S3 選ばし者たち

「それでは、勇者様方に与えられた力の説明を行います」


アイリスの言葉を聞いて、僕たちはごくりと唾を飲み込んだ。部屋中に緊張が走り、ぴりぴりとした空気が漂っている。


「まず、ステータスオープンと言ってみてください。すると、目の前に自分のステータスという力の強さを現す画面が表示されます」


アイリスの説明が終わると同時にクラスメイトたちは口々にステータスオープンと呟き始めた。僕にはみんなのステータス画面が見れないが、みんな自分の目の前を集中し、じーっと見ているので、ステータスが表示されているのだろう。


「ステータスオープン」


僕も意を決して自分のステータスを確認する。




篠宮和樹 LV1


職業 全魔法使い


HP 1070/1070

MP 886/886


総合力 1673

攻撃力 427

防御力 388

瞬発力 436

忍耐力 422



・・・よくわからないな。

自分がどのくらいの位置にいるのか確認のしようがない。


「おっす。和樹ーどうだった?」


慎太郎が自分のステータスを確認し終えたのか、和樹に近づいてきてそう言った。さっきの真剣な様子とは打って変わってとてもフラットな感じだ。


慎太郎は元々、こういう奴だ。やるときはやる。抜くときは抜く。みたいな効率のいい生き方をしている。抜く部分が圧倒手に多いんだけど。


「わかんね。みんなどれくらいなのか知らないからな」


「だよなー。ちなみに俺は総合力が1220だったぞ」


それ言っていいのか?と思いながらも和樹は次々と自分のステータスのことを話した。僕と慎太郎だけの会話のはずなのに全員が聞き耳を立てている。理由は明確。みんな他人のステータスのことを知りたいからだ。今、この空間で自分のステータスのことを言ったのは慎太郎だけ。みんな、自分のステータスのことを話すつもりはないらしい。


まあ、自分から手の内晒すのはあまり良くないと思うけどね。でも、僕たちはクラスメイトという仲間なんだからもっとフラットな空気のほうがいいと思うんだけどなー。


全員が全員を探っている状況。重々しい雰囲気がこの場一体を包み込んでいる。


慎太郎の総合力を聞いて、「え?」とか「強っ」とかヒソヒソと言っているので慎太郎はかなり強い方に分類されそうだ。


「和樹はどうだったよ?」


 慎太郎は周りのことなど気にしないといった様子でそう聞いてきた。


相変わらずマイペースだが、このぴりぴりとした空気の中では良い感じに僕の心を癒やしてくれる。


「慎太郎よりは上だったよ」


多分、僕は強い部類に入る。慎太郎の総合力を聞いて驚いている顔がちらほら見えたぐらいだからそれよりも400くらい上の僕だともっと強くなるのだろう。


だけど、明確な数字は言わない。今、クラスメイトたちの頭の中ではどのくらい慎太郎より上なのかを考えているだろう。ちょっと?かなり?しかし、それは考えても無駄なこと。結論は僕の中だけに閉まっているのだから。よって、僕はこのクラスメイトたちの中で総合力を明かさずに、強キャラポジションを獲得することができるのだ。


