第5話教育が必要ですね

 よぉぉし! 今日は新加入メンバーのお披露目と特訓だね!


 待ち合わせの時間になって、『シンフォニア』店内には私を含めてとセバスさん、そしてツカサさんが紅茶をすすりながら皆を待っていた。


 しばらくすると新メンバーの3人は、恐る恐るといった様子で店内に入って来た、皆はどんなハンドルネームにしたのかな?


 瀬戸せと君は『タツ』無難に下の名前だね。


 足立あだち君は『エータ』こちらもそのまんまだね、この2人は安定の初期装備のようである


 多和田たわださんは?……『マチルダ』!おっとぉぉぉお?


突然変化球な名前が来た!しかも装備が魔女っ娘風だよ?もしかして誘う前からゲームしていたのかな?


「マチルダ……さん?その恰好はどうしたの?」


 なんとなく『マチルダ』って呼ぶのが恥ずかしいな、セバスさんといい勝負なのだが、そのうち慣れるかな?


「自作です!皆さんが|ログインしてくる前に早寝しまして、実はあのあとの授業中にも……キャラメイクした後は魔女っ娘ロールに徹しようと思って、ネットの情報を元にして生産ギルドで作っちゃいました!」


 練れば練るほど美味くなりそうな食玩装備を練っていそうなその装い、似合うなぁ……授業中というのは聞かなかったことにしよう。


 とにかく、たしかになり切りプレイはロールプレイングの醍醐味だしね!やる気満点だね。


 タツ君は着いてからしばらくは紅茶をすすっていたが、さっきからは周囲をキョロキョロと見まわしている、ツカサさんに何かを聞いたりもしているようだ、エータ君は……ポツンと座ってセバスさんからサービスされた紅茶をお代わりまで貰って楽しんでいるようであった。


 ちなみにこのゲームは、睡眠時にプレイするからという理由で、ゲームハードはフルダイブ型としては珍しくヘッドマウントディスプレイ型ではなく、簡単な腕輪だ、腕輪は地味におしゃれな出来なので普段からつけている人もいるくらいだし、町中を歩いていたら同族はすぐ見つかる程だ――巷にはデコっている人もいるとかなんとか……だけどまだ若い人しか身に着けている人はいないみたいだ。


 クラスメイトではつけている人は見かけなかったけど、夏休み中に始める人もいるかもしれない……。


 そんなこんなでゲーム時間1日(リアル1時間)を『シンフォニア』で過ごしていたのだが――佐久夜さくやは一向にログインして来なかった。


 ツカサさんに聞いてもログインして来ない理由は分からないそうだ、マチルダ&タツ君&エータ君は冒険に行きたそうな目で起き上がりこちらを見つめているし――仕方がないな、佐久夜さくやのことは、今日は置いて行くしかないか。


「サクヤは来れなさそうだし、ツカサさん行っちゃいますか?」


 そう聞くと、タツ君は残念そうな顔をしている、だけどみんなが待っているのだ?遅刻は遅刻、ずっと待っていても埒が明かないのだ。


ツカサさんも今回は五人で行くことに賛成のようで、とうとう出発することにあった。


若干ソワソワしているようにも見える、やっぱりパーティメンバーが増えるワクワクは止められないよね。


「セバスさん、サクヤが来たら荒らしをしているって伝えてもらえますか?」


「「「荒らし?」」」


 新人君達がハモった……まぁ、それはそうか。


それで私はこの冒険譚ララバイの中での『経験』について、考察とLVの概念についてを簡潔に説明した。


 簡単に説明をしただけ、それだけだ……それだけのつもりだったんだよ?なのに変なリアクションが来る……。


 私のステータス値を少しだけだけど、ぽろっと漏らしたのがいけないかったのかもしれない。


『LV1ですが最強です』みたいなラノベではないつもりだったのだが、反応は酷いものだ。


「「「大魔王かよ」」」


 皆仲がよろしいことで……いやいやそもそも、これは余のメラだ!だなんて言ったことないんだけどねぇ……というか魔法全般は昨日アンロックされたばっかりじゃないか、メラなんて使えないよ?


「魔法だ……!!!もうあったんですか?噂ではまだ実装されていないものなのかと!」


 あれ?声に出ていたのか?メラのくだりは、心の声のつもりだったのだが……。


 マチルダはものすごく目を輝かせている……!ゲームと謳うからには剣と魔法の世界というお約束が期待されてはいたのだけれど、サービス開始から十日間ほどの間は、LVが上がっても身体能力が多少向上する程度で、魔法については昨日までは欠片も情報がなかったのだ。


そのような状況だった魔法に関するシステムを、昨日起床ログアウトする直前に解放アンロックしたのだった。


なので、まだインターネット上でも情報は広まってはいない状態なのだった。


 マチルダさんにとにかく何か説明しなくてはいけないと思った……だけどいい答えが見えないままに、あわてて話してしまう。


「え~~とね……昨日私が条件をクリアして、魔法をアンロック解放しちゃいました」


 目の前には唖然としたマチルダさんの顔。


……テヘペロ♪


タツ君とエータ君は話についてこれていない……なんの話をしているのか?という反応をしているようだったが、それは今は無視だ、

そう考えているとマチルダが呟いた。


「刹那の魔王」


 ……?


