廃棄者が汚れきった世界を救うまで
輪陽宙
第1話 異世界召喚
目を覚ますとそこは知らない天井だった
──とか、そんな生ぬるいものではなかった。
今、俺の眼にはクラスメイトの半数、20名とここは中世ヨーロッパですか?と言いたくなるほどのいかにもお高そうな純白のドレスを身に纏った女性とそれを取り囲む兵士達の姿があった。
そこで俺は悟った。
これ、今、流行りの異世界召喚じゃね?
◆◇◆
時は少し遡り、数時間前。
俺はいつもとなんら変わらない学校生活を送っていた。休み時間は机に突っ伏して寝るフリかトイレに行くだけの時間。ワイワイガヤガヤと雑談をする友はいない。所謂、ぼっちというジャンルに括られていた。
存在が空気の俺は多数決の時に手を挙げなくてもいつの間にかカウントされていたり、昼休み学食から帰ってくると俺の席はいつも誰かに占領されていたりする。
帰ってきましたよアピールのために近くを彷徨っていても気づく様子もなく、そのまま昼休みが終わってしまったりするのは日常茶飯事。
そんなぼっちの俺は安らぎを求めるため、高校一年の夏休み、二次元に手を出した。アニメ、ラノベ、漫画、ゲーム、エトセトラエトセトラ・・・
二次元というモノにどっぷりとハマって早一年、高校二年生となった俺はいつも通り、ぼっち生活を満喫していた。だから突如、全身が光り輝き、教室の床に大きな魔法陣ができていても驚くことはない。
・・・え?
そして現在。
目を覚ますとそこは俺の知らない世界だった。
「これで全員が目覚めましたね」
兵士達の中から一人の女性が現れた。
腰まで伸ばした黄金色と言っても差し支えない程の綺麗な金髪。青く透き通ったスカイブルーの瞳。雪のように真っ白な肌。そんな彼女に俺は思わず、見惚れてしまっていた。
恐らく、他の男子たちも同じだろう。いや、女子たちも俺達に向かって微笑みかけてくる綺麗な顔をしたこの女性に見惚れていた。
「こっちは随分と長い間待たされてるんですけどぉ?どっかのぼっちくんが中々起きなかったせいで」
イライラを隠せない様子で一人の男子生徒が声を上げる。そして俺の方をジロっと睨んできた。
おー怖い、怖い。
クラスの中心人物の一人だ。トップリア充たちとつるんでいるが、よく問題行動を起こしている問題児だ。クラス内でもかなり嫌われ者だが父親が井手杉財閥の代表取締役社長という日本三大財閥のトップであることから誰も逆らうことはできないのだ。
「すみません。私達でも皆さんを同時に起こすということはできなくて・・・」
目の前の金髪の女性が申し訳なさそうに謝る。
「ま、まあ誰にでもで、できないことはあるよな!」
井手杉はその様子を見て申し訳なくなったのか慌てながらそう言った。いや、鼻の下が伸びてるわ。これ下心丸見えだな。
「井手杉さんは優しいですね」
金髪の女性が俯いていた顔がぱあっと明るくなって嬉しそうにそう言った。・・・なんか、演技臭いな。
井手口は女性の言葉を聞いて、さらに鼻の下をビローンと伸ばしていた。井手杉チョロすぎ。よし。これからはチョロ杉と呼ぼう。まあ本人の前で言ったらボコられるから心の中でしか呼ばないけど。
「てかさー早く話進めてくんない?ここどこよ、で、あんた誰よ?」
俺の後ろから声が聞こえてきた。振り返って見るとそこには胡座をかいただらしない格好のいかにもヤンキーな女子生徒がいた。
俺のクラスの不良グループのボス。制服を規定より大幅に違反していて流行なんか知らんけど金髪の女性とは対象的にガサツに纏めたような金髪。耳には派手なピアス。学校には週に2日ほどしか来ていない。
俺の中でこいつとは絶対に関わりたくないわーランキング堂々の一位だ。
「申し遅れました。私はアイリス=グラトリア。ミラーゼ王国の第一王女です。そしてここはミラーゼ王国の王城の地下深く、【召喚の間】というところです。」
「・・・」
うーん。わからんっ
情報が少なすぎる。誰かもっと聞いて!
