使用人の冒険譚《ララバイ》
かぼす
第一章:Prelude
第1話お休みなさい.
「さぁ!行っくよぉぉお!」
店内に元気な声が響き渡る、金髪で小柄な少女は待ちきれないという様子のようであった。
カウンターに立つ白髪の老人は、手をひらひらと振って送り出す。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
これこそ執事!とでも言うかようなテンプレ的なセリフに、思わずクスリとしてしまった。
「昨日は
剣と盾を背負った男がニヤリとして金髪な少女に言い放つと恥ずかしそうにむくれている、これは尊い。
「まぁまぁ、楽しみにしていて寝れなかったんでしょう?今日からは頑張ろうね」
どこからどうみても魔女っ娘スタイルなその女子は、フォローとも追撃ともいえるような言い方で笑っていた。
私はというと……その光景を微笑ましく眺めつつも、隣で同じように彼女たちを眺めている男子と共に苦笑いをしていたのだった。
そのまましばらくは賑やかなやり取りをしていたが、メイド服を着た私たちよりすこし年上でお姉さんチックな女性が場をまとめるように声をかける。
「ではお嬢様とそのおまけ達、クラン設立クエストに出発しましょう」
「おーーーーっ!」
「ちょ」
「ま」
「おまけですか」
「・・・。」
その声を合図にして六人は颯爽と草原に駆け出した。
そう遠くない未来、レクイエムという異名で恐れられることになるクランの冒険が、今ここでひっそりと、いや……とてもにぎやかに幕が開いたのだ。
……
――睡眠時フルダイブ型MMORPGである期待の新作ゲームである
なんでも睡眠学習の要領で睡眠時に夢に干渉して様々な体験を、目が覚めても忘れない形で頭に作用してくれるらしいのだ、その前身となった睡眠学習装置『デイドリーム』は世界中で大きなブームを巻き起こし教育機関や企業からも注目させるようになっていき、とても大きな成果を上げていた。
そこに目を付けた多数の企業によって人材発掘の観点から、ゲーム内での行動、攻略するための知識、その応用力について、個人情報とともに行動ログデータ等の開示を許可したプレイヤーに対して、協力費としてゲーム内通貨の十分の一をリアルマネーに変換するサービスを持つ、睡眠時フルダイブ型MMORPGである
私はこの施策にすぐに飛びついていた……私は両親を小さいころに事故で亡くし、おじいちゃんとおばあちゃんからの仕送りと、放課後に何件もの掛け持ちアルバイトで食いつないでいる状況だったのである、そんなところに寝ている間でもお金を稼ぐことができると謳ったゲームが発表されたのだ、私にとってそれは、最高の
そんな注目のゲームだったので初期ロットには当然のように予約者が殺到した、そのため混乱を回避するために抽選販売の方式を取る事となった。
だがそんな混乱が発生する以前から製作会社が発表していた”中高生に優先的に入手できるように計らう”という試みのおかげで、それでも二十倍を超える抽選倍率ではあったのだがなんとか初期ロットを手に入れることができたのだった、ゲームを買う出費は痛かったけどね。
よし!今日のバイトも終わったし、いざ
意気揚々とログインする
(興奮すると眠れないのでは?と思っていたのだがゲーム機として身に着ける腕輪に装備された睡眠導入装置のおかげで、すんなりと寝付くことが出来た)
プレイヤー名を決めて、容姿は……普段の姿になるらしいね、黒髪薄茶の目、中肉中背、すこし目つきがきつい――いやいやそんなことはないはずだ。
ゲーム開始地点、それは何種類か選べるようだったのだが、どうせ全く情報はないのだ適当に『マジリハの街』というエリアに決定した。
全ての設定選択し、その内容で開始してもいいかどうかの確認が出て、確定のボタンをタップする、すると周囲が青白く輝く科学的な模様に包まれていき……それが晴れた時には、
……
――さぁ冒険だ!!
ワクワクしながら街の外へ走る、チュートリアルなんて気にしない、だが初期装備の確認は忘れずに飛び出して行く。
そして草原に出たのだが……。
あれ?モンスターがいないよ?――いや、時々出現はしているようだが、すぐに他のプレイヤーに狩られて消えていく。
定番どころのゴブリンとかスライムは最初の町周辺に沢山出現するらしいんだけど、初日の混み具合を舐めていた。
「ふぅ……」
ため息を吐くが、そうしていても仕方がない、町で繰り返しできるクエストをやって金策といきますかね。
……そうだ、その前にすることがあるのだ、己を知らないことにはね。
「ステータスオープン」
目の前に表示されたそのウインドウには、ゲームや転生ものでは定番のステータス画面が表示されていた。
プレイヤー名【セツナ】
レベル【1】
経験値【0 / 10】
体力 【10】
魔力 【10】
力 【1】
防御力【1】
知力 【1】
精神力【1】
機動力【1】
魔法 【無し】
アーツ【無し】
称号 【無し】
装備 【村人の服】
コイン【1000】
ちょっと恥ずかしいセリフであるステータスオープン、多少のあこがれは私も持っていたりはしたけど、システム上しょうがないとはいえ、何となく声に出すのには気恥ずかしさがあるのだ。
……それは置いておいて、ステータスそのものは――うん、超普通だね、まぁそうだよね、個体値のようなスタータス差があるとMMOでは暴動が起きてしまう。
気を取り直し……では、いっちょ金策に行きますか!
