第15話タルタロス・始動

 先日の佐久夜さくやからの不自然さに対する訴えは、落雷事件の影響だろうと判断された。


「確かに……普通に考えればそれで納得はできますが、何かをお父様達が隠しているように見えました……ログインしたら、もう一度あの子に会ってみるしかないようみたいね」


 佐久夜さくやは顎に手を当てて思案する……しかし現状では、自分が持ちうる情報では、この疑問を晴らす方法は再びあの子に会う以外にはないのだ。


「どうにもならないですね……」


 首を横に振り、お手上げのようなしぐさをしながら刹那せつな達のくつろいでいる部屋へと戻った。


 ……


「おっはよ~~うっ!ご飯だね~~!」


 早朝の女子部屋で、多和田たわださんがグゥグゥと鳴ったお腹をさすりつつ、部屋に戻ってきた佐久夜さくやに手をぶんぶん振っている、朝からテンションが高い気はするがそれは私も同じだ。


佐久夜さくや~~!おなかが減ったよ!ほら、もうとっくにご飯の準備できてるんだよ、みんな待ってたんだからね!」


 私も多和田たわださんに乗っかり、早く食堂に行こうとアピールをする。


「……では榊原さかきばらさん――オムラ――いえ、違いますね……朝なのでオムレツを作っていただけますか?」


 凍った笑顔でこう言われた……さすがにそれは用意してなかったよ?だがしかし、いちおう錦家のキッチンメイドという名目で雇われている身だ……合宿の間はさぼっているような状態だった負い目もあるのだ、拒否権はない。


「か……かしこまりました」


 どんなに朝から面倒くさくても、そう言うしかなかった。


……


「そっれにしてもさぁ、十文字じゅうもんじの爺さんの特訓……マジ凄かったよなぁ『剣を振る』それだけのことなんだけどよ?想像を働かせるだけで切れ味や剣速、剣圧が半端なく良くなったぜ?」


 朝食が終わり、リビングでおなかをかきながら達也たつや君が話し始めた。


「だってよぉ『剣は鉄だから重いものだ』とか、ある意味当たり前なことを頭の中で『そんなことはない、軽いはずだ!』って信じたら――それだけで剣が軽く感じるようになるだなんて思わなかったぜ?さすがゲームの世界だって感じたさ、これなら突き詰めていけば、究極何でも出来るんじゃねーのか?楽しみだぜ」


「僕の気が付いたのは……まだ秘密にしておこうかな、山で飛ぶことが出来るモンスターをテイムしてからが本番かなって思ってるから」


「昨日の私のわぁねぇ……うーんとね、佐久夜さくやちゃんが昨日やってた酸化に近いかんじで、分子操作をやってただけだけど、魔法なんてまだ使えないのに、スキルってどういう仕組みで動いてるのかなーー?

今使ってるスキルもある意味で魔法・・・・・・・だと思うんだけどなぁ」


「私は……最高速度で大きなモンスターを倒すことに全力を注いだだけです、ですがやっぱり冒険譚ララバイの中では万能感を感じます」


「そうですね、私はあえて言えばお嬢様に変な虫が近づかないようにした、それだけのことをしただけだと表明します」


みんな昨日のバトルの説明やスキルについて語らっている……あれ?私まだ何にもやってなくね?私の順番になる前に村に着いちゃったからしょうがないんだけどね。


 ……そろそろ時間だ、今日も午後からは合宿の日課というには、あまりにも、あまりにもおかしなメニューである座禅が待ち受けている。


ここ数日、この時間が憂鬱だ。


ノックの音が聞こえると、十文字じゅうもんじさんが満面の笑みで私たちを呼びに来た……。


 ……


 よぉし!今日も苦行を突破して冒険譚ララバイにログインだよ!


 ――あれ?まだ皆|ログインしていないのか、宿の女子部屋には私しかいない、隣の男子部屋からも物音は聞こえない。


 ……とても静かだ、耳を澄ませて周囲の気配を感じようとしてみる。


 そうすると近隣だけでなく、そもそも『ヴァジェッタの村全体』から一切の人間おとが無くなっていることに気が付いた……急いで廊下、そして宿の外に飛び出す、部屋にいるよりは何か周囲の音が聞こえるのではないか?っと期待していたのだが何も聞こえない――。


 ……どういう状況なんだ?これは。


 あまりの静けさに不安を感じ、誰か来ていないかと確認するため部屋へと戻ったが、まだ誰もログインして来てはいない、もう一度階下へと降りてみるが受付のお兄さんの姿もやはり見えなかった、昨日散策したときに屋台で大きな声を上げていた人もいないし、もともと少なかった村の人たちの姿ももちろん見えない。


 なにか違和感がある……?