え?お前が聞けって?無理無理、話しかけるのすらおこがましい。
「つまり、私達は召喚?されたというわけですか?」
遠慮気味にそう聞いたのはうちのクラスの委員長の
「はい。そうですね。貴方達は私達の手によって召喚されました」
俺達の中でざわざわと騒ぎ始める。
それもそのはず、いきなり目が覚めたら異世界に召喚されていましたなんて信じられる筈が無い。
「皆さん信じられていないようですね。無理もないでしょう。それでは皆さん、ステータスオープンと言ってみてください」
みんな、アイリスの言っていることをあまり理解できていない状態だったが素直にステータスオープンと呟いていた。
「なんだよ、これ」
井手口が困惑しながらそう言った。
「それはステータスと言うものです。この世界では必ず一人一つ持っているものです。総合力というものが力の強さを表します」
ステータスか。異世界っていったら定番中の定番だよな。俺は内心ドキドキしながらもステータスオープンと呟いた。
すると目の前にいきなり自分のステータス画面が現れた。
HP 105/105
MP 52/52
総合力 117 (+200)
攻撃力 26 (+50)
防御力 31 (+50)
瞬発力 22 (+50)
忍耐力 38 (+50)
スキル
鑑定LV1 身体強化LV1 視覚強化LV1 聴覚強化LV1 嗅覚強化LV1 HP自動回復LV1 MP自動回復LV1 全魔法耐性LV1 熱耐性LV1 麻痺耐性LV1 毒耐性LV1 苦痛耐性LV1 状態異常耐性LV1 恐怖耐性LV1 隠密LV1 暗視LV1 変装LV1 逃走LV1 回避LV1 精神安定LV1 気配探知LV1 集中LV1 予測LV1 炎魔法LV1 水魔法LV1 氷魔法LV1 雷魔法LV1 光魔法LV1 風魔法LV1 土魔法LV1 毒魔法LV1 闇魔法LV1 精神魔法LV1 治療魔法LV1 空間魔法LV1
・・・どうなんだろう。さっぱりわからん。
《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV1』が『集中LV2』になりました》
うおっ!?
なんか脳の中に棒読みお姉さんの声が聞こえたんだけど!なになにスキルのレベルが上がったの?
そして俺はステータスをもう一度確認する。
集中LV2
他のスキルがLV1の中、『集中』というスキルだけがLV2に達していた。
早すぎない?ちょっとステータスを見てたら上がっちゃったよ。まあ別に高くてなんぼなんだと思うんだけど・・・
「なーなーお前の総合力なんぼだった?」
井手杉が男子生徒の肩を組んで、威圧感を出しながらそう言った。
「い、井手杉くん!?えっと232だったよ」
男子生徒はビクつきながら恐る恐る答えた。
「雑魚ぉぉ俺より200も下じゃん。弱すぎぃウケるんですけどー」
男子生徒はあははと笑いながら当たり前だよとか言ってるが、握り締めた拳はぷるぷると震えていた。
ドンマイ。名前も知らない男子生徒くん。君の存在は無駄じゃなかったよ。だって君のおかげで俺がどのくらい激ヨワなのか教えてくれたからね!しくしく
「これでわかってくれたでしょうか。ここが皆さんが住んでいた世界とは別の世界だということを」
「わかったけどよぉなんで俺達が召喚されたんだ?」
「大きな力を感じ取ったからです」
「大きな力?」
「はい。皆さんがいたあの空間に私達の救世主になれる程の大きな力を感じとったのです!」
アイリスは興奮気味にそう答えた。
「それ、俺かもなーぎゃはは」
井手杉は自分によっぽどの自信があるのかそんなことを呟いていた。
「・・・かもしれませんね」
ちょっとアイリスさん!間があったよね!間が!絶対、井手杉じゃないよね!
