第11話ロングソードと第六感

◆  サクヤのターン


 ゴーレム戦を切り抜けた私たちは、その勢いのまま田園地帯を突破した、しばらく歩くと今度は鉱山地帯に差し掛かっていた。


サクヤはわたしたちのなかでは最古参だ、そんな彼女のバトルはまだ私も見たことがなかったので早く見てみたい、魔法のような能力はまだ使えないけど、いろいろと工夫をしながら魔法剣士を目指しているだけあって、剣術系のスキルやアーツをたくさん習得しているようであった。


そのサクヤが戦っているシーンをちゃんと見るのは今回が初めてだから楽しみだ、早く魔物さん出て来てよ!


 ……グゴゴゴゴゴゴゴ!


 そんな願いが届いたのか、早速それ・・は出てきた。

 

今回は後ろからではなく、前方の地中から前回と同じように這い出して来る。


 それは、さきほどと同じようにゴーレムのようなシルエットだ――だが、それはタツ君が戦っていたゴーレムよりも一回り大きく、体組織も土や泥ではなく、鈍い光沢のある物質……というか金属のようで、鉄のようなものだと思う。


……そのアイアンゴーレム(仮称)は翁動作で、まだかぶさっている土を掃い、私たちを見下ろして来た。


「離れてください。」


 サクヤの声に私たちは頷いて、大きく距離をとる、ある程度離れてから再度サクヤの方に目を向けたその時だ。


 ガキーッン!


 その刹那、大きな金属音が聞こえ、何が起きているのかと注視するが土煙が舞っているため良く見えないのだ、大きな金属音の残響が消えるとともに土煙は晴れ、華奢なサクヤが持つ大剣が、ゴーレムの拳の振り下ろしを受け止めている異様な光景が飛び込んで来た。


「やりますわね、やはりゲームはこうでなくっては面白くありませんね……このようなデカブツ対策は足元からと相場は決まっているのですが――っとぉ!」


 サクヤが心底楽しそうにゴーレムを睨みつけているが、タツ君は複雑そうな顔をして観戦している。


 サクヤはゴーレムをあしらうかのようにひらひらと攻撃をかわし、その流れのままに両手に握られている大剣は、何度もゴーレムをとらえている、その度に火花が弾けているのだけど、アイアンゴーレムには全く傷はついていないようだ、このままじゃじり貧じゃないか?……皆がそう考え始めた、その時。


「あ~っ、はっはっはっはっは……本当に硬いですわね……なかなか楽しませていただけますね、それではこれはいかがでしょうか?!」


『エンチャント・グラビティソードォ!』


 サクヤが普通に大剣を上段から振ったかと思ったのだが……へ?


自慢の大剣から手を放している?


 大剣はそのまま……ただ重力に従って落ちていくように思われた、だがそれは普通では考えられないような異常な加速をしてゴーレムの腕に落ちた――異常に加速した剣圧によってアイアンゴーレムの剛健な鉄の腕であろうとも、簡単に両断してみせたのだ。


 片腕を落とされたアイアンゴーレムはしばし考えたようなしぐさを見せ……痛みなど感じないかのように、サクヤに一層のにらみを効かせてくる。


「実験成功ですね、剣を一時的に重くするだけなのですが、速度という力を持った重いものは物理の授業で習ってはいましたが、やっぱりものすごいエネルギーになるようですね」


 重量操作?魔法にしか見えないけど、何だろう?


「『グラビティーソード』っていうのは、剣術スキルを使用して自分の体重ひみつの数十倍の重さのモンスターを倒すことで習得できるスキルです、スキルの効果で剣を重くすることができるようになりました、では……続きと行きましょうか」


 悪魔のような微笑みをゴーレムに向けるサクヤその顔は、ストレスの発散をしているか、タツ君へのアピールをしているのかは良く分からないのだが――とても楽しそうにしていた。


 うん、サクヤ!解説と疑問点の補足ありがとうね!