ふと昨日男の子を保護してもらうために送り届けた孤児院に目を向けてみたのだが。


 ――あれ?孤児院が、無い。


 当然のようにそこに建物があると思ってそちらに目を向けたのに、子供達を養う院長も、その子供達そのものも、さらには皆を雨風から守るための建物孤児院までも、ただ一つ地面に書き残されたメッセージ以外はすべて消えてしまっていた。


*****


親愛なる冒険者諸君


私は放浪人……いや、この名前のない世界を旅する冒険家だ。


私のメッセージを信じるかどうかは君……いや君たち次第だと思ってくれ。


まず気になっているであろうことを説明することにするが、私はGMゲームマスターの一人だ、都合があって名前までは明かすことはできないが……そうだな『リード』とでも呼んでほしい。


そして、この村の住民は例外なく冒険譚ララバイで設定された最悪の盗賊団『タルタロス』のやり方を模倣した集団だ……いや、あるいは盗賊団に属しているのかもしれないが、ある程度まとまった人数となった孤児たちを人身売買することで村を支えてきたようで、ここは人身売買の拠点となっている地域だったようだ。


だが、所詮は真似事のような物だったためなのか、誰もいなくなったように見えた孤児院の跡に、孤児の一人が小さな木片にメッセージを残してていたんだ、『タルタロス』本隊であればそんな痕跡は絶対に見落とすことはないが、幸いにも気が付かずに遺されたようだ。


その痕跡によって、行かなければいけない場所、さらにそこで何をしなければいけないのかを私は理解した、私はそれ対する私の考察を含め、後に来る者にこの文章を託すことにする。


きっとこのメッセージを見つけてくれた冒険者なら理解してくれるだろう。


残されたその板には、たった一つの文が掛かれていた、これは文章というにはあまりにも短いが、きっと冒険譚ララバイに挑む冒険者であれば、理解できると思う。


『Break Bonds』


直訳では絆破壊だ、だが……あとは自分たちで謎を解くと良いだろう。


Dear My Children.


*****


 信用して預けた院長や、子供たちもすべて消えてしまっていたうえに、さらにはその孤児院を抱える村そのものが盗賊団だった?


 ゲームだとはわかっているんだけど、内容が重すぎる……だけどね。


『ふふっ!――』


 おっと、思わず声を出しそうになったよ。


◆  サクヤ、ログイン


合宿の1日の行程を終えた後、次の日の身支度を終えた私はいつものようにログインした。


 タツやエータ、それにツカサ、胸部に無駄なぜい肉を装備した魔女など、皆続々とログインして来た。


 だけどセツナがいない……さっさと済ませて布団にもぐっているのは確認していたのけれど。


 さらに不思議なことに宿の中――だけではなく周囲からも、私たち以外の物音が聞こえてこない……!不意尾に外から笑い声が聞えてきた。


 ――っ!宿の外だ!


 孤児院の方から大きな声がする!5人で宿から飛び出し、孤児院へと急いだ。


「どうなってんだ?」

「分からないですよ」

「すやぁ……。」

「私には把握できておりません」


 など、一部ツッコミたいような馬鹿はいる、その会話が途切れるころには、声が聞こえた場所に到着、つまり昨日男の子を預けた孤児院に到着した……そのつもりだ。


 そこは跡形も無く、瓦礫さえも残すことが無いままに孤児院が消え去っていた、その先では地面を見ながら大きな声を上げるセツナが立っていた。


◆  セツナ、ご乱心


「あっはっはっはっはっは、はぁはぁ……っはっはっはっは――」


気が付くと目の前にはサクヤ達5人がログインして来ていた。


「あれ?サクヤ来たの?ふふふふ……次は私のターンだったよね?」


 そう言いながら、地面に遺された文章を見せながら、仲間たちに説明した。


◆  出陣


 セツナから地面に遺されたメッセージについて説明を受け、急いで魔導都市セントラルに向かうことに決まった。


 ……


 セツナからの説明の中にあった一文


 『Break Bonds』


 これはクランの結成クエストの名前だ、つまりセントラルに向かえば何かが分かるはずだ。

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