第7話学生の本分

 キーンコーンカーンコーン……


 1学期全工程の終了を告げるチャイムが鳴り響き、担任によって夏休み中の学園での注意事項など、もろもろの説明がなされていた。


「それではみんな!夏休みの間、部活に旅行、お祭りとか、いといろと刺激的なことはたくさんあるけど、犯罪だけはダメよ?それ以外なら多少の悪いことは思い出になるからね、部活ばっかりしていたら、寂しい青春になっちゃうかもよ?それでは一学期は終了だ!また2学期に元気に会おうじゃないか!」


「「「「「先生がそれでいいのか」」」」」


 クラスメイトの心が2年生になり、クラス替えをしてから、ようやく……初めて一つになった激震の瞬間!


そんな私たちの担任は、椎名しいな由利子ゆりこだ、今も私たちの反応を見てニマニマと笑っている、この人も冒険譚ララバイで遊んでいるともっぱらの噂だ――。


まぁ、ゲーム内ではまだ一度も会ったことはないんだけどね……けど学生は初期ロットに当選しやすいって聞いていたけど先生はどうやって冒険譚ララバイを手に入れたんだろう?単純に運がいいのかな――。


 ざわざわ……ざわざわ……。


放課後、部活に行く生徒、夏休みに思いを馳せてワクワクしている生徒、宿題の多さに打ちのめされている私――いつもの放課後よりもにぎやかな感じがした。


「あー、やっとおわったなー俺らの担任さぁ、まぁ知ってはいたけど、めちゃくちゃゆるっゆるだよな?」


「うん、そうだよねぇ、だいぶおおざ……、じゃなくてフリーダムな人だよね、でも堅苦しくない分話しかけやすいよね」


 瀬戸せと君と足立あだち君とで男子トークをしている。(そんな言葉があるのか?)


 ……


 ようやく迎える夏休み!以前から予定を立てていた夏合宿は明日からだ!


佐久夜さくやからの提案で13泊14日錦家御用達の全国に沢山あるうちの、避暑用ビーチリゾートを利用する、世界で一番豪華な別荘合宿なのだ!


 ワクワクしないほうがおかしいでしょ!?


 先日は早乙女さおとめさんがこっそり水着を買っているのを近所のショッピングモールで発見した、さらに十文字じゅうもんじさんまでもが、何故かサングラスを買って、ポーズを決めていた。


 ちなみににしきさんのお父さんが付いて来たがっていたらしいけど、佐久夜さくやが断固拒否をしていたみたいだ、子供には頭が上がらないのかな


◆ 瀬戸せと君視点


「くあぁ~~!めっちゃくちゃ楽しみだよな~~!瑛大えいたは水着、ちゃんと買ったか?」


「いや、お金ないから学校のだよ」


「なんだよ、お前も榊原さかきばらと一緒ににしきんとこでバイト始めたんだろ?それなら買えんじゃねーのか?」


「いやいや、まだ初任給もらってないからね」



 そう、足立あだち君はいつのまにか佐久夜さくやに誘われて、私と同じくにしき家の使用人のアルバイトをすることになっていた、そういえば……このあいだも言ってた気がするな、持ち場が全然違うから同じ職場でも遭遇することがなかったから、忘れてた……。


 私は『キッチンメイド』と、佐久夜さくやのお話相手として『レディースメイド』として、普通はあり得ないのだが、メイド業の兼任をしているということとなっている、普通は兼業しないのだが、佐久夜さくや御用達だから押し通したらしい。

※キッチンメイドはその名の通り、料理に関わるが、基本はコック長やコックさんを手伝う下働き

※レディースメイドはお嬢様のお世話(私はもちろん佐久夜さくや担当だよ)


 足立君は『チェインバーメイド』ということになっているが、なにやら佐久夜さくやのお父さんに直接仕えているらしい……その近さを利用して佐久夜さくやの近況を根掘り葉掘り聞かれているようだ、気を利かせて瀬戸せと君については、うまくはぐらかしているようだった。


 娘の情報収集には余念がないですねぇ、おじさん?

