第二章:Overture
第10話弓とショートソード
うーーーっ!キタッーーー!やっと来たーーー!!
ついに、ついに、ついに!
我々の冒険は本当の意味で……これからなのだよ!
「んじゃぁ、西を目指して進むっってことでいいんだよな」
「えぇ、そうみたいよ」
皆冒険に向けての準備を終えていた……って言ってもゲームだから大荷物を抱えているわけではない、インベントリーとかアイテムボックスとか言われるような、例のシステムが
身支度を終え、いざ出発だ。
「では出発!」
「「「「「おーーーー!」」」」」
いつの間にかリーダーぶっているタツ君、だけどクラン結成後のリーダー予定のサクヤは別に文句はないようだ、いざ行かん!魔導都市セントラル!
……
歩き始めてからしばらくのうちは、特に何事もなく歩みを進めていた、道すがら出会った商人風なNPCの人からは。
「この先にある村でなにかあったみたいだよ、気をつけな。」
っと言われたり、旅人のような風貌のNPCにも。
「なんか知らんが得体のしれない奴らが入ってきたらしい、休むなら村の中じゃなくて手前か通り過ぎた後でキャンプするのがいいぜ」
とかとか……。
「どうやら盗賊みたいだ、なんかタンタンメンとか名乗っていたとか聞いたぞ」
とかとかとか……うまそうだなオイ!
とにかくこの先にある魔導都市セントラルへ向かうための中継地点に位置する村である『ヴァジェッタ』ではイベントフラグがビビビっ!と立っているのは間違いないようなのだ。
……あれ?けどおかしいぞ?開発会社が用意したイベントだったとしたら、盗賊が関わっているようなものであれば、ギルドで『討伐クエスト』みたいなのが発行されていると思うのだが……出発前にはそんな依頼はギルドボードには一枚も張られていなかったのだ。
「どうする?」
私は皆に聞いてみる。
「殲滅」
っとサクヤ
「プチっと」
っとツカサさん
「真っ二つ」
っとタツ君
「なんとかなるかと、セバスさんよりつらいことなんてあるんですか?」
っとエータ君……この一言に全員が深く――とても深く頷く、そうだねせっかくだからこれをイベントと割り切ってみるか?そう考えた時、また声が聞こてきた。
「
……っと、そうっと呟いたサクヤの声に皆、謎のやる気を燃やしている……ともかく待っているがいい!次の村のタンタンメン……って、ほんとかよ!
……
――そこからの道中。
ゴブリンやスライム、オークにホーンラビット、タイニーボアといったファンタジーでは定番なモンスターを狩ったりしていた。
だけどなんか物足りないんだよね、手ごたえがなさすぎるんだよねぇ……。
「刺激が足りない」
サクヤがボソっとそう言っていたが、それは確かに他の皆も感じていることだったみたいだ、そんな流れもあって今度からで出てきた敵は順番にソロで戦って少しでも楽しめるようにすることになった
じゃんけんで決まったその順番は、と言うと。
一番、ツカサさん
二番、タツ君
三番、サクヤ
四番、エータ君
五番、マチルダ
六番、私ことセツナ
いやぁみんな脳筋に育ったものだよね……だけど、まだ修行の成果を誰一人として出せていないのだ。
少しは試してみたいという気持ちは理解できる、そうしてその後の道中、戦うことになったモンスター達は獲物に飢えた私たちにとっては
◆ ツカサさんのターン
歩みを進めていると草原地帯へ突入した、その中に大小様々なモンスターが潜んでいるようだ、合計50匹を超えるかというホーンラビットやレッサーボア、あと……なんか色がキラキラした別種が居るみたいである、ちなみにレッサーボアはタイニーよりは強く、大きい種類だったみたいだ。
それらのモンスターは、私たち――というよりは、獲物を見つけてうれしそうに前に立ちはだかったツカサさんに気がつき、突撃してくる……それに対し、素早く移動しながら瞬く間にモンスター達の額に矢を当てる、当てる、当てる……。
しばらくすると群れだった集団はキラキラとした光を放つクリスタルラビットを残し、すでにごくわずかを残し、魔石へと姿を変えてしまっていた。
だが、周りのモンスターが殲滅されたことに動じる様子は無いかのような振る舞いで、クリスタルラビットはツカサさんに集中にする……上位種のプライドなのか、ツカサさんを相手にしていても『引く』様子はないみたいだ――しばらく向かい合った後、ツカサさんは矢を何本か取り構える……ん?複数一気に構えた……?どんなラノベだよ!
