第16話セントラルのギルマス

 『ヴァジェッタの村』の孤児院跡に記された書置きを見た私たちは、颯爽と『魔導都市セントラルへ』向けて走り始めていた、街道では眠そうな顔をした御者が操っているタンデム馬車や、普通に背に跨って駆けている人、バイコーン?!みたいな二本角の馬に乗った人など、それなりに人通りは多かったが、私たちはそんな人達を気にする事もなく、単騎駆けの馬よりも速い速度で走り、彼らを追い抜かして行った。


 孤児院の件があったので出来るだけ早く手がかりのありそうな『セントラル』に向かいたいと思っていた。


私はそういった想いから皆を鼓舞……というか皆も同じ意見だったようで説得も必要はなかったのでけど、ともかく全員での移動における最高速度で進んでいる。


もちろんタルタロスや孤児の子達は早く探し出さないといけないし、その孤児院の子供達もどうなっているのかわからない……おまけで、その後のクラン解放クエストの情報など、いろいろ考えないといけないことはあったのだが……皆の(私含む)走る速度があまりにも速いのが気もよく、気持ちが昂っている、そんな状況の中で嬉しそうに駆けていたタツ君が口を開いた。


「なんっつーか、俺ら……めちゃくちゃ速くねぇ?」

「まだまだ遅いよ?私の本気はこの程度じゃないからね、ちゃんと本気を出してね」

「――っち、お前が速すぎんだよさすがに、チートじゃねーか?そんなん」


 まだ機動力なんて3000を超えた程度なんだけどなぁ(※異常です)、100メートル走でいうと――0.5秒(※異常です)くらいかな?さすがに速かったかな……試しに走ってみたときには自分で走っててちょっと怖かったくらいのスピード感だったよ、冷静になると高速道路の車より速いってことになるんだもん、いやぁゲームのなかって凄いなぁ。


「……んだよ俺だってソコソコ強くなったと思ったんだけどな」


 そう言いながら、ステータスを確認する。


「ステータスオープン」


プレイヤー名【タツ】

レベル【33】

経験値【235000 / 1300000】

力  【489】

防御力【870】

知力 【489】

精神力【352】

機動力【511】

魔法 【無し】

アーツ【無し】

スキル【ボラタイルソード】

称号 【無し】

装備 【ショートソード】

装備 【バックラー】

装備 【旅人の服】

装備 【旅人の靴】

コイン【10】


 ……?何故かコインがとても少ないぞ?


その理由は後日分かった、簡単に言うとタツ君もコインを現金に両替して佐久夜さくやにプレゼントを買っていただけだったようだ。


後日聞いてみると、冒険譚ララバイにログインするために必要な腕輪をもらったから、そのお礼だとか言い訳をしていた――新学期になったときに佐久夜さくやの学校鞄には可愛いクマさんの人形があることに気が付いた私達がニヤニヤ顔を隠す事が出来なかったのは、語るまでもないことだろう……爆発しやがれ。


 そうだ、そういえば私達のパーティの中で最初に『防御力』が500を超えたのは私ではなくタツ君だった――『防御力』の経験を稼ぐのには何かしらの攻撃を食らうか、受け流すかしないといけない、そのため『機動力』が高くなっていた私は、良くも悪くも攻撃を避けることに慣れてしまっていた私は『防御力』が上がりにくくなっちゃったんだよね……さすがに騎士のロールで遊ぼうとしているタツ君は、盾で受けたり受け流す練習が多くメニューに組み込まれていたので、こうなったのは納得の結果だ。


 ちなみに『防御力』500を突破した時にも例のシステムメッセージが発生していた。


ぽーん

「【システムメッセージ】防御力が500に到達したプレイヤーが現れたため、初級無魔法が解放されます」


 みんな防御で闇が解放されると思っていたので少し意外、それにしても無属性か……生活魔法みたいなのではないだろうし、何をするものなのかな?検証はクランを作り終わった後のお楽しみにしようということで落ち着いた。


 ……今現在ではだけど、ほとんどの魔法を私がアンロックしちゃった気がするんだけど、このゲームはどうなってるんだろう?普通は廃人と呼ばれるような超人ほめてないの人達がサクサクと進めて行っちゃうんだけど……あ!


 そうだった……これは私自身が体感したことなんだけど、実はレベルが上がると『経験』が溜まりにくくなっていたみたいなのだ、さらに一般に廃人と呼ばれる人たちは、大抵のMMOでは効率的なパーティを組み、最高効率で上げることができる上限までレベル上げをしてからエンドコンテンツを楽しむというのが一般的な風潮だったんだった……そう考えると私達の――いや、私だけか?のやり方はぶっとんでるなと我ながら思った。


