第3話 遭遇そして死

「ん、ここは・・・」


女子生徒が目を覚ました。


「・・・」


アレ?シタガ、マワラナイ・・・


二年間もの間、まともに話したのは家族だけだった俺は同年代の女子に「おはよう」と言う4文字ですら、言葉に詰まってしまった。幸い、女子生徒は寝ぼけ眼で周囲をあまり認識できていないので、口をぱくぱくしていたのは見られていないだろう。


「矢崎くん?どうして・・・」


女子生徒はそこまで言いかけて思い出したのか、絶望と似た顔をして俯いた。

無理もない。ついさっき、目の前でクラスメイトが殺されたんだ。冷静でいられるはずが無い。


てか、喋ったことのない男子の名前を知っててくれてるだなんて・・・君への好感度が上がったよ。でも、君の名前知らないから女子生徒Aさんね。


『鑑定』したらでてくるかな?

そんなことを思い、俺は女子生徒Aさんを鑑定してみる。


華城奈美かしろなみLV1 総合力 132』


お、出てきた、出てきた。

華城奈美さんか・・・聞いたことあるような無いような・・・うん、知らない。


華城さんはかなりの時間、眠っていたので『精神安定LV1』のおかげで俺自身も良い意味でも、悪い意味でも落ちつくことができた。


まあ、精神が落ち着いたところでアイツらへ怒りと憎しみが消えることはないんだけどな・・・


「夢ではないんですよね」


俺はこくこくと頷いた。


「そっか・・・」


華城さんはそう言って、遠くを見た。

自分達が逃げてきた道を悲しそうに見ていた。


さっきまで俺は『暗視LV2』(いつの間にかLV2に上がっていた)を使っていたが、華城さんは『暗視』のスキルが無いようなので今は『光魔法LV2』を使用している。


MPの消費が激しいからあんまり使いたくないんだけどなぁ。


ふと、隣を見ると女子生徒Aの肩がをブルブルと震えていた。表情は冷静を保っているようだが、精神はかなり擦り減らされているらしい。


俺は華城さんに『精神魔法LV1』をかけた。華城さんの震えは少しずつ収まっていき、三〇秒くらい経つと、だいぶ落ち着きを取り戻したようだった。

精神魔法は相手の精神を安定させる能力と精神を不安定にさせる二種類の能力があり、MPもあまり使わない。身体に擦り傷もできていたので『治療魔法LV1』もかけてあげようかと思ったが、MPを15も消費させやがるので、断念した。次にモンスターに会ったときにMP不足じゃ笑えないからな。


「ありがとう・・・ございます」


華城さんは一瞬びっくりした様子だったが、俺の手からまだ淡い光を放たれているのを見て、素直にお礼を言った。


俺はそれを見て、こくこくと再び頷いた。


大丈夫、大丈夫。ちゃんとコミュニケーションは取れてる・・・よな?


「だいぶ、楽になりました。あまり、おしゃべりするのがお得意では無いようなので、会話はなるべく控えたほうがよろしいでしょうか?それと・・・一人じゃ怖いので暫く一緒に行動させてもらってもよろしいですか?」


この子、良い子や。

少なくとも、俺達にマウントばっか取ってくる井手杉たちとは違う。ちゃんと俺のコミュ障を理解して接してくれている。こういう子がモテるんやろなぁ。てか、井手杉たち元気してるかな?まあ、あいつらがどうなろうがこっちは知ったこっちゃないんだけど・・・


我ながら冷めきったなと思いながらも、華城さんの頼みにこくこくと頷いた。


『精神魔法(安定)LV1』をかけても、感じた恐怖が消えることはない。確かにこのダンジョンを一人で行動するとなると、それはほぼ、自殺行為と等しいだろう。




『気配探知LV1』に何かが反応した。殺気を感じる。これは間違いなくモンスターだ。さっきまでは何も来なかったのに。そんな疑問が頭をよぎったが、結論は簡単だった。光魔法を使ったことで暗闇の中に明るい場所ができてしまった。それに反応したモンスターが様子を見に近づいてきたのだろう。


俺は素早く、立ち上がり殺気が放たれている方向を見る。『暗視LV2』になったおかげなのか、暗闇の中に黒い影が見えた。


「どうしたんですか!?」


華城さんがいきなり立ち上がった俺に慌てた様子でそう言った。


「・・・敵」


独り言のように呟く。


独り言だと思ったら喋れる・・・少しは。


女子生徒Aははっと目を見開き、すぐさま立ち上がろうとするが、恐怖と疲れからガクンと膝から崩れ落ちた。必死になって起きようとするが、足に力が入らないのだろうか立ち上がれそうな気配がない。


「・・・下がってて」


「き、危険です!」


「・・・大、丈夫」


正直、勝てる可能性は低いだろう。俺のスキルがどれほどモンスターに通用するのか、もし殆どダメージを与えることのできないゴミスキルだったらここで俺達の命は確実に終わる。


さーて、やりますかね。


モンスターが姿を現す。


黒妖犬ブラックドッグLV28 総合力 785』


・・・は?強すぎじゃない?