そんな心のツッコミの
「ブラストボウ…!」
静かながら力強い声が聞こえたと思ったその時には、すでにツカサさんの手元には矢はない、相対するクリスタルラビットに目を向けるとすでに喉笛に矢が刺さり、モンスター絶命する合図である光の粒子が発生し、ツカサさんの勝利を告げていた……その場には魔石とともにとても綺麗な角が遺されていた。
「ツカサ!よくやったわ!」
「はっ、もったいないお言葉でございます」
先ほどまであんなにすごい動きをしていたのにもう平常運転、だけどバトル中はロールプレイングをだいぶ楽しんでるみたいだし、メイドの振る舞いが素のツカサさんなのかもしれない。
私を含めた若干二名は、キラキラのやつじゃ高く売れそうだなぁ――とか、関係ないことも考えていたのは秘密なのである
◆ タツ君のターン
草原地帯を突破し、
懐かしい雰囲気な農園のような風景で、どこか田舎に来たような錯覚を起こしてしまう、草原を抜けてからまだ時間もさほどたっていない、さすがにまだ何も起きないだろうと思っていた……そんな私は『フラグ一級建築士』だと自負している。
そのため、当然のようにフラグを回収することになってしまった。
……背後から物音がする、ぼこぼこ――と、振り返ると私たちが通り過ぎたすぐ後ろに、地面から盛り上がってくるかのようにあいつが出現したのだ。
体長は3メートルはあるだろうか、こいつは岩石の硬いタイプというよりは、土・粘土系のどろどろタイプのようだ、あんなの汚れるから私は絶対に戦うのはお断りだね、男子担当の順番でよかったと思ったよ、ほんと、まじ、リアルガチ。
「おっしゃぁ!いっちょやってみっか!」
気合十分!荒い動きだが鈍重な動きをしているゴーレムに的を絞らせず、全身に刃を通していくタツ君!ゴーレムは依然としてタツ君の動きをとらえることができず、守勢に回っている、だが――如何せん得物はショートソードであり、深くまでは刃が通らないのだ、そのためゴーレムは全身傷がついているようには見えるけど一向に衰える気配は見せない、ゴーレムの攻撃を避けるのは訳なないのだが、動くスピードには衰えは見られない……基本的に腕を豪快に振り回すだけの攻撃しかしてこない相手なのだが、それでも攻撃を食らったら相当ダメージを受けそうな気がするような圧を感じる。
タツ君はどうやって戦ったらいいのだろうか……だってまだ魔法も使えないし、範囲攻撃のようなものは(たぶん)誰も使えないんだぞ?致命的なダメージを与える手段はなさそうに感じた、下手したら逃げたほうがいいかもしれない。
「はぁ……はぁ……、おっし、あれやってみるか」
ん?気合を入れなおしたね
「はぁ……『ボラタイルソード」……!」
お!いいね中二感あふれるネーミングだねそれ!
そんな掛け声はあったんだけど、その手に握られている
さっきまでと同じ?だがタツ君は気にせず切り刻み続けている……?
心なしか刀痕が大きくなってきているような気がする?いや気のせいではないみたいだ、明らかに深い傷跡が増えてきた。
タツ君が握っているショートソードそのものは何も変わっていないんだけど――その剣先は魔力のような物に包まれて伸びているように見えるのだ。
そのまま連撃を止めずにさらに攻め立てていくタツ君、その剣はいつの間にかショート-ソードと呼ぶには憚られるような……いや、ショートソードであること自体はそのまんまなんだけど、纏った輝きはロングソードを遥かに超えるかのような大きさになってきたのだ。
その後もしばらく攻防(ほぼタツ君の一方的な攻撃ではあったのだが)は続いていたが
、狙いすましたのであろう一撃が入り、頭を落とすことに成功すると、その巨体はほのかな光の粒子に包まれて消滅していった。
その跡には石のようなものが遺っていた、
小さいほうにはアルファベットの『E』
大きなほうには『METH』
なんとド定番の設定だよ!――ゴーレムと言えば土をこねて『EMETH』つまり『真理』という文字を書いた紙を額に張って作るというけど、このゴーレムはコアのような石にそれが書かれていたようだ。
そしてなんで崩れたかというと『E』の部分が欠けると『METH』という単語になりそれは『死んだ』という意味になってしまい崩壊する……いろんな物語で使われることのある、よくある言い伝えなのであった。
タツ君はこともなげに
「なんか切ってたら見たことがあった単語が見えたからな、そこを狙って切ってみた、そんだけだぜ」
とか言っていたよ――タツ君、ガンガン剣を振り回してただけなように見せて、そんなクレバーなことができる人だったんだね……恐ろしい子!ちょっと見直した ただの脳筋から新しい呼び方を考えておいてあげよう。
というかなんで足場が細いうえに周りは田んぼって動きにくい立地でタツ君は素早く動けたんだろうね?今度聞いてみよう。
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