風の通り道
サワワサワワ
「いい風ね、でもなんだか残念だわ。」
こんなにいいところなのにもったいないと思った。
最寄りの駅から片道二時間もかけて山道を登ってやっとたどり着いたのだ。
「この別荘ももうじき処分しないとね。」
「本当にする必要あるのかしら、何も取り壊さなくたっていいじゃない。」
「駄目よ、貸そうにもお客さんは見つからなかったし、ここの管理費だってバカにならないのよ。」
山の上だけあって、景色は最高。遠くには海も見える。
山道に車を止めて玄関横の草が生い茂った細い道をくぐるとそこには小さな庭がある。
私はこの庭が好きで、休暇を取るたびにこの別荘を訪れるのだった。
先ほどから会話している相手は妹で、この別荘の行く先を姉妹で話し合っていたのだ。
「お姉ちゃんが残したいのなら否定はしないけど、私はお金出せないからね。」
「いいのよ、出さなくても。私はおじいちゃんの代からあるこの別荘が好きなの。それに、ここを私の家にすれば負担は減るわ。」
「え?冗談でしょ?お姉ちゃん、仕事はどうするのよ。都会まで特急列車を使わないと出勤時間に間に合わないんじゃないの?」
「確かにそうなんだけど、それでも私はこの別荘がいいの。今の職場が無理そうならこっちに引っ越してきてなにか始めるつもりよ。」
「相当意志が固いのね。じゃああとは任せるわ。私はもう帰るからあとはよろしくね。」
そういうと妹は道路の車を走らせ、山を下りて行った。
「さてと、どうしようかしら。」
庭に出て考え事をしていると、涼しげな風が吹いてきた。
「わ~きもちぃ風。」
私は庭の机で書類を作ることにした。
ヒュウ~ ワサワサ
「いい風ね。」
風は書きかけの書類をいたずらに奪い去っていったのだった。
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