総合力だけでもわかる。こいつは俺より遥かに格上だ。現時点の俺の総合力は『身体強化LV1』の補正がかかっていてもニ倍以上の差がある。あんなに威張っていた井手杉よりも、遥かに高い。

無謀な戦い。

周りから見れば確実にそう思われるだろう。


それでも、勝たないと生きれない。

死んだらそこで全てが終わる。

俺の描いた理想も夢物語で完結してしまう。


例え、醜い戦い方だとしても生きるために勝たないといけない。

アイツらに復讐するために。


黒妖犬が前右足を俺の方に向けて薙ぎ払った。


『予測LV1』が発動し、『回避LV1』で咄嗟に後向きにジャンプして下がる。


すると、さっきまでいた場所がシューという音が鳴って大きな爪の跡のようなものができていた。


マジかよ・・・


少なくとも、俺と黒妖犬との距離は10Mくらい離れていた。その位置から大きな爪跡を残すほどの攻撃が飛んで来たという事実に混乱していた。一発でも当たったら確実にゲームオーバーだ。

今は、『予測LV1』と『回避LV1』が発動したが、次は無いかもしれない。


MPの残りは40ほど。『MP自動回復LV1』で回復はしているが、雀の涙程度なので期待はしない。

唯一の攻撃手段である魔法をどう使うかによってこの戦いの結末は大きく左右される。


来るっ!


黒妖犬は再び、前右足を薙ぎ払った。

今回はちゃんと見ていたので、難なく躱せることができた。


躱すと同時に『雷魔法LV1』を放つ。若干、デタラメに撃ったが、『命中LV1』のおかげでクリーンヒットを喰らわせることができた。


「!?」


黒妖犬は『雷魔法LV1』を喰らって、動きが鈍くなった。それもそのはず、『雷魔法』の効果は対象の敵を一定時間『麻痺状態』にさせる力があるからだ。『麻痺状態』の時間は通常の一割程度でしか動けない。


『黒妖犬LV28 総合力1010 状態異常 麻痺(7秒)』


ちゃんと、『麻痺状態』になっているが、7秒しか時間がない。その間にダメージを少しでも多く入れないと負ける。


さっきまでの黒妖犬こいつは油断していた。自分より弱者だとわかり、遊んでいた。しかし、俺は期待を裏切り反撃をして、追い詰めた。こいつの『麻痺状態』が解けたら直ぐに俺を始末しようとするだろう。それまでに殺らないと死ぬ。


俺は残りのMPを全て注ぎ込み、『麻痺状態』の黒妖犬に向かって『毒魔法LV1』を連発する。


黒妖犬が『毒状態』になる。

それでも、打ち続ける。

黒妖犬の『麻痺状態』が解ける。

打ち続ける。

黒妖犬はフラフラの身体で俺の右腕を噛みつく。

HPは8割ほど持っていかれ、MPは無くなった。


あ、死んだ。


意識が失われ、体中の力が抜けていくのがわかる。

黒妖犬が俺の右腕からずり落ちたのは俺が意識を手放すほんの数秒前だった。


《経験値を獲得しました。矢崎希がLV1からLV8になりました》

《熟練度が一定に達しました。『身体強化LV1』が『身体強化LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『HP自動回復LV1』が『HP自動回復LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『MP自動回復LV1』が『MP自動回復LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『苦痛耐性LV1』が『苦痛耐性LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『苦痛耐性LV2』が『苦痛耐性LV3』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『回避LV1』が『回避LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『精神安定LV1』が『精神安定LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『気配探知LV1』が『気配探知LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『集中LV2』が『集中LV3』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『予測LV1』が『予測LV2』になりました》

《熟練度が一定に達しました。『毒魔法LV1』が『毒魔法LV2』になりました》

《称号『モンスター殺し』を手に入れました》

《スキルポイントを獲得しました》

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