その後淡々と、数日間ひたすら同じような繰り返しクエスト(お使い系)をこなした、地道な作業は得意なのだよ、と独り言を言いつつ顔なじみになったNPCのオジサンにクエスト終了の報告をする。
「おう、お嬢ちゃん!お疲れさんだな……んじゃ、ほらよ報酬の500コインだぜ、持っていきな」
ごっつぁんですよおじさん……!そんなやりとりをひたすらに繰り返し、いつしかクエストをこなした回数が分からなくなってきたとき、クエストクリアの報告を終えた際に、いつもとは違った無機質なメッセージが脳内に再生された。
ぽーん
『【システムメッセージ】とあるプレイヤーがクエスト総達成数100回を達成しました、これによりストーリーコンテンツ1章『
周囲のプレイヤー達がざわざわしている、それはそうだろう……先行しようとしている本気組がモンスターを大量に狩っていても、ストーリー進行の糸口は見つからなかったのだ、その発生トリガーが特定のクエストをクリアする事ではなく、ただクエストの達成数を満たす事だとは普通は思うまい、そのように考えていると、更にシステムメッセージが流れてきた。
ぽーん
『管理者よりセツナ様にメッセージです、次回レベルアップ時におけるステータス上昇制限が緩和されました。
さまざまな経験を積むことをお勧めします、また『真の経験の値』を視認できるようになりましたのでご確認ください。』
ほほう……?
これはあれですか、発見者特典みたいなやつですか?まぁまだしばらくはモンスター狩りとかストーリー関連の場所は混んでいそうだし、町の非戦闘系クエストの制覇してみるつもりだよ、さぁ続きに行こうか……いや一回メッセージで言われたステータスの確認をしておこうかな。
「ステータスオープン」
レベル【1】
経験値【零 / 十】
体力 【10】
魔力 【10】
力 【1】(10 / 100)
防御力【1】(10 / 100)
知力 【1】(10 / 100)
精神力【1】(10 / 100)
機動力【1】(10 / 100)
魔法 【無し】
アーツ【無し】
称号 【無し】
装備 【村人の服】
コイン【51000】
ほう……なんだか括弧の表示が増えたみたいだね、つまり(10 / 100)っという表示っていうのは、 上昇制限の緩和と言っていたことと当てはめると、いままでの状態だとレベルアップ時に10を限度としてしかステータスが上がらなかったのが、100まで上がるようになったということだよね?たぶん、きっと、メイビー。
まぁ私はまだレベル1だから……レベルアップ時のステータス上昇は経験していない、つまり最強のレベル2になることが出来るのかもしれない。
……というかだけど、私の体感では普段の行動によってすでに能力は高まっているような気がしている、それをレベルアップのときスタータス表示に反映しているだけなのではないのか?つまり、本当に
このゲームアカウントは1人1個だけでリセット不可だからね、オンリーワンだからね
検証もできない、やり直しのできない第二の人生とは夢の中なのに世知辛い。
だが、そんなことは今私が考えていても仕方がないのだ、こんな特定条件を初回達成したプレイやに対しての特典だと先行組が有利すぎると思うの……なにやら運営に仕込まれているような気がするが、どうしようもないことだ。
……
さぁ今日は土曜日だ!
土日はバイトは午前だけにした、いままではそんなことは考えられなかったのだが、
……
ぽーん
『【システムメッセージ】とあるプレイヤーがクエスト総達成数1000回を達成しました、これによりシステム『クラン』が解放されました、結成クエストは各エリア内主要都市の冒険者ギルドから受注することができます。』
それに続いてまたメッセージが流れて来た。
ぽーん
『管理者よりセツナ様にメッセージです、次回レベルアップ時におけるステータス上昇制限が緩和されました。
さまざまな経験を積むことをお勧めします。』
あれ?前回からほとんど経っていないのに、もう達成数1000回なのか?……あれから一週間いつもの繰り返しクエストはさすがに飽きて、町中の受注型生産クエストを主に回すようになっていたのだ、加工素材を集めてほしいとか、加工を完成させてほしいとか、オムライスを作ってほしいとか……さすがにそれだけだどクエスト量はすくないので合間にギルドのクエストもこなしててはいた。
一部では何やらギルド荒らしだとか、一瞬でクエストを終わらせることから閃光のようだとか、さらに少数の間では何故かは分からないけど『魔王』とか呼ばれるようになってきていた、……そろそろ違うことをしようかな。
◆ 見覚えのある少女
「今日もやってるわね、あの『閃光』さん」
「左様でございますなお嬢様……いかが致しますか?」
金髪少女と老人、さらに傍らにいるメイドがギルド荒らしをしているセツナを監視している
「あの子、スカウトしてもいいかしら?」
「問題ないかと思います、お嬢様」
「捕縛しますか?」
「物騒なことを言わないの、あの子の料理の納品クエストで作ってもらったオムライス、とっっっても美味しかったんだから!あれをリアルでも食べたいだけなんだからね!」
その少女はむくれた表情をするが、その顔もとても可愛らしい。
「では、『スカウト』を実施いたします」
そう言うと、老人は綺麗なお辞儀をしてログアウトしていった。
「では、私も受け入れの準備、手続きをさせていただきます」
メイドのような人も綺麗なカーテシーをしてログアウトしていった。
「これから楽しみですわね」
金髪少女も不敵な笑みを浮かべ、ログアウトした。
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