「いっやぁタツ君って本当にナイト様タイプな成長だよね、守るべき主君がいる!っっっくぅぅぅう!いいわぁぁぁこういう設定」


 突然のマチルダ狂乱!だけどわかる!騎士だってさ!騎士だってさ!なんかキュンキュンするよ。


「んじゃ私も流れに乗って、ステーーーーータスゥゥ!オーーープゥゥンン!」


プレイヤー名【マチルダ】

レベル【31】

経験値【775100 / 1100000】

力  【320】

防御力【320】

知力 【989】

精神力【536】

機動力【423】

魔法 【無し】

アーツ【無し】

スキル【分子操作I】

称号 【無し】

装備 【旅人のローブ】

装備 【旅人の靴】

コイン【0】


 …


「これは」

「これまた」

「魔法を使う妄想をしてると『知力』があがるのですか?」

「さっすがに、そんなことは――あるのかも?」

「わかりません」


「う~~ん、けどさ~?ステータス上がって、それを妄想パワーでうまく使えるようになったのは良いんだけど、まだ魔法を覚えてないんだよねぇ、早く『ファイアーバレット』!とか詠唱してみたいよ?わたしゃ……このゲームは剣と魔法の世界って広告を打って発売してるのに、最初から使えないのは仕方がないとして……チュートリアル期間で使えるようになるとかさ、それくらいであるべきだと思うんだよなぁ」


 それは確かにそう思う、なんせ『売り』の一つがすぐには使えないのだ。


そういえば……て、あれぇ?


マチルダさんもコインが無い……?。


「え?あぁコイン?ご飯を沢山食べてたらなくなっちゃった……いやぁ、冒険譚ララバイの中って、いくら食べても太らないんだよねぇ、ついつい……とね」


 そ……そうだったのか~~!それはそれはそれはそれはそれは、もうなんというか天国じゃないですか!サクヤも青天の霹靂とでもいうような表情をしているし、ツカサさんも「なんということでしょう」と連呼している!スイーツを好きなだけ食べたい……これは女子の真理なのだよ!


……


「見えてきましたね、たぶんあそこが」

「魔導都市セントラル!!!」


 マチルダ興奮しすぎ、……っとツッコんではいるが、やっぱり新しいロケーションに到着するワクワクというか期待というか、そんな気持ちは皆にある、『セントラル』に到着するとともにさっそく冒険者ギルドへ向かった。


「たっのもーー!」


 ――ってあれ?受付のおじさんしかいないよ、『セントラル』っていう名前なくらいだし人が集まるイメージだったのに閑古鳥だ。


「来たな?君たちは『ヴァジェッタの村』から来ただろう?」


 なんでわかるんだ?おっさんストーカー?


「はっはっは、私は……そうだな、ジャックとでも呼んでもらおうか君たちのことはリードから聞いたといえばわかってもらえるかな?」


 ――ストーカではなかった、リードさんから聞いたということはGMか?


「おじさん、GMですか?」


 気になることはとりあえず聞く、それが私の流儀である。


「あ~~っと……そうだなぁ、俺はGMではない、だが開発に関係はしていたんだ、さすがにこれ以上は言えないがな、それでお前らはクエスト『Break Bonds』を受けに来たんじゃないのか?」

「えぇそうです」


 そうサクヤが返事をする。


「さぁ!クエストの受付をお願い致します」


そのまま畳みかける


「さぁ速く!」


「……遅いです」


「しっかりしてください」


「――まだなんですか?」


 ずっとサクヤのターン、おじさんはポリポリと頭をかいている。


「まてまてまて、お前らのステータスを確認する……あぁステータスオープンはしなくてもいいぞ、権限で見えるからな」



 面白そうなパーティがヴァジェッタ方面から来るだろうと『あいつ』から聞いてはいたが、高校生くらいか?金髪の子は中学生にも見えるが……孤児院に偽装させた奴隷産業の村ヴァジェッタから来たというこいつら、生意気な奴らだが、ギルマスっていう役割はやらないと問題になるな。


 業務遂行しますかね――ふむふむ?


 ――ちっさい金髪

ランクC

LV38


 ――その隣から離れない保護者みたいなの

ランクC

LV38


まったく同じかよ


 ――ボイン

ランクC

LV31


 ――態度のでかそうな男

ランクD

LV33


 ――気の弱そうだが不気味な男

ランクB

LV35


 ――で最後の黒髪黒目……まぁ普通よりすこし残念な女

ランクS

LV30


 ――ってなんだこれは、なんなんだよあのステータスは……LV30でこの状態だと?!


 マジもんのバケモンじゃねぇか……ネームドNPCどもが噂にしていた『ギルド荒らし』、『魔王』ってもしかしたらあいつのことか?


「くっくっく……」


――楽しくなってきた、うかうかしてられねぇがとにかく今は務めを果たしてやるか。


 こいつらにはクエストの試練内容なんて意味がないかもしれないな……。


「ふむ……全員問題ないみたいだな、ではお前らに『Break Bonds』のクエストを発行する、パーティによって内容は違うんだが、お前らは『リジッドマウンテン』の裾野にある『ティテュオスの洞門』に行ってもらう、そこにお目当ても居るだろう、さったと行ってくるがいい」


「よぉぉっし、皆?今回は私の番だからね?手を出さないでよね」


 ――ん?なに言ってるんだ?1人でやる気か?いやいやいや、相手は盗賊団だぞ?う~む、むぅぅ……確かに協力なんかしなくても黒髪のお嬢ちゃんだけで余裕そうだな……よし、乗り掛かった舟だ――何人か力を見てやるか。


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