※チェインバーメイドは寝室整備など設備管理が主なお仕事である


刹那せつなは水着買った?」


 多和田たわださんが不意に聞いてきた。


「う~ん、お金を節約したいし、学校の(スク水)でもいいかなって……ね」


「「そんなのだめです!」」


 あれ?佐久夜さくやはともかく多和田たわださんも参戦ですか?


「「榊原さかきばらさん(刹那せつな)は何を考えているんですか」」


「私の使用人がそんな恰好じゃはずかしいです」


「「夏合宿&海という属性満載なイベントで、そん恰好はありえません!」」


 むぐぐ……なぜフルネーム呼びでハモるのだ?この2人は……。


多和田たわださん、行きましょう」


 私は、「あ~れ~~~ぇ……」とでも言うかのような姿で、ずるずると2人に引きずられていった……その後姿を継哀れんだ目で男子2匹が眺めていたそうな。


 ……


 そのまま連れてこられたのは、近所の商店街などではなかった、そのような場所ではしたものはないという勢いがあった。


……というか、庶民のお店はお嬢様が許さないようだ、普段では一人では入らないような日本橋にありそうなデパートとかそういう格式高い売り場にドナドナされていきました


「わぁ!これ、すごく可愛い」


佐久夜さくやさん!これなんて悩殺ですよ!」


 とか、私をそっちのけにしてキャピキャピと面白そうに水着を選んでいる……楽しそうなのはいいんだけど、出費がなぁ――。


「え?何を言ってるの?ここはウチが経営している系列店だから、お金はいらないよ?」


 ふぁ!?いやいやそんなわけにはいかないだろう。


「悪いよ、やっぱり学校の水着でいいよ?」


「「だめです!」」


 ……だからなんで2人はハモるのさ!


修行というか十文字じゅうもんじさんの勉強会がはじまってから2週間弱……だけど、既にかなり息があってきていうような感じだよ?この2人。



 いつのまにか、私の水着が購入されていた、有無を言わさずに着せ替え人形にされていたのもあるのだが……それ以前に、なぜかスリーサイズまでもが把握されていたようなのだ……WHY!NISHIKIピーポー!


 そんな帰路、2人とも、やたらと満足げに自分の水着の入った袋を抱えているその姿を見ると、これ以上無理に拒否をしなかったのは、正解だったのかな?っと思えてきた。


 さてさてそれでは、美少女と微女、爆女の3人の水着はというと……。


佐久夜さくや→赤いワンピース

私→ピンク主体のパレオ付きビキニ

多和田たわださん→黒ビキニ


 いやぁ……多和田たわださん大人っぽいの選んだなぁ。


 私のは当日までのお楽しみだよ。


 ……


「お嬢様、皆様全員お揃いになったようです」


 ペコリとあいさつしているお仕事モードの早乙女さおとめさんは、とてもかっこいい……かっこいいのだが――。


その傍に置いている荷物には、バナナボートやビーチボールなど遊具の山である、すでに膨らんだ状態なのが残念なのである。


 ……


 朝7時、ラジオ体操が終わった後、その直後くらいな早い時間に集合することになっていた。


もちろん、全員テンションはMAXになっている、だが朝早く集合ということは、遅刻も付き物なのである。


 集合時間からしばらく経過したのち、ようやく揃ったメンバー、その目の前にリムジンが颯爽と登場した……そして、早く乗るように促された仲間たちは、だたひたすらに住む世界の違いを感じ、顔を引きつらせていた……とにかく出発なのだ!


◆ 錦家避暑ビーチ


 ――ザバーン――ザバーン……


 青い海、白い砂浜、南国風な木に隠れてはいるが風通しのよさそうなリゾートがそこにある。


『それ』は別荘からわずか徒歩30秒、だがしかし――佐久夜さくやから、合宿の予定が発表された瞬間には全員のテンションは地に落ちていた。


 ……いや?