 タツ君がまた悔しそうに観戦している――そうだよね、自分が倒したモンスターより、もっと強そうな相手に対して|サクヤが華麗な立ち回りをしているのだ、男の子としては格好がつかないという気持ちになるんだろう。


 こればっかりは冒険譚ララバイに時間をかけた期間が少しでも長いサクヤが有利だったし、しょうがないと思うよ?タツ君……。


 ゴーレムは残った腕を振り回して抵抗を続けてはいるのだけど、重心もぶれてしまっていてその威力や速度はともに、先ほどまでのような迫力は無くなっている……全く危なげなくその全てをかわして追撃をかけていくサクヤ。


 いらだちを隠せないように腕を大きく振りかぶった振り下ろしが放たれ、その一撃によって地面はクレーターができたかのように激しくえぐれている……だが、そのようなものはどうでも良いとでも言うかのように一瞥だけした後、サクヤはサイドステップを多用してゴーレムの重心を揺さぶりながら隙を伺っていた。


『エンチャント・エレメント『O』』


 なんだ?それは……『O』ってなんの事だ?


エレメントって言うからには属性の事か?それこそ魔法ではないのか?だがその想像すらもサクヤは上回った振る舞いを見せてくれた。


ガン!ガキーン……ガガガ……ゴシュ!


…ガス!ズパッ!


 サクヤが剣を当てるたびにアイアンゴーレム(仮称)さんは黒のような赤黒いような色に変色をしていく、だんだん脆くなって刃が通るようになっているようにも見える……これはまさか……。


「気が付きましたか?これはごくごく単純な酸化反応です……だいぶ変質できたようですね……では、止めといきましょうか」


『エンチャント・グラビティソード』


 そう唱えた次の瞬間には、アイアンゴーレム(仮称)さんは縦に両断され、光の粒子へ姿を変えていった――錆びて脆くなってしまっていては、いかに金属の体であったとしても耐えられるものではなかったようだ。


 ……さっきの『O』ってのが酸素(Oxygen)のことか!ってようやく理解できたのは、夏休み終了後の科学の授業でしたとさ……。


◆ エータ君のターン?


 鉱山地帯を抜け、歩みを進める――ひたすら順調に、何事もなく進んでいるように感じていた。


 エータ君は山岳エリアにいる鳥系のモンスターを従魔にしたいようだが、今のところ従魔は一匹もいない、なのでいまは素の戦闘能力で戦わなくてはいけないはずだ。


 ちなみにゲーム内にはロール(ジョブ)というシステムはなく、本人が自称したものが呼び名になるような風潮になっている。


 そのなかでも特殊なロールである『テイマー』は弱らせてからテイムスキルを使うような形ではなく、モンスターを『屈服させる』か『信頼』という状態にすることでテイムすることが出来るらしい。


 『仲間になりたそうに……『はい』or『いいえ』』のように倒したら時々仲間になるのではないらしい、まだ魔物使い系のロールで遊んでいるプレイヤーはいないようなのだが……十文字じゅうもんじさんがこっそりと守秘内容を横領おしえてしてくれたのだ、そのおかげでテイムのルールは把握しているのだ。


 ……テイム前のテイマーって、モンスター出てきたらどうやって戦うんだろうね?


魔物使い的なイメージ通りの鞭とかそういうイメージの装備は持ってないし、申し訳程度のナイフしか装備していない……エータ君は大丈夫なのか?


 ――5時間後。


 ……そのまま何時間も歩き続けることになるとは思わなかった……既に目的地への中継地点となる村が、遠目に見え始めているのだ、それなのになぜかエータ君は満足げにしている…なぜだ!


「僕はもう大丈夫ですよ、次の戦闘はマチルダさんにお譲りします……ここまでで聞いていたNPCさん達からの情報で、もしかしたらと思っていたのですが――『イマジネーションハイ』の妄想というか『思い込み』は第六感のようなものにも効果があるのかもしれないと分かりました、それが分かっただけでも今回はもう充分です」


「「「「「はい?」」」」」


 なにを言ってるんだエータ君は?どこかの伝説の鎧を着た星座騎士か?


うーむ、わからない、だけど誰にも教えてくれない

気~~に~~な~~る~~よ~~っ!


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