なにか変な単語が聞こえたような気がするぞ?


「セツナさんが刹那の魔王さんだったんですね!」


 いやいやいや?何なのだ、それは?そんな厨二なネーミングを自称したことはない、とにかくその名前の由来を問うことにする。


「な……なんですか、それは?」


 本当に知らないのだが?


「匿名掲示板Rチャンネルの冒険譚ララバイ用ページで話題になっていますよ、ギルドの仕事を一瞬で受注して完遂し、NPCへの報告までを含めて全てを一瞬で終わらせる謎の美少女プレイヤー……そのプレイヤーはあらゆるクエストを独占してしまった為、その影響で他のプレイヤーがクエストを受注することができないから、金策もできずに困っているらしいの、巡り巡って……あれはもう新手のモンスターと言うことでいいだろう

?いや……実は大魔王の回し者なのではないか?っと、こんな調子ですっごい噂ですよ」


 マチルダがもろもろ説明してくれた――なんてこったい。


 大魔王フラグ回収完了、いやぁ……フラグを撒いたのは、まだ昨日なんだけどね……だけど、そんな中でも謎なのは……『美少女』という単語だ、でもそれであれば私ではないはずだ!


きっと、たぶん、メイビー。


 ――いつまでもマチルダが魔王だ魔王だと、ひたすらに五月蠅いのでお仕置きをしておきます。


ほっぺをむぎゅぅぅぅの刑です。


 ……


 その後は新人三人をしごいた、えぇしごきましたとも……。


人を魔王かの様に呼ぶ人たちには、厳しいお仕置きが必要なのだ。


夢の中なのに気絶しそうな顔をするくらいにはしごき倒してあげたのだ……やったことと言えば、タツ君が白目をむくくらいに大量に、お使いクエストをひたすら回していただけなのだけどね。


 …


 そんなしごきのせいで、また変な噂が増殖していただなんて知りませんでしたとも……、知るわけないじゃないですか。


「ゆ゛ゆるじてぇ」


 マチルダが音を上げたところで、ようやく現実時間の朝を迎えた――だが、最後まで佐久夜さくやはログインして来ることはかった。


……


 翌日、学校に向かう車中のこと……いつの間にやら新しく使用人としてアルバイトをすることになっていた足立あだち君と佐久夜さくやとともに、何を話すでもなく無言で座っていた……佐久夜さくやは目の周りにクマができていたようであった。


 ……


 ――そして昼休み


「みんな、ごめんなさい」


 昼休みとなり全員を呼び出した直後、開口一番佐久夜さくやは謝ってきた、確かに昨日ログインして来なかったのだけど、どうしたんだろう?


……とりあえず代表として聞いておくとする。


「昨日はなにかあったの?」


 その問いに、佐久夜さくやはもじもじとしつつ、下を向いて少し顔が赤くなっている……熱か?っと心配をしようと声をかけようとしたその時だ。


「みんなで遊べるのが楽しみで寝付けませんでした」


 ……ぐっはぁぁ、あざとい、これは破壊力がある!佐久夜さくやは先程よりも顔を赤くしている。


「大丈夫だよ、俺たちはこれから毎日一緒だよな?」


 なんだ?なんだ?この歯の浮くようなセリフは――あぁ……やっぱり瀬戸せと君か……佐久夜さくやに対する態度は、分かりやす過ぎるね。


「五月蠅いわね、当たり前でしょ」


 っと返すのが精一杯な佐久夜さくや瀬戸せと君の前ではツン属性を顕現するらしい。


「とにかく、私たちの冒険はこれからだ!ってことね」


 多和田たわださんが何やらそれっぽい事を言い放つ。


「「「「それ打ち切りフラグ!」」」」


 …


うーん、まだパーティは全員では組んではいないのに素晴らしい連携だよね――と私は一人うんうんと頷いていた


 ……


「さぁ!行っくよぉぉお!」


 店内に元気な声が響き渡る、金髪で小柄な少女は待ちきれないという様子のようであった。


 カウンターに立つ白髪の老人は、手をひらひらと振って送り出す。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


 これこそ執事!とでも言うかようなテンプレ的なセリフに、思わずクスリとしてしまった。


「昨日はログイン睡眠できなかったもんな、今日はちゃーんと6人そろったな」


 剣と盾を背負った男がニヤリとして金髪な少女に言い放つと恥ずかしそうにむくれている、これは尊い。


「まぁまぁ、楽しみにしていて寝れなかったんでしょう?今日からは頑張ろうね」


 どこからどうみても魔女っ娘スタイルなその女子は、フォローとも追撃ともいえるような言い方で笑っていた。


 私はというと……その光景を微笑ましく眺めつつも、隣で同じように彼女たちを眺めている男子と共に苦笑いをしていたのだった。


 そのまましばらくは賑やかなやり取りをしていたが、メイド服を着た私たちよりすこし年上でお姉さんチックな女性が場をまとめるように声をかける。


「ではお嬢様とそのおまけ達、クラン設立クエストに出発しましょう」

「おーーーーっ!」


「ちょ」

「ま」

「おまけですか」

「・・・。」


 その声を合図にして六人は颯爽と草原に駆け出した。


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