S1 真の勇者
アイリスは王城の廊下をある部屋に向かうため、一人の老騎士と歩いていた。
「アイリス様。あれでよろしかったのでしょうか?」
「何のことですか?」
アイリスはなんのことかわからないといった様子で老騎士に聞き直した。
「あの出来損ない達のことです。彼らは確かに他の勇者様方に比べると明らかに弱いですが、鍛えれば二流騎士ぐらいにはなれるかと」
「あー彼らのことですか」
アイリスは思い出したかのようにそう言った。まるで、そんなゴミは眼中になかったと言わんばかりに。
「わざわざ、二流騎士程度に育てるならば、捨てたほうがマシです。どうせ、こちらに着いてきてもすぐに死ぬと思いますし、それならば『楽園送り』にしたほうが手っ取り早いでしょう」
パラダス大迷宮とは本来、死刑囚や自殺志願者が送られる場所なのだ。入ったら最後、死ぬのを待つしかないといわれているダンジョンである。攻略者は愚か、ダンジョンから生きて帰ってきた者すらいない。そのため、パラダス大迷宮に送られること自体が死を意味するので、『楽園送り』と言われているのである。
「流石、アイリス様。貴方様の考えていることは我々の一歩先を行きますな」
「ふふっ。爺は相変わらず、褒めるのが上手ですね」
「お褒めに頂き光栄でございます」
アイリスは焦っていた。
いつ、三国同盟軍が攻めてくるかわからない。今の、ミラーゼ王国は三国同盟軍の攻撃を受け止められる程の力を持っていない。だが、異世界から召喚された勇者達をその戦争までに鍛え終えることができたのならば、まだ勝てる見込みは充分にある。
それならば、出来損ない(総合力の低い)勇者は切り捨て、才能のある(総合力の高い)勇者をより、強く育てていくほうが良いとアイリスは思ったのだ。
「ゴミのことは忘れて、真の勇者様方のところへと向かいましょう」
「はっ!」
アイリスと老騎士は真の勇者のいる部屋に向かって歩いていく。
◆◇◆
僕達はいつの間にか、知らない部屋に閉じ込められていた。いつもどおり、教室で授業を受けていたら、教室の床に変な物が浮かび上がってきた。そして次に目を開けた時には教室とは違う、知らない場所に僕達はいた。
ドンドンドンドン
「おい!誰かいないのかよ!開けてくれよ!」
慎太郎がずっとこの部屋に一つしかない扉を叩いている。だけど、一向に反応はない。その扉は鍵がかかっているようではなく、不思議な力で固定されていて、どんなに押しても、引いても微動だにしなかった。
女子生徒の大半は部屋の片隅でうずくまって泣いている。少し、冷静さを保っている人達が慰めたりしているが、その人達も今にも泣きそうなのを堪えている様子だった。
「みんな、少し落ち着こう。そしてこの状況をしっかり考えてみよう」
僕はみんなに聞こえるような声でそう言った。みんなといってもクラスメイト全員がいるわけじゃない。40人クラスの中の20人しかこの部屋にはいない。つまり、クラスメイトの半数程度がこの部屋の中にはいないということだ。
勿論、僕も冷静でなんかいられない。頭の中ではパニクっている。だけど、今、この空間にはまとまりがない。まとまりのない団体は危険だ。無理矢理にでもいいから動ける人達だけで現状について話し合わないと。
「動ける人達は中央に集まってくれないか?少し厳しい人も聞くだけ聞いてくれ」
すると、部屋の片隅にいた人達から何人か中央にぞろぞろと集まってきた。
すると、中央には6人の生徒が集まった。その中央を取り囲むように円形になって座った。
その6人の周りを苦しそうな生徒達が取り囲んでいる。
「ここがどこかわかる人はいる?」
和樹はまず、現状を整理するためになにか知っている人がいないか尋ねた。
だが、「知らない」や首を左右に振る人だけでここがどこなのかを知っている人はいなかった。
「あ、でもーこの部屋に来る前ー教室になんかー。でっかーーーい魔法陣みたいなのできてたよねー。あの魔法陣が光を出してからの記憶がマリリンないんだよねー」
真凛は思い出したかのようにそう言った。
真凛は不安よりも、この世界への好奇心のほうが強いといった感じで目をキラキラさせていた。
ちなみに山田デイヴィッド真凛は日本人とイギリス人のハーフだ。産まれも育ちも日本だから日本語はペラペラ話せるし、寧ろ、英語は欠点ギリギリぐらい低い。
魔法陣?確かに気を失う前に身体が光に包まれたような・・・だが、そんな幻想的なことを信じる人がいるだろうか・・・
「んな、アニメや漫画みたいなことあるわけねーだろ!俺達は誘拐されたんだよ!それしかありえねぇ!」
慎太郎が叫ぶように言った。
普通に考えたら、だいたいはその結末に至る。その証拠に周りを取り囲んでいるクラスメイトも納得しているようだった。いや、納得しようとしていた。
今回のこれは普通ではない。
もし、誘拐犯として、どうやって学校に潜入してきたのだろうか?
もし、潜入できたとして、これほどの多人数をバレずに運び込めることは可能なのだろうか?
他にも、沢山の疑問が浮かび上がってくる。そんなことは慎太郎も承知の上だろう。だが、それでも認めたくないのだろう。普通ではないのだから。魔法陣が浮かび上がって別の世界に飛ばされる。そんなこと信じたくもない。しかし、それしか他に思いつかない。故に、この部屋に光を照らしているのは空飛ぶ光の塊なのだ。
「糞が!!」
慎太郎は床をドガッと殴る。すると、あろうことか、殴られた床は拳の大きさにえぐれていた。
「「「!?」」」
全員がえぐれた床を唖然とした表情で見ていた。殴った本人も何が起こったのかわからないといった様に穴の空いた床を見ている。
「あは」
静寂を破ったのは意外な人物だった。
「あはははは、あーっはははははははー」
「ど、どうしたんだ?白木くん!」
優太が立ち上がり、笑いだしたのを見て、和樹や他のクラスメイトは驚いていた。
優太は普段は殆ど見せない、満面の笑みを浮かべて、頭上を見ながら高笑いをしていた。
優太は一頻り笑った後に和樹の方を向いた。
「異世界だよ!異世界!そうだよ、僕達は異世界に転移したんだよ!ああ、遂に僕にもこの時が・・・」
そして、優太はまたもくくくっと口を抑えて、笑いだした。
「おーい。何、笑ってんだよ陰キャ。キモいぞー」
未央は優太をバカにするようにそう言った。お前は自分達より下なんだから、喋るなと言わんばかりに。だが、今の優太はそんなこと気にもしなかった。
「田中さんか。峰の手下Aが僕になにか用かな?」
「はあ?お前、調子乗り過ぎな。キモすぎーウケるんですけど」
「そうやって人を見下すことで快感を覚えるところ直したほうがいいと思うよ、見ていて不愉快だから」
「お前、まじで痛い目見ないとわかんねーらしいな」
優太と未央が互いに睨み合う。教室では絶対にあり得ない光景だ。未央は峰グループの中で毎日、騒いでいるのに対し、優太はいつも、峰達の邪魔にならないようにコソコソと過ごしてきた人だからだ。
や、やばい・・・
和樹はそこの光景を見て、かなり焦っていた。少しでもみんなの気持ちを整えるために始めた話し合いだったのに逆効果になってしまった。
何か立て直すことは・・・
バンッ
険悪な空気を打ち破ったのは今まで、何をしても開かなかった扉が外側から誰かが押したことによってバンっと簡単に開いたことだった。
そして、扉の向こう側には、純白のドレスを身に纏った美しい金髪の女性の姿があった。
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