第17話二人パーティと生贄のような人質のような、期待のホープのような

「よし、んじゃそこの……?お前、ロールはなんなんだ?」


 おお?私か?

 私を一目見た後、戸惑ったかのようにおじさんが言ったので、自分の顔に指を指して、私?っと様子をうかがうように肩をすくめる。


「あぁ、お前のことだよ」


 やっぱり私のことか……口が悪いなと思いつつも、とりあえず頷いて答えよう。


「ロールですか……それは秘密です、だけど何でもできる感じがいいかなとは思うんですけどね」

「ほう?オールラウンダーか、まぁいいだろう今は置いておこう、ところで……だ、今回のクエストにはお前を含めて、あと1人しか同行は認めない、クランクエストっていうくらいだから全員参加だと思っていたかもしれないが、内容は俺の裁量に任されているんでな、意外だとは思うだろうが、パーティの状態によって試練の内容を調整する権限なら、俺みたいなのでも一応は持ってるからな……んでだ、残ったメンバーには、ちょっとした特訓を別に受けてもらうつもりだ。」


 ほぉぉ……クラン結成クエストなのに参加者は2人なのか、まぁ普通のPTだったとしたら俺(私)が行く!っとか喧嘩が起きそうなものだけど、私達の場合は『ヴァジェッタ』への道中で戦った組と戦っていない組とにクッキリ分かれている事が有り、一緒に行く一人を選ぶのになんにも悩むことは無かった。


 …


「じゃ、エータ君サクッと行ってこようか」


「そうですね、次はセツナさんの順番だとして、僕も一応バトルはまだしてませんもんね、僕でいいですか?」


「「「「うんうん。」」」」


 っと皆頷いてくれている、分かってるね。


◆ ジャック視点


 まったく……なんなんだよこれは、本来なら、このクエストの内容は『Break Bonds』を直訳した、そのままの意味な、『絆ブレイカー』だ……この名前に騙されて皆でやらないといけないんじゃないか?なにか心を試すような試練があるんじゃないのか?だから6人で協力をしないといけない!……みたいな、考えれば考えるほどにドツボにはまるような、そのような設計にしたつもりだったんだが……。


 とにかく、自己主張をし始めるようなメンバーが出てくると想定して作られたクエストだったんだが……。


 こいつらあっさりと(なにやら順番を決めていたとか言っていたから偶然かもしれないが)、しかも普通は少人数なら「私が行く!」とか「君を危険な目に合わせるわけにはいかない!」っとか言うような歯の浮いたセリフが出てくると相場が決まっていたようなものだと思っていたのが、こいつらはエータとかいうひょろい男は置いといて、セツナとかいう女(ステータスは確かに何故かラスボスレベルのバケモンだが)を信用――というか「まぁ大丈夫でしょ?」程度のノリで送り出そうとしていた。


 はぁ……よくわからない奴らだ、それが俺の第一印象だった。


◆ セツナ視点


「いちおう聞くけど、このクエストは全員参加じゃなくてもいいんだよね?」


「あぁ……問題は無い、ギルドマスターっていう役職ではあるんだが、まだセントラルにはプレイヤーがあまり来ないから暇なんだ、まぁ修行だと思って付き合ってもらうつもりだ。」


 もう一度皆に目を向けると。


「「「「うんうん。」」」」


っと頷いてくれている皆、分かってるね順番だもんね。


「んじゃエータ君行こっか」


「そうですね『リジッドマウンテン』といえば僕が鳥……というか飛行系モンスターをテイムするつもりだった場所ですよね、その麓に目的地の『ティテュオスの洞門』があるのであれば、願ったり叶ったりです。」


 よし……『ヴァジェッタの村』ではちょっと気持ちを惑わされたけど、今の私達がやるべきことがはっきりしている――タルタロスっていうのはどういう組織なのか、誘拐されたんだと思う孤児のNPCの子達はどうなっているのか?孤児院まで案内したあの子はどうなっているのか――などなど気になることはたくさんある……けどね、それはゲームのシナリオだと思うし、深く考えても仕方がない。


 だけど大人ってこんな内容のシナリオを学生が遊ぶようなレーティングのゲームに入れようと考えてしまうのか?そんなに汚れてしまうのか?