慎太郎を利用したり、クラスメイトの心を惑わせたりする悪質な行為だと思うけど、僕がこのクラスの中心である限り、この位置は絶対に欠かせない。


「マジかよー。俺より上かー。まあ、和樹だもんなー」


慎太郎は納得したと言うようにうんうんと頷いていた。


「皆さん、自分のステータスを一通りご覧になられたでしょうか?ちなみに、私達は勇者様方、全員の総合力を把握しておりますのでご了承ください」


・・・なるほど。アイリスさんたち相手だと小手技は通用しないと言うことか。


それを聞いたクラスメイトたちはざわざわとし始めた。もしかしたら、自分のステータスをバラされるかもしれないとか心配しているのだろう。


「ご心配は無用です。私達は把握しているだけで、勇者様方のステータスを口外するわけではありませんから」


アイリスの言葉を聞いたクラスメイトたちはそれなら安心だ。といった様子でアイリスの話を聞いていた。


「何かステータスのことについて質問とかありますか?」


アイリスがそう尋ねると慎太郎がはーい。と手を挙げた。


「職業ってなんすか?職業って欄に三つくらいなんか書いてるんですけど?」


慎太郎がそう言ったのと同時に兵士達がざわざわと騒ぎ出した。すると、兵士達の中から白い髭を生やした老騎士が慎太郎に近づいてきた。


「な、なんと!慎太郎様は神竜を三体も倒したという偉業を成し遂げた【竜殺し】ドラゴンイーターと同じ《三つ持ち》でありましたか!五十年に一人の逸材ですぞ!」


老騎士は興奮した様子で慎太郎を褒めまくっていた。慎太郎もまんざらでは無いらしく、「マジかよ!やったぜ!」とか叫んでいる。


「爺。少し落ち着け」


アイリスの鋭い声が部屋の中に響いた。

大きい声ではなかったが、ざわざわとしたこの部屋の中ではっきりと全員の耳に伝わった。その声に慎太郎はビクッと身体を強張らせた。


「すみませんでしたアイリス様。興奮しすぎた故に、軽率な行動をとってしまいました。以後、このようなことがないように精進いたします」


「わかればよい」


アイリスは歳が何十歳も離れた老騎士に当然のように上の立場からそう言った。老騎士のへりくだる態度を見て、和樹たちは思わず息を呑み込んだ。


これで、改めてアイリスがこの王国の王女であることを実感させらせた。


「うちの爺が申し訳ありませんでした。《三つ持ち》という凄い逸材が私達の元へ来てくださることに興奮してしまったようです」


「大丈夫ですよ。慎太郎もまんざらではないようですし」


僕はまだ、呆気にとられている慎太郎の方を向いてそう言った。すると、慎太郎ははっと正気を取り戻して「ま、まーな」と言ってみせたがかなり強がっているようだ。あの爺とか言う人に向けた言葉なんだろうけど近くにいたからかアイリスが自分に向けて言ったみたいになっているようだった。


まあ、さっきのは確かに怖かったもんな。妙な寒気がしたし。


「すみませんでした。私、感情を表に出しやすいと言われるので・・・それでは気を取り直して職業のことについて話しましょう」


「職業と言うのはこの世界の人々は必ず、一人一つ持っているものです。例えば、炎魔法使いだと、火を発動させるの魔法が使えます。その場合、MPの多さによって威力や精度が調節できます。なので、MPが多ければ多いほどより強力な魔法が使えると言うことです。しかも、ごく稀に職業を複数持っているという人がいます。例えば、炎魔法使いと水魔法使いの《二つ持ち》ならば、一人で両方の魔法を使えるということです。二つの特徴を活かした合成魔法なんかもできます。ですが、《二つ持ち》だと十年に一人、《三つ持ち》だと五十年に一人と言われるほどごく僅かしかいません。《四つ持ち》に至っては歴史上に三人ほどしか存在いたしません。それほどまでに職業を複数持っているということは希少なのです。それ故、強さも《一つ持ち》より、強大でほとんどの複数持ちは何かしら偉業を成し遂げております。ちなみにいまさっきの爺は《二つ持ち》であり、王国騎士団の団長を務めるほどの力を有しております」


その、王国騎士団の団長をへりくだしたのはどこの誰なんだって感じなんだけど・・・


でもまあ、今のでだいたいのことはよくわかった。職業と言うのは自分がどんな魔法を使えるのかを表すもので、職業を複数個持っている人ほど強いと。


で、僕のは全魔法使い・・・チートってやつなのかな?・・・だよね。


幸い、アイリスさんたちは僕たちの総合力しか知らないようなので良かった。僕が全部の魔法を使えるなんて言ったら何されるかわかんないしね。


そんなことを考えていると、突然僕の後ろから透き通るような綺麗な女の声が聞こえた。


ここに来て、ずっと存在感を消していたが僕のクラスにはこの人がいたんだと気付かされる。全てを手に入れた幼き天才と称される華城美奈が初めて声を発した。


「奈美は何処にいるの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る