そんなことも気づかずに井手杉はへへへっと浮かれていた。
「あのさーひとつ聞きたいことあるんだけどー」
峰が大きな力なんてどうでもいいといった感じでそう言った。
「なんでしょうか?」
「未央達は何処にいんの?」
未央とは峰グループの中の一人でいつも峰の後ろにひっついている女子生徒だ。
確かにいない。ていうか他にもここにいない生徒がいる。ざっと20人。クラスの半数がこの部屋にいない。
「言い忘れていました。40人だと人数が多すぎるので2グループに分けてもらいました」
「へーそういうこと。じゃあ未央達もこの世界に来てるってわけ?」
「そのミオさんという方はどなたか存じ上げませんが来てると思いますよ」
「じゃあ私もそっちのグルに入れてよ」
「できません」
アイリスは即答した。
「はあ、なんで?」
峰が納得ができないと威圧をこめた口調でアイリスを睨んだ。まさに強者の目だ。もし、その目が俺を捉えていたら蛇に睨まれたノミみたいに固まってしまっていただろう。
怖ぇー峰様怖ぇー
だがアイリスはそんなこと、意に介さないで
「できないものはできないのです」
そう言った。
その瞬間、俺達のいる空間が酷く冷え切ったような気がした。いや、本当に冷えたのかもしれない。そう思えるほどにアイリスの放つ何かが恐ろしく感じた。
「わ、わかったよ。このままでいいよ。このままで」
納得はできていないようだったがドラゴンに睨まれた蛇みたいになってしまい、飲み込むしかできないようだった。
怖ぇーアイリス様怖ぇー
「わかってくれて嬉しいです」
アイリスはさっきの雰囲気はなかったかのように明るく微笑んだ。
かわええーアイリス様めっちゃかわええーけどそれが怖ぇー
「あ、あの!私達はこの世界で何をすればいいですか?」
大森が恐る恐るそう聞いた。
「そうですね。話さなければなりません。なぜ私達があなたがたを召喚したのかを」
空気が変わった。
「ミラーゼ王国は今、崩壊の危機に迫っています。この世界には多くの国が存在します。人族の国のミラーゼ王国、獣人族の国、フランチェス獣王国。エルフ族の国、レミゼ妖精国。魔族の国、ガルダムルド魔国。他にも数々の国はありますが、四大国と呼ばれているのはこの四国です。この四国は全て対立しており、日々戦争を繰り広げています。手を取り合うことはない。誰もがそう思っていたはずなのですが・・・近頃、ミラーゼ王国以外の三国が同盟を組み、私達、人族の住む国であるミラーゼ王国を滅ぼすという噂を耳にしました」
アイリスの顔が暗くなった。
「ミラーゼ王国の崩壊が免れることはない。私達はすでに諦め状態でした。一国ならまだしも、三国同時となると、勝てる可能性はほぼゼロに近いからです。ですが、先日、古い歴史を持つレロミア大図書館というところで一つの書物を発見しました。その書物にはミラーゼ王国の王城の地下に【召喚の間】という異世界からの勇者を召喚できる場所があると記されていました」
顔をぱぁっと明るくする。
表情豊かですなぁアイリスさんは
「そこから私達は異世界の勇者様方を召喚させるために日々、研究を続けました。いつ、攻めてくるかわからない三国にビクビクと怯えながら・・・そして、今!研究が成功し、勇者様方を召喚することに成功しました!どうか、お願いです!私達の国を救ってはもらえないでしょうか!」
そう熱弁して、アイリスは深く頭を下げた。それを見ていた兵士達はぎょっと驚き、やめてくだされ。とか言っているけどアイリスは頭を下げるのをやめなかった。
「いいぜ!俺がこの国を救ってやんよ!」
井手杉が威勢よく、そう言った。
俺達じゃなくて、俺がって言ったのは引かっかるけどな!それに続き、俺も私もと次々と名乗り出てきた。
それを見たアイリスはありがとうございます!とまたも深く頭を下げた。
・・・色々、気になるところがある。
なぜ、今まで対立していた三国が同盟を組んでこの国を滅ぼそうとしたのか?
なぜ、崩壊寸前の今になってそんな重要な書物を発見したのか?
だがそれを俺が口に出すことはない。いや、無理でしょ。こんな助ける気満々の井手杉に向かってノミ同然の俺が言えるわけ無いでしょ。あはは
「それで今から勇者様方にはダンジョンに入ってもらおうと思っています」
ダンジョンか。うん、これも定番だね。あれでしょモンスターとかがうじゃうじゃいるところ。そこでレベルアップとかするんでしょ。
「心配しなくても大丈夫です。難易度の低いダンジョンとなっておりますので勇者様方なら余裕で攻略が可能でしょう。さあこちらへ来てください」
あーもう、行くことになってんのね。まあ別にいいんだけど。
そして俺達は【召喚の間】という部屋を出て、階段を上がる。暫くすると新しい部屋が見えてくる。先頭のアイリスがその部屋の扉を開ける。
その部屋は召喚前に俺達がいた教室ぐらいの広さの部屋で中央には俺達が召喚された時と同じような魔法陣が描かれていた。
「勇者様方はこの魔法陣の中に入ってください」
俺達は言われた通り、ぞろぞろと魔法陣の中に入っていく。魔法陣の外にはアイリスと兵士達が取り囲んでいる。
「それでは転移を始めます。皆さん、頑張ってください」
え?俺達だけで行くの。サポート的な人はいないの?・・・いなさそうです。
「おう!余裕でぶちのめしてやるぜ!」
「楽しみです」
アイリスがそう言ったのと同時に俺達の身体は光に包まれた。どうやら、もうすぐ転移するらしい。
ん?なぜか兵士達が俺達を見てクツクツと笑っている。何か可笑しいことでもあるのか?
「それでは逝ってらっしゃいませ。
アイリスは小さな声でそう言った。その言葉は『視覚強化』で耳が良くなった俺にしか聞こえなかった。
そして俺達は光と共に消えた。
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