 ――いや、とにかくタルタロスの件を解決してから考えよう。


◆ エータ君視点


 そこからのセツナさんはすごかったです。


 話を聞き終わすとともに、ギルドの扉を開いたと思ったら追いつけないようなスピードで山の方に走っていく――ま……待って、置いて行かれるぅぅぅぅ……。


っと思いきや、時折僕の方を振り向いて速度を抑えてくれていた、セツナさんにおんぶでもしてもらったほうが早く移動できるんじゃないかとか邪な考えが頭をよぎったりする……でもさすがに男の沽券にかかわるからそれは言えない!――っということを考えながら必死にセツナさんについていった。


途中セツナさんが話しかけてきた。


「ねぇエータ君、バトル中とかだと『君』とか『さん』みたいに呼ぶのは時間がかかるから呼び捨てにしない?」


 えぇぇぇぇぇ?女子を呼び捨て?しかもセツナさんを?そんなこと、した……い。したいのだけどそんな事はできない……あぁぁぁっぁぁぁあああ。


「考えておきます」


 そう答えるので精いっぱいだった。


◆ セツナ視点


 ――さてっ……と。


「たぶん着いたみたいだね、思ったより近かったね」


 約200キロの道のりを駆け抜け、私はその距離のことなんてなんでもなかったかのようにエータ君に同意を求めた、だけどエータ君から肯定するような返事は帰ってくることは無かった。


 ――後で聞いた話では、本来では本気で走って4時間かそれ以上かかる距離であったらしい、そもそもフルマラソン(42.195km)でも2時間前後だったったような……というよう長距離をとても短い時間で駆け抜けてしまったらしい。


 エータ君の機動力はっと……え~っと400~500くらいかな、ふむふむ……パーティの中で最下位だけどね……私?聞かないでよね、ジャックとかいうおじさんにステータスを少しばらされちゃって動揺したんだからね。


 ――その刹那。


「ゴアァァァッァ!」

「グアッァァァァ!」


 !?何やら聞きなれない咆哮が山の中腹の辺りから聞こえてきた、私はこの声に驚いていたが、エータ君は待ってましたとばかりな表情をしている。


「エータ?」


 あれ、返事がない。


「エータ――?」


 あれ、返事がないただの屍の様だ。


「エータぁ?」


 殺意を込めてみた。


「ひぃ!僕悪いテイマーじゃないですよよぉおぉ?」


「うんごめん、話が聞こえてなかったみたいなんだけど、私はタルタルソース団討伐、エータ君はチキンをテイムって目的が分かれてると思うし、別行動にしようと思うんだけどいいかな?」


「いいですとも!――あ、いいと思いますぅぅぅ」


 パワーを隕石にするゲームは遊んだことがあるみたいだね、合宿終わる前に皆でゲーム大会でもしようかなぁ、パズルでもいいしスポーツでもいいし、Eスポーツ的な――。


 お……!錦家主催で大会開いてもらえば賞金もらえるんじゃない?あとで提案してみるしかないな、最近(金策)はクエストも全然やれてなかったし、使用人のお仕事もキッチンメイド以外には夏休みというか合宿のためさぼっているようなものなのだ、さすがにこの環境からクビになるのは精神的に厳しい、――やっぱり私のロールは……やっぱりゲームには似合わないけどあれしかないな。


 いろいろ考えたいことはあったけど、目の前に見つけた風穴が目の前にある、それはおそらくは『ティテュオスの洞門』だろう、私はその入り口の前に立ち、クエストを攻略するため、気持ちを落ち着けることにする……よし!


「エータく――じゃない、エータは今の声がした方に用事があるんだよね、こっちはちゃちゃっとやっておくから、可愛い子をテイムして来てね」

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