第4話 初めてのレベルアップ
フランチェス獣王国の首都ラメラトにある平和を司る女神エレーネが祀られているサーテルト大聖堂の女神エレーネの石像の前に獣耳の女が両膝をついてお祈りをしていた。合掌した手の中には女神エレーネを崇拝する証のペンダントが握りしめていた。
「どうか、親愛なるエレーネ様。愚かな我々に御力を恵んでください」
獣耳の女は瞑目しながら石像に向かってそう懇願した。この、礼拝堂には獣耳の女の一人しかいないので、礼拝堂中に綺麗な声が響く。
「この世界は今、崩壊の危機に晒されています。それは我々生命を授かりし者たちの過ちによって生まれました。しかし、我々にはあるべき姿に戻す術がありません。愚かな願いなのは承知しております・・・ですが、どうか・・・どうか我々にもう一度、皆が手を取り合って生きる世界を取り戻すためにお力添えをお願いします」
獣耳の女は悔しそうな顔をしてそう言った。自分たちでは世界を元に戻せない。だから最後の手段として、神頼みをした。
何千年も前に世界に平穏をもたらした女神エレーネなら、何か変えてくれるかもしれない。そう思ったのだ。
すると、突如女神エレーネの石像が黄色の光を放ち始めた。
「!?」
獣耳の女は絶句した。
その光は誰しもが美しいと思えるほどに透き通った色を放っていた。これまで見てきた何よりもこの色が美しいとも思えた。だが、その光の中には女神エレーネの悲しみ色が見えたような気がした。
数十秒、光が消えた。
サーテルト大聖堂の礼拝堂には何も起こらなかった。ただ、光が吹くはずがない風とともに流れる様に消えていっただけだった。
何かが変わったのだろう。だが、獣耳の女には何が起こったのか知る由もなかった。
◆◇◆
夢を見ていた。
まるで、ラノベやアニメのワンシーンのような夢だった。獣耳の女性が女神の石像に向かってお祈りをしている場面。十六年間、生きてきた中で一番しっかりと夢の内容を覚えていた。自分がそこにいるかのように。
いや、それよりもかなり、かなーーり、大変な事が起きている。今も夢の中なんじゃないかと疑いたくなるほど俺は焦っていた。
あるはずのない枕が俺の頭の守っている。
柔らかく、それでいて張りがあり、俺の心を癒やすほどに温かい──膝枕と言う名のこの世で一番価値の高い枕があった。
ちよっと待て、理性を保て希よ。
軽く深呼吸をして、現状を整理する。
俺、倒れる。
起きる、膝枕。
ワカンナイ、ドウシテコウナッタノ?
今、俺は目を瞑っている華城さんの膝の上に頭をおいている状態だ。
スゥースゥーと寝息をたてているので、寝ているんだろう。すぐさま、離れようとしたがもう少しこの状況を楽しみたいのでこのまま起きるまで待っておこうと思った。
そういえば、気絶する前に頭の中にアナウンスがひっきりなしに聞こえたな。
俺は気絶寸前に起こったことを思い出し、ステータスを確認する。
矢崎希 LV8
HP 235/235
MP 117/117
総合力 212 (+600)
攻撃力 49 (+150)
防御力 59 (+150)
瞬発力 46 (+150)
忍耐力 58 (+150)
スキル
鑑定LV2 身体強化LV2 視覚強化LV2 聴覚強化LV2 嗅覚強化LV2 HP自動回復LV2 MP自動回復LV2 全魔法耐性LV1 熱耐性LV1 麻痺耐性LV1 毒耐性LV1 苦痛耐性LV3 状態異常耐性LV1 恐怖耐性LV3 隠密LV1 暗視LV3 変装LV1 逃走LV2 回避LV2 精神安定LV2 気配探知LV2 集中LV3 予測LV2 炎魔法LV1 水魔法LV1 氷魔法LV1 雷魔法LV1 光魔法LV2 風魔法LV1 土魔法LV1 毒魔法LV2 闇魔法LV1 精神魔法LV2 治療魔法LV1 空間魔法LV1
スキルポイント︰800
称号
モンスター殺し
ほうほうほう・・・強くね?
あの負け犬よりは明らかにステータスは弱いけども、かなり強くなってるぞ俺。
LV1だったのがもうLV8になってるし。
やっぱ格上を倒したほうがLVの上がり幅は大きいんだろうな。
俺はステータスを眺めて、気絶前にはなかった項目を見つけた。
『スキルポイント︰新しいスキルを獲得できるポイント』
アニメや漫画とかで見るやつとほとんど同じだな。結構、重宝される機能だ。
さてと、獲得できるスキルを確認しますっかー。
◆◇◆
うーん。10分くらい流し見で眺めてたけどめっちゃ迷うなぁ。魅力的なスキルが多すぎるっ!
