうという想像をするようになった――毒?小刀?いやいや全然イメージが浮かばない。
せっかくいろいろな武器の試作品を創ったので、すべての武器を使いこなして遊びたいのだが、その試作品たちを使用人というジョブの人が扱う姿を想像することは、そのタイミングではまだできなかった。
その後もひたすらに、座禅をしながらも考えた、あれはきつかったなぁ……でも悟りを開いたよ。
『いいか・・・何でもできればいいのか』
――とりとめもない、バトルでは何もできなさそうな使用人と真逆にある答えだ……。
使えないなら使えるようになればいい。
出来ないならできるようになればいい。
その中で今回使うこれは、魔王の噂が立った時期に気まぐれで創ったのがこれだ――だが。
『正義の味方には見えないよね』
◆
「ルインサイズ、おいで」
――その言葉に呼応するかとようにそれは反応し、アイテムボックスから姿を現し手に収まる。
魔王が持っていても違和感のないような漆黒の大鎌、中二病みたいだが魔王のイメージに沿って”滅亡”の名前にしてみたそれ――その長柄 は私の身長にも達し、刃の部分もそれに近い長さでありそのすべてが漆黒。
まだ完成品ではない、だが後にこれがゲーム内で用意される最強の武具に並ぶ存在になるような予感を、私はひそかに持っていた。
◆ 村長さんの視点
な……なんなんだあいつは、突然どでかい鎌を出したかと思ったら、一振り一振りが踊りを舞うようにきれいな軌跡を描いたと思ったら――次の瞬間には仲間たちが次々と倒れていく。
「あははははは、ねぇ……次はだぁれ?」
――こ、こいつ盗賊よりやべぇんじゃねぇか?あれか?少し前にマジリハで噂になっていた魔王って
こいつなんじゃねーのか?目の前の光景に愕然として背筋が凍る
前衛なんてすでに半壊した、だが遠隔攻撃部隊はまだ無傷なのだ、――皆それがわかっているのもあり慌ててはいないし矢を射る構えに入っている……のだが――なぜ誰も撃たない!?
◆ 後衛部隊、宿屋の主の視点
バトルが始まった、五十人はいるであろう我々の団のなかの前衛部隊、それがたった一人の少女に群がっていくその光景は犯罪集団にしか見えないな(いや盗賊なんだけど)
――だが、女の動きは止まらない、すぐにチェックメイトすると思っていたのだが、仲間は次々と倒れていく……その勢いは止まらない、――というか女はどこだ?仲間が倒れることで大体そのあたりにいるということは認識できるのだが、どう目を凝らしても姿が補足できない……そろそろ前衛が半数にまで堕ちてしまうぞ。
ぐ……ぐぬぅぅぅ、これでは攻撃をするどころではないぞ、構えている矢の先を
――焦りは募っていくがどうしようもなかった、黒い影が自分の前を通り過ぎたと思った刹那、気を失ってしまっていた、その直前に見えた少女の動きは、まるでバレエの舞いだった。
◆
なんというか――せっかく本気モードになれると思ったんだけど。
やっぱり盗賊なんてよわっちょろいなぁ、所詮は寄せ集めなのかなぁ?けど
――やりすぎた疑惑?かっこよくやりすぎちゃった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます