第2話 パラダス大迷宮

「どこだ?ここ・・・」

 

井手杉が周りをキョロキョロと見渡している。俺達のいる場所は所謂、洞窟という場所だった。洞窟に実際に入ったのは初めてだが、テレビなんかでよく見るあんな感じの洞窟だ。視界は良好。明かりはなく、はっきりとまではいかないがクラスメイトの顔はわかる。


いちおう、『鑑定』してみるか。


そして俺は地面に手をつける。

俺は初めて『鑑定』を発動させる。『鑑定』と言えば異世界の醍醐味。異世界転生・転移モノなんかでは欠かせない必需品だ。


『鑑定結果︰床』


・・・じゃなくてね。違うの。期待してたのと違うの。この洞窟の名前とか知りたいの。床?そんなこと知ってるよ!


俺はもう一度、地面に手をつける。


『鑑定結果︰床』


はあ、駄目だ。『鑑定』は今のところ使えん。レベルを少しずつ上げていこう。


「暗くて何も見えないんだけどー」


峰がイライラを隠せない様子でそう言った。


え?見えないんだ。全然見えるけどなー。あ、この『暗視』っていうスキルが発動してたのかな。


「私の光魔法でなんとかならないでしょうか」


大森がそう言って掌から光が出した。すると、他のクラスメイト達が


「ぼんやりとだけど見えてきた」

「お、見えた。ここは・・・洞窟か?」


とかなんとか言っている。


『暗視』持ってない奴多いんだな。意外と初期から持ってそうなスキルだけどなー。


「光魔法使いの奴らはさっさと光だせ!光!」


井手杉は命令口調でそう叫んだ。逆らうこともできないので、俺は『光魔法』を使用する。すると、他にも『光魔法』を使用する奴がちらほらと見える。


うん。心なしか俺の光だけ弱くないか?みんなが豆電球ぐらいだとすると俺のはお祭りで貰える光るブレスレットぐらいの明るさしかないんだが・・・


「あの、まずは皆さんの職業から話し合いませんか?ちなみに私は見ての通り【光魔法使い】です」


大森はそう言って掌の上にある光を見せる。


「委員長にさんせー。さっさとお前ら職業言えや。ちなみに俺は【炎魔法使い】だぜ」


井手杉は掌からぼおっとバーナーぐらいの火力の炎を発動させる。


それを見たクラスメイト達は「おー」とか「すげー」とか口々に言っている。


えーっと、ごめん。話についていけないんだけど・・・職業って何よ?そんなのどこにも書いてないんだけど。もしかしてお前、激ヨワだから職業つけなくていいだろ、みたいな。いやいや、さすがに・・・あり得るな。


井手杉に続いてクラスメイト20人がそれぞれ職業を言っていった。俺は手から光が出てるから【光魔法使い】だろみたいな感じでスルーされた。悲しきかな。


話し合いの結果、だいたいが炎魔法使い、水魔法使い、氷魔法使い、土魔法使い、光魔法使いだった。ちらほらと風魔法使いや治療魔法がいたかな。どうやら自分の職業以外の魔法は使えないらしい。


うーん。俺は全部使えるんだけどな。あまり、言わないほうがいいんだろうか。自分で言うのもなんだけど多分これ、中々のチートだと思うんだよね。


《熟練度が一定に達しました。『光魔法LV1』が『光魔法LV2』になりました》


お!レベルアップ!これで、みんなと同じくらいの光が出せるようになったぞ。やったぜ!


ていうか、光魔法を使い続けてたらMPどんどん減ってるんだよね。消していいかな?駄目だよねー 


!?


何かがくる。

俺は正面の真っ暗で『暗視』があっても見えないところから気配を感じた。

これは、殺気だ。何者かがこっちに向かって殺気を飛ばしながら近づいてきている。


「正面から何かくる!」


気づいたら叫んでいた。

危険だ。本能がそう叫んでいた。


「あ?なんだよぼっちくんか。何言って──


ドスンッドスンッドスンッ


大きな足音が聞こえた。


「なっ!?」


全員が音のする方を向く。その大きな足音の正体が露わになる。鋭い目つき、3メートルを越えるほどの巨体、ガッチガチに固められた筋肉。


俺はいつの間にか、その巨体を『鑑定』していた。


『鑑定結果︰オーガ』


「グオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


オーガが獲物を見つけて嬉しいと言わんばかりに雄叫びをあげた。


《熟練度が一定に達しました。『恐怖耐性LV1』が『恐怖耐性LV2』になりました》


嬉しくないアナウンスが脳に響く。

オーガはニヤリと笑みを浮かべ、俺達の方に走ってきた。

速い!

みんな、オーガの雄叫びに気圧されて反応できていない。そしてオーガは俺達に近づき、一人の男子生徒の首をふっとばした。


首がなくなった身体はドサッと崩れ落ちる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ」


超音波のような女子生徒の叫びが聞こえた。

すると、オーガは次に叫んだ女子生徒の方に近寄ってまたも、首を吹き飛ばした。


オーガが雄叫びをあげて、二人の生徒を殺したまでの時間はわずか十秒。


《熟練度が一定に達しました。『恐怖耐性LV2』が『恐怖耐性LV3』になりました》


またも、嬉しくないアナウンスが鳴ったが、そのおかげで俺は落ち着きを取り戻した。


「みんな逃げて!」


俺は引き絞るように声をだす。放心状態だった生徒たちもなんとか意識を戻して、それぞれ全速力で逃げ出した。


勿論、俺も。


「グオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


背を向けたところからオーガの雄叫びが聞こえる。だが振り返らない。少しでも隙を見せれば殺される。


死にたくない!


後ろで断末魔のような叫び声が聞こえたが振り返らず、前だけを向いて懸命に走った。


走って、走って、走って、走った。


《熟練度が一定に達しました。『逃走LV1』が『逃走LV2』になりました》


暫く走るとオーガの気配が消えた。


「逃げ切ったのか・・・」


立ち止まって恐る恐る後ろを振り返る。

何もいない。オーガの気配も感じない。


「ハァハァハァハァ・・・」


どっと疲れが溢れ出した。肩で息をする。

安心・・・はできなかった。次にいつ襲ってくるかわからない。その時に今と同じように逃げ切れる可能性は限りなく低い。クラスメイトととも逸れた。危険性はかなり高くなってしまった。


死んでいった奴らには申し訳ないが俺は生き抜くことに成功した。たった今、クラスメイトが殺されたというのにあまり、何も感じない。これも、スキルのおかげなんだろう。何か人間の失ってはいけないものを失った気がした。


「まずは、ここがどこなのか知る必要があるな」


そして俺は『鑑定LV1』を発動させる。


『床』『壁』『石』『岩』『壁』『床』『石』『床』『床』『岩』『石』『壁』『床』『壁』『石』『床』『壁』『石』『岩』『石』『岩』『石』『床』『壁』『石』『壁』『床』『石』『壁』『石』『床』『石』『壁』『岩』・・・


《熟練度が一定に達しました。『鑑定LV1』が『鑑定LV2』になりました》

 

「これで・・・」


俺はもう一度、床を鑑定する。


『鑑定結果︰パラダス大迷宮の床』


お、まだ、『鑑定』の力はしょぼいが重要っぽいのがでてきたぞ。このパラダス大迷宮とやらを『鑑定』してみるか。


『パラダス大迷宮︰世界三大ダンジョンの一つ。別名(死者の楽園)』


ほえあー。めっちゃ重要なこと書かれてんじゃん。『鑑定』レベル一つ上がっただけで平社員から課長クラスになっちゃったよ。


「つーか、やばすぎだろ」


俺は深く溜息をついた。


(死者の楽園)か。名前からして恐ろしすぎるだろ。アイリスは難易度の低いダンジョンとか言っていたが・・・手違いか、それとも意図的にか。


普通に考えて後者だろう。


『それでは逝ってらっしゃいませ。廃棄者ども』


俺は最後に聞いたアイリスの言葉を思い出した。俺は弱者を見るような目だった。なんの役にも立たない、リサイクルすらできない存在するだけ無価値なゴミを見る目だった。


廃棄者。最初は意味がわからなかったが今ので確信した。アイリスたちは俺達を殺すつもりだったのだ。つまり、役立たずということだろう。本命は別のグループ。俺達とは違うグループの奴らなのだろう。推測でしかないがそんな気がする。峰の別グループ行きを頑なに拒否したところから少し、不自然に感じていた。


くそっ!ふざけるな。勝手に召喚されて役立たずだから捨てる?ふざけている。人を殺すことに躊躇がなかった。だから、演技を完璧に見抜けなかった。


《熟練度が一定に達しました。『怒りLV1』を獲得しました》

《熟練度が一定に達しました。『怒りLV1』が『怒りLV2』になりました》


そうだ、俺は怒りを覚えていたんだ。産まれて俺は、本当に怒ったことがなかったんだろう。この感情の正体に気づかなかった。


勝手に召喚しておいて、リサイクルすらできないゴミだったから廃棄場に捨てた。


あいつらが何を考えて、そうしたかは知らない。知る必要もない。どんな目的を持っていようと俺達を捨てたあいつらを絶対に許さない。


死んで呪ってやる?


いや、違う。俺は生きる。地獄のようなこの世界で。生きて、あいつらに復讐しよう。


俺をこの世界に召喚してしまったことを後悔させてやろう。




『気配探知LV1』が発動した。何かがくる。恐怖は感じない。多分、モンスターじゃない、だとすれば何か。


暗闇の中から虚ろな目をした女子生徒が現れた。その目は俺を捉える。すると、安心したのかその場で意識を失い、死んだように崩れ落ちた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る