より強力なスキルほど消費するスキルポイントが多い。最低で100ポイント、最大は5000ポイントもある。単純計算でLV50まで一切スキルポイントを使わなければ獲得できる。
無理だな。LV50まで貯め続けるのは初期値が俺よりずっと強いやつしか無理だろう。
無難にスキルポイントをあまり使わない低コストのスキルを複数取ろうかな。
まずは・・・これだよな。
一つ目に獲得したのは『念話』。
口に出さなくても、対象者の脳にそのまま、話しかけることができる。ちなみに、念話中だけ対象者にも『念話』が使えるようになる。
コミュ障の俺にとって必須スキル間違いなしだ。スキルポイントは200。ちょっと勿体無い気もするが、敵に聞かれることなく作戦とかも練れる。流石に俺でも『念話』の中までキョドったりはしないだろう、しないよな?
二つ目に獲得したのは『武器錬成』。
黒妖犬と戦ったときに俺には火力がないことに痛感した。正直、華城さんは戦力にならないだろう。だとすると攻撃方法は俺の魔法のみ。『炎魔法LV1』はコンロの弱火程度。『水魔法LV1』はコップ一杯分ぐらいしかでないし、『氷魔法LV1』は常温のモノをひんやりとしか冷たくできない。
連発をすればそれなりの火力がでるが戦いの度に魔力切れで動けなくなるのは良い判断ではない。それならば、自分で武器を作ればいいのではないか。そう思ったのだ。
二つ目のスキルを獲得して、残りスキルポイントは400。あと300ポイントで攻撃スキルを獲得し、残りの100ポイントは残しておくことにした。
さてと、一段落ついたからそろそろ、膝枕とお別れしようかね。華城さんが起きたときにまだ膝枕状態だと気まずくなるかもしれないしな。
そして俺は立ち上がろうとするが・・・
「・・・お姉ちゃん」
華城さんが小さく、こんなに近くにいても聞き取りづらいぐらいの声量で寂しそうにそう呟いた。
華城さんが喋ったことを焦って身体をジタバタしてしまったのが、悪い判断だった。そのせいで華城さんは完全に起きてしまったのだ。
「お、おはようございます、矢崎くん」
「・・・」
オワター。一番気不味いやつー。
現に華城さんもたどたどしくなってるし。
『おはよう、華城さん』
「え?今、何か頭の中に・・・」
華城さんはそう言って、周りをキョロキョロと見渡すが何も見つからない。当たり前だ、声の主は君の下にいるのだから。
『あ、ごめん。下、下。』
「下?」
華城さんは恐る恐る視線を下に向ける。
ばっちし俺と目が合い、俺の目をじーっと見てきた。
き、気不味い・・・
『あのーそんなに見ないでくれるかな?』
「え!?もしかして矢崎くん?」
『そうだけど』
華城さんは驚いて目を見開いている。信じられないといった様子だった。
まあ、突然クラスの男子の声が脳に直接聞こえたら怖いよな。
「ど、どうしてですか?」
『えーっと、話すと長くなるんだけど、端的に言うと『念話』っていうスキルで華城さんの脳に直接話しかけてるんだよね』
「スキル?」
『あ、そこらへんは知らなくていいよ』
「は、はい」
華城さんは曖昧な返事をした。少しはそこらへんを問いただしたいのだろう。
スキルのことを話すか、話すまいか迷ったが一人ぐらい信頼できる人に話しても良いかなと思い、打ち明けた。
華城さんとは喋ったことないけど同じ被害者だ。あいつらとは関係ない。それならば話したばかりでも少しぐらい信用してもいいかなと思ったのだ。まあ、ここにいるのが井手杉や峰だったら絶対に話さないけど。
別にスキルのことを追求してほしいわけでもないので話を逸らした。自分自身、スキルのことはあまり知らないしね。
『華城さんも『念話』できるはずだよ』
「ほ、本当ですか?」
「うん。頭の中で俺に向かって話しかけてみて」
『えーっと。き、聞こえますか?』
『うん、聞こえる。光つけたほうがいい?』
『はい。暗くて何も見えないので・・・』
そうして、俺は『光魔法LV2』を発動させる。俺は『暗視LV3』のおかげで華城さんのことをはっきりと捉えられるが華城さんからはあまり良く見えていないだろう。
しかし、そうなるとまたモンスターが寄ってくる可能性がある。
・・・そうだ、アレがあったんだ。
俺がとある魔法を発動した瞬間、その場から俺と華城さんは姿を消した。
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