ある意味それはそれで楽なのかもしれない……つまり、宿題を協力して消化するということだ!なんだかんだ夏休み中にやっておかなくてはいけないことだ、仕方がないな。


 そう

 そうなのだ

 そうなのである


「宿題が終わるまで、冒険譚ララバイ以外はお預けです」


 天真爛漫で、普段であれば、むしろ自分から颯爽と遊びに行くのであろう佐久夜さくやがと想定していた佐久夜さくやから出たまさかの一言は本当に、衝撃的なのであった……。


 ……


『きゃっきゃきゃっきゃ♪』


『うふふふふふ』


『やったな~~」


 翌々日……私たちは、宿題?なにそれ?といった勢いでビーチ、つまりこの最高のリゾートを堪能している。


 堪能しているつもりではあったのだが、私は……なぜか焼きそばを作っていた、もともと料理は好きだし、毎週のように佐久夜さくやにオムライスを作っていた、もちろん料理を作るってあげるのは、全く問題ないのであるが――ここはビーチだよ?普通の料理でいいの?


 焼けるような砂浜、その真っ只中にある屋台では、地獄のような環境で鉄板と焼きベラとで熱いバトルを繰り広げている……!


 ビーチといえば、ほぼ具無しラーメン、フランクフルト、かき氷や申し訳程度にしか具の無いカレーライスのようなジャンクフードと、数多くの定番があるのだが……今回はそのなかでも人気ナンバー1と名高い定番を、みんなに振舞うことにしていた。


 ひそかに料理長にお願いをして、錦邸で練習をさせてもらっていたのさ、我が焼きベラは疾風を纏い、タレをかきまぜつつ麺を躍らせていく!その間は十文字じゅうもんじさんには毒見をしてもらっていたのだけれども、佐久夜さくやにはまだ食べさせていないのだ……だって本番で楽しんでもらいたいじゃないか。


「皆~~できたよ、『シンフォニア』に集まってー!」


 海の家『出張シンフォニア』……定番の畳敷きな広々としたスペースには、ちゃぶ台を並べた情緒のある光景が広がる。


料理担当の私と、すこしお手伝いをしてくれた早乙女さおとめさんが、配膳を進めていく、――それは青海苔をたっぷりと効かせ、鰹節の踊る、至高の焼きそばだ!


「「「「「「「頂きます!」」」」」」」


 さぁ皆無言で……すすり始めたぁ!


 おおっとぉぉぉ?


さっそく足立あだち君がおかわりを要求だぁぁぁ!?


 佐久夜さくやさん!……は歯に青海苔がくっついていういるようなので楊枝をどうぞ!


と促すと、そそくさと洗面所でお口の確認に――だけど、戻ってみるとまだ口の周りにすこしだけ……w


 気合を入れすぎ、なぜか7人前でいいところを遥かに多い20人前くらい作ってしまったつもりだったのだが、瀬戸せと君と十文字じゅうもんじさんがペロリと完食してくれた、すごい食べるんだなと感心しつつ、こんなにも沢山、美味しそうな顔で食べてくれたとこに関しては、言葉にならない嬉しさを感じた。


 ……


 我々の前には鬼畜な椎名しいな先生から出された宿題の山、山、山!


 宿題は成績(内申)に対しては法的には影響力がないということを証明されたのだが、なぜかこの先生は未だに多いタイプの先生だった……授業中面と向かって教えるのがめんどくさいという理由らしい……のだが、我々の目の前にぶら下がっているリゾートという名のニンジンは超最高級なのだ、宿題など速攻で終わらせようぞ。


 そんなこんなで私たちは、過去に例がないくらいのチームワークで宿題をこなしていく――宿題の山をさばき続け残り僅かとなったその時には、すでに初日(23日)ではなく、2日目の朝10時頃となってしまっていた……、そこから数時間、遂に宿題を完遂したのだ……だが、そのまま皆は冒険譚ララバイにログインすることすらも忘れ、夜まで寝てしまっていた……なんのための冒険譚ララバイ合宿なのだろう?


 その昼寝せいで今日もまともに夜に寝ることができず……冒険譚ララバイは2日連続でお預けとなってしまったのだ……が、溜まりに溜まった欲求は3日目に思いっきり遊べたし、残りの夏休み(まだ7月だよ!)は宿題を気にしないで過ごせるようになったということもあったのでみんなスッキリとした表情だったんだよね。


 ――次の日からの試練は、宿題よりも恐ろしい物になるだなんて、誰も知る由はなかったのだ。


少し日焼けをしたサングラスの奥の瞳はニヤリと笑っていた。


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