第2話なんちゃって使用人

――キーンコーンカーンコーン


「では、これで4時限目は終わりにする……起立、礼!」


 午前の授業が終わり昼休みになった、席を立つ音や授業が終わったからといって今頃起きだす人もいる、弁当を持っていない生徒たちは購買か学食に向かいはじめたようだ、私はおにぎりを食べようと机の上で準備を始めようとしたとしていた、そこに金髪美少女が現れた。


榊原さかきばらさん?いま少しお時間よろしいでしょうか。」


 クラスメイトのにしきさんが声をかけてきた――あぁ、言い忘れていたかもしれないが、私は榊原さかきばら刹那せつな、花の女子高生である。


 2年生になってクラスが一緒になってからも、特に話したことはない彼女、そんな彼女についてはお金持ちのご令嬢で、学園の理事長の姪っ子ということしか知らないのだが、どんな用事だろう?私は目の前のおにぎりを食べたいのだが……でも無視すると、問題が起きそうな予感しかしないし、無難に聞いておくかな。


「なんですか?」

「あなたにアルバイトをご紹介したいのですが」


 むむ!大抵の要件だったら適当に聞き流していたかもしれないところだったのだが、アルバイトのお誘いなら興味がある、咄嗟に彼女の方に体ごと向き直した。


「どんなアルバイトですか?」

「と言っても、これは普通のアルバイトとは少し違います、そうですね一般的な職業で一番近いイメージは……家政婦でしょうか。」


 っというのだ、どういうことだ?だが今の私はお金に困った女子高生なのである、うまい話があればとりあえず聞いてみることにしているのだ。


「詳しくお願いします!」


思わずにしきさんの手をつかんでいた私に彼女は若干驚いているようだが、そのまま話を続けてくれた。


「放課後、我が家まで来ていただけますか?もちろん足の用意は致します」


今日はアルバイトの予定を入れてはいなかった、――最近は冒険譚ララバイで稼いでいるおかげで余裕もあり、アルバイトの頻度を減らしていたのだ、今日もそのおかげ副収入でフリーなのである。


だけど、家政婦とはどういう仕事だろう?だけど大富豪のにしきさんからの話だ、割のいいアルバイトなのかもしれないので聞いてみようと思う。


「いいですよ?お家はどこでしょうか」


「移動は気にしないでください、放課後に爺やが車で迎えに来るので車で、ご一緒いたしましょう」


 爺や……だと?!


そんなものが実在したのか?!


というか『足』というのは車のことだったのか、庶民的な女子高生はそんな言い回しはしない、素で分かっていなかったよ。


「わかりました、ではまたあとで」


 心の中で「ノシ」と手を振って別れる――具体的にはどんなアルバイトだろう?なんで私なのだろう?極寒の海でカニ漁船に詰め込まれるのではなさそうだが、家政婦……か、ドアの隙間から悪さをするご主人様を追い詰める名推理をするおばちゃんの姿しかイメージ

できない。


あと、アルバイトは置いておいて……『爺や』ってやつは、いわゆるイメージ通りの素敵なおじいさん的な人なんだろうか?いろいろな疑問はあるがそれは放課後にならないとわからないのだ。


 考えても仕方がない、机の上に放置したままになっていたおにぎりの包みを開けて、かぶりつく、やっぱりおにぎりは最強だ。


 ……


 ――放課後

 

「セバスチャン!」


 思わず叫んでしまっていた――目の前に現れたお爺さんは先ほどまで想像していた姿、そのまんまであった、思わず叫んでしまうほどのセバス感なおじい様だったのだ。


「私、十文字じゅうもんじ花月かげつと申します、錦家の執事長を仰せつかっております」


 そこに錦さんが続ける。


「まぁ、セバスって言いたくなるのもわかるわね、いろんなところで言われてるし」


 にしきさん、ナイスフォローだよ!


 それを気にすることもないかのように、十文字じゅうもんじさんは車まで誘導を始める。


「お嬢様、遅くなるのもなんですので行きましょうか」


 と言って、華麗に私ごときをエスコートしてくれるセバスチャンさん。


とにかくこの人に誘導されるまま、黒塗りのとても高そうな車に乗せられてドナドナされていく私、本当マジに売られるんじゃないの?これ……。


 ……


 走ること数十分、見えてきたそれは……城だ……!


 うぉぉおお!城だぁ!!


 ドイツのノイシュヴァンシュタイン城を訪仏とさせるその光景――、あれ?私場違いじゃない?……門を潜ってからさらに数分車が走ったあと、ようやく到着したようだ……車が止まると同時に十文字じゅうもんじさんにエスコートされて降車する、そしてにしきさんは目の前に並ぶメイドさんたちに呼びかけた。


つかさは居る?」


 錦さんの呼びかけにキリっと反応するおそらくつかさという人、その人は少し背が高く、姿勢も綺麗なお姉さん。


「はっ、こちらでございます。」


「こちらは――榊原さかきばら刹那せつなさん、例のクラスメイトです、丁重に応接室にお通ししてね」


「はっ、ではこちらにどうぞ」


 ビシ!っとした姿勢、態度、発声で受け答えするメイドさんはとってもかっこいい、秋葉原のまがい物とは違うよね――応接室に通されるとすぐに錦さんが入ってきた。


「突然ごめんなさいね、さっそくだけどあなたにはここで住み込みのアルバイト、いわゆる使用人になってもらいたいの」


「ふぁ?」


 おっといけない……思わず変な声が出ていた、だけどなんで私なのだろう?頭が混乱でスパークしそうだ。


榊原さかきばらさん、冒険譚ララバイをプレイしていますよね?そこで個人依頼でギルドにクエストを出したことがあったのですが、そのクエストは『美味しい料理が食べたい』っというものでした」


 ――そのクエストには心当たりがある、クエスト回しの合間に、珍しくお料理納品クエストがギルドボードに張り付けてあったから、暇つぶしに受けることにしたのだ。


 偶然グレイターコッコさんという大きな鶏の卵と、オーバーグロウトマッタというお化けみたいに大きなトマトの採集クエストを受け、その納品直後だったのだ、そこにタイミングよく依頼の出ていた料理納品クエストで使えそうだったから、それらを使って調理したクエストがあったからそれのことかな?


「それで、どうして使用人になるんですか?」


 うん、まじでわからない――話がつながらない……だがそれに対する答えは至極単純明快だった。


「美味しかった、毎日食べたい」


 わかりやすいな!おい、餌付けしちゃったかなぁ……そこに執事さんが口を挟んで来た。


「さすがに毎日同じものを……というわけにはいきませんが、時々作っては頂けませんか?それと、お嬢様には同年代のお友達がいらっしゃらないので、仲良くして頂きたいのです」


「ちょっとセバ――十文字じゅうもんじ!それは言わないでって言ったじゃないの」


 お顔真っ赤になっている、これは尊い……これは愛でたい、ナデナデしたい!


「それでは、使用人の採用条件はこちらになります」


 そう言いながら契約書を執事さんから受け取る、ざっくりと読んでいき重要な点をピックアップした。


・錦家住み込みとなり、使用人の個室に住む

・衣食住完備

・1日8000円


 すごいなこれは……だってこれだと家賃払わなくて良い、さらに食事付きでお給料も出る。


そうですか――そして最後に特筆事項として契約書の最後に書かれていた内容があった、かみ砕いて読むと……冒険譚ララバイにしきさんと一緒に遊ぶ。


 ツンデレですらなく、最初からデレまくってますね、――おや?それだけではない空気を感じる。


 ただ、私もそろそろクエスト以外のことをしようと思っていたのでこれに関しても全然問題ではない――というか好条件すぎて怖いが断って怒らせて……東京湾に沈むのも嫌なので断る理由はないのである。


「よろしくお願いします」


 そういって軽く会釈すると錦さんの目が『ぱぁっ』と輝いている、あぁ……本当にこの子は可愛いな、同級生なのに妹みたいに見えてくる。


 十文字じゅうもんじさんが軽くうなずいた後、今後についての説明をしてくれる。


「いいですか?基本的にはこのメイド長の早乙女さおとめつかさに従って仕事をしていただくことになります、早乙女さおとめ、後はお願いしますね」


「かしこまりました。」


ではさっそく……と、家に帰って準備もあるし、とりあえず早く息をつきたいと思い、出ていこうとするのだが。


「オムライス!」


の一言で初仕事が決定した。


 ……


 錦さん、十文字じゅうもんじさん、早乙女さおとめさん――そして私は、応接室でオムライスを食べている。


 フレンチレストランでもアルバイトしていた私にはとってオムライスは手慣れたものだ、それにしても十文字じゅうもんじさんは食べるの早くないですか?早乙女さおとめさんはケチャップでハート書くのがとっても意外です――にしきさん、おかわりはないですよ?


 至福の顔を並べてくれる皆さんの顔を見ると作った甲斐がある、特に早乙女さおとめさんに至っては、もう佐久夜さくや様のために料理だけしてくれればそれだけでも良いかもしれない……と言い始めている、がさすがにそれはだめだろう。


「ちゃんとした初仕事は明日からにしておいて冒険譚ララバイの話をしましょうか、私のアバターはサクヤ、ロールは『魔法剣士』のようなものを目指しているわ、魔法がまだ解禁されていないのでまだただの剣士なのだけどね」


 次に十文字じゅうもんじさん。


「私はセバス「ぶっ」」


 思わず吹いてしまった……いやこれはしょうがないでしょう、イメージ通りすぎて耐えれなかった――。


「すみません、続きを……ゲホゲホ」


「改めまして、アバター名はセバス、ロールはしがない店舗経営をしているため、冒険はしておりません、情報屋を生業としています」


 お次は使用人メイド長だ。


「最後に私のアバターはツカサ、ロールはアーチャーを嗜んでおります、お嬢様の撃ち漏らしを殲滅、および護衛のような立ち回りをしております」


 へぇ……みんなプレイしてるんだね、20倍のゲーム当選倍率なのに――マネーパワーで仕入れたのだろうか?学生優遇とは違う何か見えない力が働いているのだろうか?


「あ、仕事はいいけど引っ越し作業をしないと……」


 と言い終わるのを待たずに十文字じゅうもんじさんが言葉を差し込んできた。


「既に全てのお荷物は部屋の方に搬送済みでございます、お部屋の解約などの各種手続き、それらに掛かる費用につきましても、こちらで経費として支払いを済ませました」


 ――なんということでしょう!手が早いのはわかったけどプライバシーも糞もないね!


 このIT社会ではそんなプライバシーなんて、あってないようなものなんだけどね?


一応女子なんだけど?そう考えながら皆に視線を移すと……早乙女さおとめさんがドヤ顔をしている?


あんたがやったのか……!


いや女子がやればいいってものじゃない……もういいや、考えるだけ無駄なのだ、そもそも引き受ける返答の前に荷物を運んでいたっていうことなのだから――。


 ……


 ふう……、今日はもういろいろあって疲れたよ……まったく。


新しい部屋への帰り際、にしきさんが12時頃にログインすると伝えられた。


 使用人の仕事を受けたとしても、少なくとも今日くらいは家に戻れると最初は思っていたけれど――精神的に疲れた私は、そのまま強制的に輸送された自分のベッドでさっさと寝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る